第十九話「大気を超えて」.3
「いつ帰ってきてもいいからね。二人とも、気を付けて行っておいでぇ!」
「アナトねーちゃん、げんきでねぇ!」
「おみやげまってるよー!」
「しょうきんくびとっつかまえたらし送りしてねー
窓の外、手を振るマザーの傍らには、教会で預かっている子どもたちが手を振っている。
「もう、元気な子たちなんだから」
『素直なんだよ。手を振ってあげて、発進はボクらでやる』
【エンジン出力上昇。タウホチャー号、全システムに異常なし。飛行準備完了】
『離陸スラスター起動。アンブロス・ジェネレーター出力最大。プラズマジェット点火』
【点火】
『タウホチャー号、発進!』
この名前にも、いつの間にか慣れていた。後方のツインプラズマジェットが点火。機体はゆっくりと空中に滑っていく。
この星とも、しばしのお別れだ。
***
炎のような赤い大気の壁を越えて、タウホチャー号は宇宙空間に飛び出した。
静寂と暗闇の支配する、宇宙空間。まだ星の重力圏からも出られていないが、宇宙空間には出た。
『アナト、ベルトを外して』
「う、うん」
彼女はシートから体を離すと、わずかに浮き上がる。
ボクは宇宙で生まれて、宇宙で生きてきたから、重力に慣れるよりも、むしろどうやって赤ん坊のボクに筋肉を付けさせるかが、問題になったらしい。
ボクは物心ついたころには、母さんと一緒に筋力トレーニングをしたり、電気を送って筋肉を刺激したり、人工重力空間でしばらく過ごしたり。
そもそも、人工じゃない重力を感じるのは、惑星b-Anに行った時が初めてだ。
『大丈夫。すぐ慣れる。体を大きく振らないで、足の裏を地面に向けて』
「ぞわぞわする……重力がないのって、こんなに不安なんだ」
『この船に人工重力装置はないからね。代わりに』
彼女の首元にあるアクシャハラ・フィールド装置を起動する。紫の光が彼女を包み込むと、ストンと地面に降りる。
「え? なんで」
『アクシャハラ・リアクターの重力軽減効果を逆転させたんだ。足元方向へ重力負荷を与えたから、これで地上にいるみたいに動けるはずだよ』
ボク自身もフィールドを展開。浮かんでいた体を地面に下ろす。
『もっと大きい船なら、人工重力装置くらい搭載できるんだけど、この船の大きさじゃあちょっと無理だから』
「トレーニングルームも設置できないし、宇宙で生きるって大変なんだね」
『アクシャハラ・フィールドがあれば普段通り過ごせるし、もしもの時は解除すればいいから』
「本当にクワハウの技術っていうのは、規格外ばかりだね」
特に地球人型ヒューマノイドは、重力の影響を受けやすい。本の数日の宇宙空間活動でさえ、身体に影響を及ぼし始める。
そのため、小型船舶でも最低限、人工重力装置が詰める大きさが求められる。
タウホチャー号はその最低限より更に小さく、居住空間、整備室、諸々の設備を詰め込むと、そんな余剰スペースはない。
「でも、アクシャハラ・フィールドがあれば問題ないってことね」
『フィールドの範囲を広げれば、船全体をカバーすることもできる。ホチャー。回収したリアクターコアを、船に接続。同時にアクシャハラ・フィールドを展開し、船内重力を維持して』
【承知しました。レイハガナを量子空間内から回収し、こちらでメンテナンスデッキへ格納しておきます】
『頼んだ』
量子空間に格納されているアーマーガンナーが、船の整備室へと移っていく。
その中に格納されていたリアクターコアが船に搭載されると、アンブロス・ジェネレーターでは発動できなかったフィールドが出来上がる。
『さ、これで重力を気にせず旅が始められるね』
操縦席に戻ると、ワープドライブ装置を起動させた。
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