第二十三話「帝国の人々」.4
遺跡の入り口に付くと、確かに大勢の観光客が詰めかけていた。
ドヘネットCは温暖な機構であり、特にこの惑星首都ドヘイディアは亜熱帯気候に属しており、一年を通して温暖湿潤であった。ボクのようなテラニアンはもちろん、ガイドーらクロビアン人も特に好む気候だ。
「いつ連邦との戦争の最前線になるかもしれないっていうのに、案外こっちはこっちでお気楽なのね」
『戦争が長く続きすぎて、停戦状態が当たり前になりすぎたんだ。武器商人や傭兵ならともかく、一般市民で戦争を心から望んでいる人なんて、ほとんどいないんだ』
〈では入るとするかの。ここからは帝国の言葉で話すのだぞ〉
ルミスの案内で列に近づき少し待つと、ようやくボクらの番になった。
遺跡の中は広い通路が伸びていて、その中をロープでコースを作っていた。クワハウの遺跡の機能は停止しているのか、外付けの明かりに照らされ、石造りのようでありながらその中には様々な機械類が存在している。
『ホチャー、遺跡の状態は?』
【スリープモードに入っていて、こちらからのアクセスは受け付けていないようです。しかし、特定周波数にノイズを確認しました。おそらくクワハウの友へのメッセージかと】
『解析できる?』
【もうできています。周波数さえ合わせれば、暗号化もされていないシンプルな座標です】
その特定周波数というのが、クワハウが普段使う通信領域なのだという。つまり、クワハウ人が普段の通信をここで行おうとすれば、自動でデータを受信できるというわけだ。
「座標ってことは、この遺跡の?」
『そうみたい。もう少し進んだ先だ』
〈……道なりに行けばよさそうだの。他の客から少し距離をとりつつ進もうか〉
少しだけ歩く速度を抑えたボクらは、遺跡の中を見渡しながら周りに気を配る。
〈この遺跡のことは、我らも知っておった。だが村から距離は離れておったから、手を伸ばすことはなかった。それがよもや他の星から来たものに先を越されるとは思っておらんかった〉
『君たちも、遺跡の発掘をすることはあるの?』
〈年に数度。季節の節目、成人の儀、死者への手向け、その三度のためにのみ、我らは遺跡に潜る。このように、観光地にしようなどとは思いもつかぬ〉
遺跡の内部は、居住区のように思えた。コンゴーと一緒に過ごした場所に似ている。
けれど、劣化度合いが段違いだ。あちらも森に侵食されつつある場所だったけれど、ホチャーやコンゴーの手入れが行われ、問題なく機能していた。
『ここは、たぶん居住区だったと思う。クワハウがどうしてこの地を離れたのかはわからないけれど、クワハウは案外気まぐれなところがあるからね』
「岩と一体化しちゃってるのは、経年のせい? 起動できたら、いろいろ面白いデータ拾えそうなんだけどなぁ」
アナトはわくわくした様子で言うけれど、ホチャーですらアクセスできなかったのだ。多分物理的に不可能な状態だっただろう。
『動力源となるリアクターを、たぶん帝国は抜いて行ったんだと思う。それが父さんたちのリアクターコアを使って、力を与えた』
けど、座標は送られてきた。多分、予備動力がまだある。
〈クワハウたちは、なぜいなくなってしもうたのかな〉
『きっと、それは多くの星の、クワハウの友が抱えている疑問だと思うよ』
周囲にソナーを飛ばす。他の観光客とは、十分距離が採れている。近づいてくる人はいるけれど、その速度なら見られることもない。
送られてきた座標に、辿り着いた。
『かつてのクワハウが何を望んで、そして何を思って、何を残したのか。確かめに行こう』
壁に手を触れれば、ボクの胸部のアクシャハラ・リアクターが反応を示した。
まるで最初からそこにあったかのように、扉が出来上がる。
『行こう』
ボクたちは、壁の奥へと足を踏み入れた。
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