第十八話「発進準備」.1
ガッソーたちの逮捕で潤ったボクの財布は、多少の食費の出費をもろともしなかった。
むしろ二人に感謝のご飯を振舞えるのなら、とアナトが持ってきたものは何でも購入籠に入れていく。
『そもそも、こうして買い物するの初めてなんだよね』
「え!? それで今までどうやって?」
『ずっと船内生活だから。自販機はあったけど』
それも、お金を入れなくていいものだったし、買い物という行為自体が初めてに等しかった。父さんたちと一緒だったころは、ほとんど栄養食だし。
「ん-、じゃあアテクシの得意料理から一つ、アナトの好きな奴から一つ……」
「フィオガって、本当にいろんな初めてが多いよね。それはそれで、面白いんだけど」
ボクも彼女たちから多くの初めてを貰えることが嬉しかった。ボクを想って物事を考えてくれるのが、何より嬉しい。
他人にお金を浪費してしまうヒトが宇宙にはいる。そんなヒトたちの気持ちが何となくわかったような気がした。
きっかけさえあれば、ヒトは簡単に他者へ財布を渡せるのだ。
「あんまりなんでもかんでもあっても、消費しきれないわよね。いや、航行中の食料と思えば多いほうがいいかしら」
『タウホチャー号にはちゃんと冷蔵庫ついてるから、大量に余っても気にしないで』
もとより食料は詰め込むつもりだった。ボクは非常食だけではなく、調理済み食料やらジュース、冷凍食品なども籠に詰める。それを聞くと、マザーは楽しそうに手に持った食材やらなんやらを加えた。
「こんなに値段気にせず所かまわず買えるなんて、久しぶりね」
『普段はもっと慎重に考えてるの?』
「……ぶっちゃけ、今孤児院の子たちのご飯の分も計算して買ってるから、たぶんあんまり余らないわ」
『マザーは、食費計算大変そうだね』
彼女は曖昧に笑った肩をすくめる。アナトも出身だと言う教会の孤児院。決して裕福というわけではないが、ハンターナイトの仕事の斡旋もあって孤児院は問題なく経営できているのだろう。
ただ、節制を続けること自体悪いことではない。
『ボクも薬やメンテの代金は確実に確保しておかなくちゃ』
必要なものは必要な分、きちんと確保しておく。今のところ体のメンテナンスは困っていない。必要な素材と設備は船の中に確保できている。
『マザーは、ハンターナイト教会のマザーだけど、ハンターナイト自体はあまり好きじゃない?』
「あら、どうしてそう思うの?」
『あなたがやめているから。ハンターナイトとして、多くの業績を上げてきたはずでしょう?』
「わかる? 調べた?」
『警察からミスターって呼ばれている人が、単なるマザーというだけだとは思えないし、教会のマザーになれるほどなら、相当な実力がある証拠だし』
「よくお分かりで」
やはり、マザーも元はハンターナイトだったらしい。そんな彼女は、今は孤児たちの母。
『人生って、いろいろあるんだね』
「そうよ。あなたとあの子が出会ったように。不思議な縁ときっかけでできているの」
ポンッ、とマザーの手が頭を撫でた。肉球のない、普通の生の手。毛皮はなくても、なんだか暖かく、くすぐったく感じた。
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