第九話 開戦
そろそろ戦闘シーンがどんどん始まりそうですね。
上手く書けるかなぁ。
「・・・そうか、わかった」
男は電話を切り、グラスに注いであるワインを一口、口に運んだ。
「今日も進展無しか?」
「あぁ」
「用心深いな、アンタも」
オリアンドロ。【ルーボ・フレッド】のボスである。傍にいるのはアベリア。オリアンドロの側近だが、前回蓮治が襲撃した時にはいなかった人物である。
「用心に越したことはない」
「そうか。・・・けどまぁ、アンタと出会って・・・3年か? 大した男だとは思っているが、そんなアンタが警戒するってのはよっぽどの人間なんだな」
「・・・奴は人間じゃない」
「! ハッハッハ! アンタがそれを言うか!」
「本当の話だ。お前も直に見たらわかる」
「・・・人間じゃないってのは、あれか? 見た目がこう、ウルフのように毛むくじゃらで、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)というか・・・」
「・・・まぁ、間違ってないかもな」
「バケモンじゃねぇか! 是非お会いしたいもんだ」
「嫌でも会える。今回、地下労働場から一人逃げ出した時から、あの時奴につけられたこの腕の傷が疼くんだ」
「・・・必ずアンタに辿り着くと?」
「そうだ。執念を感じる」
「確かに危険因子かもしれないが・・・天下のオリアンドロ様がビビりすぎじゃないのか?」
「お前は3年前の悲劇を知らない。あの時、ナルキスがいなかったら俺は神に許しを乞う時間すら無く殺されていただろう」
「・・・」
「今回、俺はやつらを迎撃する。跡形もなく消し去る。許しを乞い、俺に媚びへつらおうが、奴らの四肢をもいで狼に食わせてやる」
「おぉ、凄まじい意気込みだな」
「お前も力を貸せ」
「もちろん。楽しませてくれよ~」
一方その頃、空港では一人の男が欠伸をしながら空港を後にしようとしていた。
「ふぁ~あ。朝からずーっと見張りってのもしんどいぜ・・・」
気の抜けた独り言を呟きながら、駐車場へ向かう。道の角を曲がった瞬間、何者かの攻撃が、凄まじい速度で男の顎を打ち抜いた。脳が激しく頭骨内を暴れまわり、一瞬にして男の意識は遥か遠くまで旅立った。
正憲である。
「・・・☓☓空港近くの△△駐車場まで来てくれ。詳しい位置は送る」
『オーケイ』
誰かに連絡をし、待っていると、後ろから車が近づいてきた。正憲が居る目の前で止まると、すぐにトランクが開く。いつ縛ったのかわからないが、ぐるぐる巻にされた先程の男が乱雑にトランクに詰め込まれ、正憲は助手席へ乗り込んだ。
「6番ゲート入り口で二人が待っている。そこまで頼む」
「任せて!」
同じ時刻、取り残された葵と絵梨花はそわそわしていた。
「ひ、柊さんどこ行っちゃったんでしょうか」
「さぁ・・・待っててくれとだけ言われたけど・・・」
「怖いよ~・・・今回の内容が内容だから、か弱い女の子2人がお留守番なんて・・・」
「確かに・・・」
「・・・そういえば絵梨花さんってこういった海外案件って来たことあるんですか?」
「それがね、私も初めてなの」
「えー! いやでも、なんかホッとしました」
「基本は事務職だからね・・・国内ならまだしも国外は全然。・・・今回の件、私達は外部からの援護だから、実働隊の足は引っ張らないよう頑張らないとね。お互い期待されてるよ」
「そうですね・・・頑張ります!」
「うん。 ・・・と言っても、すでに色々と心配なんだけど」
時刻は21:17。すでに空は暗い上に、右も左も分からない地で待ちぼうけ。精神がすり減ってくる。
「下手に動いてもあれだし・・・待つしかないなぁ」
「うえ~ん」
すると一人の男が近づいてきた。
「お嬢さん方、何かお困りですか?」
「! あぁ、いえ。人を待っています」
絵梨花はイタリア語が話せる。といっても語学レベルだ。あまりにもクセが強いと聞き取れないかもしれないが、丁寧な喋り口調に少し安堵した。
しかし葵は、この男に何かを感じた。形容し難い、なんとも言えない恐さを感じた。
