第十八話「発進準備」.3
その言葉は、自分の秘密を打ち明けた時、逆に心配されてこう返した。
今は、もっと多くの意味を含んでいる。
『君が本当に望んでいるのなら、ボクもマザーもそれを尊重するけど、無理をしてほしくないだけだよ』
「フィオガ……」
『君が望むことに、少しでも手を貸したいと思うのは、友達として変かな』
「友達……か。うん、フィオガはまだ、そうだよね」
彼女の肩の力が抜けた。ふと、ホチャーの言葉を思い出す。
多少強引な方が乙女心はなんとか。
「あのね、フィオガ」
『――アナト、答えを聞く前に、一ついい?』
「え? うん」
彼女に答えを促す前に、まずボク自身が何を望んでいるのか示さないと。彼女の言葉だけを聞いているは、きっとフェアじゃない。
『改めていうけど、ボクと一緒に来てほしい。ハンターナイト稼業で、危険で、大変だと思うけれど。それでも、君と一緒に旅をしたい』
務めて丁寧な言葉で、はっきりとした内容で、彼女に伝える。
改めて協力を申し出るのは気恥ずかしいけれど、ボクの願いは伝わったはず。
『答えを聞かせてほしい。君はどうしたい』
「ちょっと、それは卑怯だよ」
『え?』
【タイミング悪いですよ、フィオガ】
『君がそうしろって言っていたじゃないか?』
AIからの苦言に困惑する。何が問題だったのか。
アナトに視線を戻すと、彼女はため息をついてから、少し微笑んだ。
「アタシは行くよ。宇宙に出る。ずっと夢見てたことなんだもの」
『わかった。マザーには――』
「一緒に言いに行きましょう。あなたの勝利記念と、娘の独り立ち記念なんだから。きっといつも以上に、喜んでくれるわ」
かつては、マザーもハンターナイトとして活躍していたんだと思う。
ならば、宇宙の厳しさもよく知っているはず。けれど反対はしないと思う。彼女は、アナトが望む道を進むのなら、歓迎してくれるはずだ。
たとえその道半ばで倒れても、行くべき道を進んだと称えてくれる。
もちろん、ボクがそんなことは起こさせない。
『マザーにもちゃんと伝えたいことがあるんだ。グラフやあの酒場の店主さんにも、あいさつしたいし。ちょっと時間かかるけど、いい?』
「もちろん。ていうか、お世話になり度ならアタシのほうが圧倒的に長いんだから、あいさつ回りしたいのはアタシのほうだよ」
そうなると、他にもボクが知らない彼女の知り合いが多そうだ。
『ホチャー、彼女のモノホイールを詰め込んだり、部屋を区分けするのに船を改造したりで、どれくらいかかる?』
【ご心配なく。あなたが使っていないだけで空き部屋はありますし、レイハガナ整備用のデッキにスペースがあるので、そこに置いておけば大丈夫です。もしもの時は内部構造を改築するので、その時は三日ほど】
『じゃあ、最長三日の待機だね。アナト、まずはマザーに話をつけようか』
「うん。ついでに手伝いましょう。三人でやったほうが、ご飯まで速いからね!」
当面の目的地を定めるものはない。それでも、二人で一緒に行くことだけは決まっている。
どこへ行き、何をするのか。この三日間で決まるかもしれないし、決まらないかもしれない。
「あー、あいさつ回りって、なおさらなんか結婚でもするみたいな雰囲気出てきたなぁ」
『フィオガ、行かないの?』
「あ、うん、行く、すぐ行く」
なかなか机から立ち上がらなかった彼女に呼びかけてから、ボクらはキッチンへ向かった。
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