第九話「一つの手掛かり」.3
『ハンターナイトってみんなこんなのなの?』
「そうじゃない人を一人知っているけど、あれはあれで特別だからなぁ。ま、底辺はこんなだと思っておいてよ」
「誰が底辺ハンターナイトだって!?」
アナトの言葉に数人が反応する。直接言われたわけでもないのに怒るのは、その自覚があるからだ。ここで昼間から酔っているハンターナイトが、まともにスペースパイレーツ相手と戦っているのか、疑問に思えてくる。
装備は連邦軍標準装備よりグレードを二段階ほど落とした、民間でも揃えられる最低限レベルが多い。
「あなたたちだってハンターナイトの端くれでしょう? この周辺のスペースパイレーツが惑星内マフィアと取引しているって情報、掴んでないの?」
「あ? そんなのいつもやってんだろ。人員、武器、奪ったもんの品卸、いつも過ぎていちいち取り合う暇もねぇ」
「うーん、これが底辺ハンターナイトの実情なの」
『癒着ってやつかな』
「この場合は怠惰かな。さすがにスペースパイレーツからお金をもらって被害をもみ消してる奴なんていないだろうし」
ちらりと視線を向けると、一人二人視線を逸らした。いるじゃん、とは声が出ていたら突っ込んでいたと思う。
『そもそもさ、なんでスペースパイレーツはマフィアにリアクターコアを流したんだろう。何かの実験だったのかな』
「どうだろうね。ねぇ、最近、惑星内でもいいんだけど、妙に出力の高い武器を使うマフィアとかパイレーツと会ったって人いない?」
アナトの問いに、店内がざわつく。どうやら、心当たりのある者は多かったらしい。
そういえば、確かに、あれとかこれとか。それぞれ話し合う。
リアクターコアからエネルギーを供給できるまで技術が発展しているカどうかはわからない。ただもしわずかでもエネルギーを取り出せたら――。
『スペースパイレーツの技術力は、やっぱり侮れない』
「研究して供給しているのが帝国だもんねぇ。辺境の武装集団なんてレベルじゃないね」
「なんだよ、スペースパイレーツの奴らとドンパチやりあおうってのか?」
「あたしじゃなくて、こっちがね」
アナトから指をさされて、僕は頷く。
懐疑的なハンターナイトたちの視線が、全身至る箇所に飛んでくる。
「こんなガキがハンターナイトとはねぇ、コーエンのヤロウも耄碌したか?」
「ガキと遊んでる暇はねーんだ帰りな」
「いやぁ、でも、結構好み。白い髪とかよき」
三者三様の感想が漏れてくる。大半はこちらを侮っている。ヤージとキッハーもそうだったけれど、軍以下の装備で何を誇るのだろうか。
もしかしたら個人戦闘能力なら軍の精鋭すら打ち破るものがいるかもしれない。コンゴーのコレクションで見た古い賞金稼ぎの話では、軍隊を相手取るほど強靭な個人が描かれていた。
「それで、スペースパイレーツとの交戦はどうだったわけ?」
「はっ! 教えてほしけりゃ払うもん払いな。ま、おまえみたいなガキじゃ素っ裸になったって払えるもんはねーだろうけどな」
帰ってきた言葉に、店全体で笑いが起きる。アナトは拳を震わせながら、椅子から飛び降りる。彼女を馬鹿にしたハンターナイトの前に立つと、その腕を振り上げる。
「いいからさっさと答えて!」
振り下ろした拳が木製の机を叩き割る。忘れていたけれど、彼女は大人数人を抱え上げるくらいに力持ちだった。
「アナト、机の弁償代は……」
「こいつにつけておいて!」
「だそうだ。さっさと話すことがあったら話したほうがいいぞ」
店長は彼女の行動を咎めるようで咎めず、むしろ詰め寄られたハンターナイトに言葉を促す。
「す、スペースパイレーツたちはな、バックパックと接続したブレードを使ってやがった。体表にも同じエネルギーが流れていて、俺のガトリングが全部弾かれやがった!」
「お、俺も会ったぜ! あいつらと白兵戦した時似たようなエネルギーで守られてやがった」
「色は?」
「「紫……」」
その言葉に、アナトはボクを見た。紫、アクシャハラ・リアクターのエネルギー光。むろん、他の可能性もあるけれど。
最初に口を開いたハンターナイトを見る。右腕にサイボーグ手術を施され、ガトリングの内蔵された武器腕。三連装のそれは弾丸の大きさがボクの拳ほどあるのではないかと思えるほどの大口径だ。
実弾を弾ける体表フィールド。携帯アンブロス・ジェネレーターで発生する防御フィールドで防げる口径じゃない。
『そいつらが、たぶん帝国から技術提供されていたんだと思う。そいつらを追えば、リアクターコアに辿り着ける』
「うん、ねぇ、そのパイレーツは今どこに?」
「そん時は連邦軍の駐留部隊が来たから逃げていきやがったさ。この街から東に向かったところにある遺跡に向かってやがる」
「各地のパイレーツもあわただしい。連邦軍もピリピリしてやがるからな」
「パイレーツが遺跡漁りするなんてよくある話だろう。今回はずいぶんと規模が大きいみたいだがな」
新装備を導入したパイレーツに、旧式実弾武装のみのハンターナイトたちでは太刀打ちできない。従来ならば拮抗していた戦力差が、防御フィールドを導入したことで覆された。
なら……。
『その遺跡に行こう。アナトも一緒に来てくれる?』
「もちろん。店長お騒がせしました。これでみんなにお酒奢ってあげて頂戴」
アナトは数枚のクレジットを取り出すと、カウンターに置いてボクの手を取った。多分、この店にいる全員が安酒を三杯ずつ飲んでもお釣りがくる額だ。あとで返さないと。
「なんだか、冒険らしくなってきたわ!」
ただ彼女は、妙にウキウキしていた。
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