「見たところアジア系のようですが・・・観光ですか?」
「はい。友人が車を回してくれるので、待っているところです」
「なるほど。お困りのように見えましたので、声を掛けさせて頂きました。問題無さそうですね」
「お気遣いありがとうございます」
「最近物騒ですので、お気をつけて」
「ありがとうございます。気をつけます」
定型文のようなやり取りだが、葵は二人が何を喋っているかさっぱりだった。ただ、何を言ってるかわからない会話を聞き取ろうとしても無駄なので、その男の容姿をまじまじと見ていた。
20代前半。色白で細身。背は175cmくらいで顔はイケメン。服装はカジュアルな見た目。夏だから薄着である。深々と帽子を被っている。一番気になったのは、首元に見える一筋の赤い筋・・・。 傷だろうか。服で見えないが、胸元辺りまで伸びているようにも見える。
「!」
ふと男が視線をやる。そこにはこちらに近づいてくる1台の車があった。
「あれかい?」
「恐らく」
男はその車をじーっと見つめると、少し訝しげな顔をした。
「・・・そうか。じゃあ僕はここで。観光楽しんでね」
「ありがとう。あなたも気をつけて」
「サンキュー」
そう言うと男は立ち去っていった。それと同時に正憲を乗せた車が2人の目の前につく。窓が開き、顔を覗かせた女性は話しかけてきた。
「Hey!」
「あ、こ、こんにちは」
葵は驚きながらも日本語で返してしまう。
(しまった、もう夜なのに)
そこじゃない。
ふと、先ほどの男が去っていった方を見る。もういない。
「ふふっ、こんにちは!」
驚くことに相手も日本語で返してきた。まさかこの女性が今回同行してくれるもう一人の助っ人・・・。
その女性は車を降り挨拶を始めた。
「アキレア・柊と申します。宜しくね」
「ひ、ひいらぎ・・・?」
すると後ろから車を降りてきた正憲が言う。
「私の娘です」
「えーーーー!」
とんだハーフ美人である。葵も絵梨花も目が点だ。まさか正憲が国際婚とは・・・。
「アキレア、積もる話はあとだ。まずはホテルに向かおう」
「うん。後ろの荷物も運ばないとだし」
一行は車に乗り込み、ホテルへを向かった。
一方、黒く目立たない服に着替えた大男二人は、夜の街に繰り出した。目標は昼に見た路地裏だ。
「誠司は俺の100m後ろをついてきてくれ。何かあったら頼む」
「了解」
目標の路地近くまで来た蓮治は、迷いなく路地の中に入っていった。普通の路地・・・だが、進むに連れて何か、深淵に引き込まれているような雰囲気がある。
「・・・気色わりぃな」
そのまま蓮治が進んで行くと、裏路地からコロッセオが少しだけ見えた。
「・・・? 何もない・・・?」
コロッセオ近くまで進んではいるが、目新しいものはない。ただただ、闇が深まっていくのを実感しているだけだった。
「・・・ビンゴだと思うんだけどな・・・」
そう言いながら辺りを探索していると、明らかに人の出入りが激しい裏口の建物があった。
おもむろにそのドアを開けようとしてみるが、鍵がかかっていた。
「・・・」
すると中から声がした。
「誰だ?」
ビンゴ。蓮治は直感した。こんな夜中に裏口で待機している人間がいるなんて、普通考えられない。
「いや、すまない、遅れてしまった」
「遅れる? 交代はまだだろう」
カマ(・・)を掛け続ける。
「聞いてなかったのか? 予定が変わって21時に交代になったんだ」
「ほんとか? まぁ今ピリピリしてるしな・・・急な変更があってもおかしくはないが・・・」
「その通りでな、優秀な人材を集めているらしい。俺は外されちまったよ」
「なるほどな、上もよくわかってやがる」
「いつもの場所まで来てくれってことだ。だからここからは俺に交代だ」
「わかった、ちょっと待っててくれ」
そう言うと、ドアの向こうで鍵を開ける音がした。ギィっと音を立てて開いたドアの向こうには、相手から見ると明らかに組織の人間ではない男が立っている。
「! だ、誰だテメ・・・」
言い終わる前に蓮治は男の顎を打ち抜いた。糸が切れた人形のようにがっくりと地面に崩れ落ちた男を、元々座っていたであろうイスに座らせ、蓮治はさらに奥へと歩を進めた。
