第八話「街を見下ろして」.3
すぐに情報が集まることはないだろうと思ったボクは、アナトの案内で首都とその周辺を案内してもらった。
足元ではエンジン音が響き、風を切って首都近辺の山道を疾走する。
「え、じゃあフィオガ、有人惑星に降り立ったの初めてだったの?」
『同じ地球人型の惑星って意味ではね。ずっと、両親や研究者の人と一緒に船暮らしだったから』
「そっかぁ、むしろあたしは宇宙にも出たことがなくて、この星から離れたことないなぁ」
『離れようと思わなかったの?』
「思っても船がないよ。この星に来るのはすごく簡単だけど、出るのはめちゃくちゃ厳しいんだから」
そこまで考えていなかった。情報が集まりそうになければ適度に賞金を稼いで離脱しようと思っていた。もしかしたら、すこし面倒かもしれない。
ふとそう思った時、彼女の一輪型電動車が停車する。止まった先にあったのは、山の頂上の休憩所。小さなベンチと屋根があるだけ。
ただ、先ほどまでいた街全体を見渡せた。
――うわぁ、視界が広い。
『街が一望できるね。教会も見える。こうしてみると、ずいぶん大きいな』
「あの街の平和の象徴だからね。無法地帯にならない、最期の砦だから」
どこか誇らしげに彼女は言う。すでに修理が始まっている。遠くからでも足場がうっすらと見えた。
ボクの船も、小さくとも隣にしっかり鎮座している。
「フィオガの宇宙船は直接教会のポートに乗りつけたからね。船を持たない民間人がチケットを買うにも、出星手続きをとるにも、結構金がかかるのよ」
『この星は、犯罪者を受け入れて、逃がさないようにする役目もあるんだね』
だから手続きが厳しくなる。余計な金もかかる。そういうことか。
『なら大丈夫。この星を離れるとき、一緒にくればいいよ』
「いいの!? その、本当にあたしたち、行きずりの関係ってやつだよ?」
【行きずりにしては、彼女はかなりフランクな態度ですね】
『それは彼女のいいところだよ、ホチャー』
アナトには見えないようにホチャーに応えておく。
『行きずりでも、今はもう友達でしょ』
「……なんか、助けられてばっかだね、あたし」
『アナト?』
ベンチに座って、彼女は街を眺める。そこに、寂しさか、悔しさを感じた。
「あたしもね、昔はハンターナイトになろうとしたことがあったの」
『アナトが?』
「あたしだけじゃない。マザーの子どもたちは、誰もが一度はそう思うよ。でも、ダメだった。ハンターナイトになるには、地球人の肉体は弱すぎる。最低でも軍の旧式モデルレベルのアーマーが必要なの。でないと他の種族に勝てないし、宇宙ではやっていけない」
『……そうだね。ボクも普通なら、ハンターナイトになんてなれなかった』
ボクは、普通の人間ではない。遺伝子改造を施した、生物兵器と言ってもいい。コンゴーに罪悪感を背負わせてまで、この力を手に入れた。
「両親も知らない、苗字も知らない。マザーと、一緒に暮らしていた子たちだけが、私の家族で、兄妹。だからこの星から出ようとして来なかったのかも」
『家を離れる前からホームシックになっていたってこと?』
「う、うん……」
認めるのが恥ずかしいのか、若干頬を赤くして俯く。
それだけ彼女があの教会を大切に思っているということだ。
『やっぱり、この星に残りたい?』
「……考えさせてほしいかな。せめて、あなたがこの星を離れるまでの間」
『まだしばらく時間かかるだろうから、ゆっくり考えてよ』
彼女を守る必要があるのは確かだ。だからと言って、望まずに家族と離れ離れにさせてしまったら意味がない。
せめて、彼女が憂いなくこの星を飛び出せなければ。
【そこは俺についてこいとか、一緒に行くぞって強引さを見せるべきですよ、フィオガ】
『そんな事したら迷惑なだけじゃないか』
【ちょっと強引なくらいが、乙女心にはちょうどいいんです。わかってないですねぇ、フィオガは。まだまだ子どもということですね】
なぜかホチャーに馬鹿にされた。意味が分からない。
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