第八話「街を見下ろして」.1
ハンターナイト教会を出発したボクらは、街に出ていた。
この惑星ヴァーグスの最大都市であり、教会、宇宙港など主要施設が集中するこの街は惑星首都だった。その分厄介な人種も多く、クロビアン人でなくとも宇宙海賊の姿はそこら中にあった。
『夕方とは言えあんなにも堂々と賞金首が酒を飲んでいられるって、すごい光景だね』
「視線を向けちゃだめよ。奴らに仲間意識はなくても、同族意識だけはいっちょ前だから。騒ぎを起こすと周りみんなが敵になるの」
アナトは厚手の服のパーカーを被り、顔と視線を隠す。ボクもそれまでインナースーツ姿では悪目立ちするとマザーからコートを貰った。乾燥しカラカラの熱気に溢れたこの街でも平気な、通気性と耐熱性を持つコートだった。
『呼吸器がないと、辛いぐらいだ……』
「教会の周りは整備されているし、工場も少ないけれど、この辺りは多いものね」
町の区画一つを移動するだけで空気ががらりと変わる。肉体はクワハウの技術で鍛えられたと言っても、内臓器官は未熟な部分がある。特に体内のナノマシンとレイハガナのアシストシステムを併用している下半身は、自力だけではまだ動かない。
少なくとも、有害な外気を体内に取り込むことだけは避けたい。
「この工場区画は、公認マフィアのプブリッコ一家が占めている部分なの。連邦政府から工場の管理運営を任されていて、帝国との接触はあるはずがない人たちよ」
『公認マフィアなんているんだ』
「もともとは自警団や自治政府、現地民の自己防衛から生まれたものだからね。それこそ、もう何千年もの歴史を持つマフィアだっているのよ」
コンゴーから見せてもらった資料だけではわからないことがある。公認マフィアなどというものが住民からどう受け入れられているのか。公認ではないマフィアとどう暮らしていくのか。
それは現地に住む者でなければ、実感しえないことなのかもしれない。
「公認マフィアの敷地だから、連邦警察もあまり簡単には踏み込めなくてね。年に数回一斉検挙とか行われるし、協力もするんだけど。カビって掃除してもすぐにまた生えるみたいに、すぐに戻ってきちゃって」
『大変そうだね』
「大変なんてもんじゃないわよ。さ、工場の中行くわよ」
そういう彼女の足に、迷いはない。
『いいの?』
「うん。この工場の――というか公認マフィアのドンが、マザーの教会出身なの。時々遊びにだって来るんだから」
『なら話は聞きやすいね』
彼女の言う通り、アナトは警備をしていた大人たちから笑って受け入れられ、少し話せばボクも中へ招き入れられる。マザー・コーエンの教会が、どれだけこの街に影響力を与えているのかわかる。
その教会を襲撃してまで取り戻そうとしたリアクターコア。想った以上に、大きな取引が行われていたのかもしれない。
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