同タイミングで、ドアを入ったところで蓮治から連絡を受けていた誠司も、同じく路地に入り蓮治の後を追いかけていた。
小走りに目的地へ向かう誠司。
「・・・薄気味悪いな」
「そう?」
「!!?」
右耳である。右の耳元で誰かに話しかけられた。誠司は思わずその方向へパンチを繰り出した。しかしそのパンチは空を切る。
「・・・誰だ」
「誰だろうね」
暗闇の向こうから声が聞こえる。
「姿を見せろ」
「・・・」
暗闇から、色白の男が現れる。
「・・・」
「イタリア語、上手だね。いや、元はスペイン語かな」
「・・・一時スペインに、ボクシング留学をしていてな」
「ボクサー! いいね」
「何の用だ」
「こっちのセリフだよ。何をしてるの?」
「街中探索だ。別に構わんだろう」
「それにしてはえらく小走りだったけど」
「観光時間が短いからな」
誠司は気づいていた。恐らく【ルーボ・フレッド】の一員。それに、開花している。
「ふーん。でもさっきも似たような格好してる人がここを通ったんだよね」
「そっちには話しかけなかったのか?」
「怪しいには怪しいけど、一人くらいじゃあただの同業の可能性もあるからね。ただ二人続くと・・・何かあるよね、絶対」
「・・・」
「何を探ってるの?」
「子供心の興味さ。鬼ごっこしながら探索ってのも味だろう」
「嘘が下手だね」
「お互い隠すつもりも無さそうだからな」
この言葉を言い終えると、誠司はファイティングポーズを取った。
「・・・マフィアだな」
「・・・正確には雇われてる身だからちょっと違うけどね。もうだいぶ長いけど」
そう言うや否や、色白の男は突然襲いかかってきた。凄まじいスピードである。
しかし、殺気をいち早く察知していた誠司は、全力のジャブを繰り出した。
(! 早い!)
色白の男は身を翻し、誠司の後ろ側へ着地した。勢いで5~6Mは離れただろうか。
(・・・身のこなしが獣のそれだな)
気付けば、誠司の右頬に一つ傷が入っていた。ツーっと血が垂れる。色白男の右手にはナイフが握られていた。
「・・・割と場数踏んでるね」
「人よりはな。ただ、久しぶりに顔に傷つけられたよ」
「・・・」
「お前の首筋とおそろいだな」
その男の首には一筋の傷が入っていた。胸元まで伸びているようにも見える。
「・・・君、そこそこやるね」
「お互い無事では済まんが、どうする? ただの街中探索を邪魔するか?」
「街中探索なわけ・・・ないだろ!」
大きく振りかぶった色白の男は、持っていたナイフを思いっきり誠司にぶん投げた。恐ろしい速度だが、最小限の動きで誠司は躱す。今度は左頬に血の線が入る。
「ダッ!」
凄まじい踏み込み速度で誠司に近づく。いつ持ったのか、左手にはまた違った形のナイフが握られていた。歪な形をしていて、非常に大きい。素早い攻撃を全て間一髪で躱す誠司。
誠司は、あまりの猛攻に一度距離を取った。
「・・・なんだそれは」
「これ? ククリ刀って言うんだよ。大きめに作ってもらっててね。おもしろい形してるでしょ」
「そうだな。壊しがいがある」
「・・・言うね!」
また先程のような、いや、さっきよりも速く踏み込み、下からククリ刀で切り上げようとしていた。しかし誠司はわかっていたのか、既に誠司の右ストレートが色白男の顔面を捉えていた。
「!!!」
「シュッ!」
誠司の拳が見事に色白男にクリーンヒットした。地面に叩きつけられ、数回跳ねながら色白男は後ろに飛んでいった。
しかし、誠司は苦悶の表情だった。
「・・・やるじゃねぇか」
誠司の右手は手応えによってではなく、特別硬いものを殴ったようにジーンとしていた。
「・・・うまくおでこで受けたんだけど、なかなか硬い拳だね」
色白男はふらりと起き上がりながらそう言った。額からは血がダラダラと流れている。
(破壊はされていない・・・だが、痺れたな・・・。この戦いで使うのは酷か・・・)
「どうしたの? チャンスだよ」
「・・・よく言うよ。見た目が酷いだけでそこまでダメージ無いだろ」
「バレた? その壊れた右手でこれからどう戦うのかな~」
「・・・壊れちゃいねぇよ。ただ、ちょっと今は使えないだけだ」
「あら、素直だね。そこは嘘でも強がった方がいいんじゃない?」
「事実を伝えたほうが言い訳が出来るだろ?」
「・・・そう言うタイプには見えないけど」
色白男がにんまりと笑う。ふらりふらりと近づいてくる。
(さて・・・どうする)
誠司の頬に一筋の汗が滴り落ちる。
「さぁ・・・どうする!?」
色白男はククリ刀を大きく振りかぶった。
同刻、ホテルに着いた葵一行は、各自の部屋に向かう。正憲が一人部屋で、女性陣3人が相部屋である。
「女子会だね!」
アキレアが道中に言っていた言葉だ。
「それでは皆さん、今は社長が情報を収集してくれています。明日は9時から会議ですので、9時になりましたら私の部屋にお集まりください」
「わかりました」
「それでは、おやすみなさい」
正憲は、自分のカバンと大きな荷物を抱え、自室へ入っていった。
女性一同も自室へ入り込む。さすがは3人部屋だけあって広い。動きやすさを重視したのでそこまでグレードの高いホテルではないが、それでも十分すぎるくらいには良いホテルである。
「ここはね、そこそこキレイなのに、割と融通が効くんだよ!」
「そうなんですね」
「敬語やめてよ~! フランクにいこ!」
「あ・・・じゃあ、よろしく、アキレア」
「よろしく! 葵、絵梨花!」
「よろしくね」
アキレアは正憲とイタリア人妻の間の子で、今は兄弟のいなかった母に代わって祖父母の面倒を見ている。正憲は蓮治に借りがあるとのことで日本でジ・オールに勤め、その収入からアキレアに仕送りをしていた。
「久しぶりにパパに会えて幸せ! 元気そうで良かったよ」
「お父さんは非常に素晴らしい方だよ。いつも助けてもらってる」
「そうなんだ! パパを褒めてもらって私も嬉しい!」
アキレアの日本語が上手なのは、父と母の影響である。自身の身を考えた時、当時の柊夫妻は、日本語を身に着けさせた方が将来のためになると思い教えたとのことだ。
「ちなみに今回、助っ人って聞いたんだけど・・・」
「そうだよ! 私がみんなを守っちゃうから!」
アキレアが虚空に向かってワンツーパンチを繰り出す。今のところ元気な女の子という感じで、特別強そうには見えないが・・・。
「ふふっ、よろしくね。私達、戦えないの」
「大丈夫だよ! アキレアがいれば無敵!」
元気である。あの正憲からどうやったらこんな子が生まれるのだろうか。母親譲りということか。
その後はお互いのことを話した。イタリアのことや、日本のこと。ジ・オールのことや正憲のこと。そして母親のこと・・・。
「私のママはね、パパと一緒に戦ってたの」
「正憲さんと?」
「そう。3年前、今回のように【ルーボ・フレッド】を壊滅させようと蓮治とパパが頑張ってたんだけど、人手が足りなくてね。ママも強かったから、協力することになったの」
「お母さんも?」
3年前の話は出発前に蓮治から聞いていた。葵が聞いた「名誉の戦死」や、正憲が言った「殺された」というのはここに繋がってきそうだ。
それに、ママも強かったということは、恐らく母も開花していたのだろう。
「そう。私も開花してたんだけど、まだその体に慣れてなくて・・・戦いには加われなかった」
「そうなんだ・・・」
「後悔してる。あの時私が戦えてたら、ママは死んでなかったかもって」
「・・・」
「ママはね、人質の人をかばって死んだんだよ」
「え・・・」
「パパから聞いた。素晴らしい判断だったって。ただ本人が生き残れなかったことが唯一の悔やみだって・・・」
「・・・」
「私は今回の件、パパはこっちに来るって聞いてすぐに言ったの。私も参戦させてって」
アキレアの顔が怒りに燃える。
「パパは最初・・・猛反対だった。ママの例があるから、間違いがあってはいけないって。でも私は、どうしてもママの仇を取りたかった。奴らがのさばるこのイタリアに、真の安らぎはないから。母国のため、そして家族・・・死んじゃったママのために、私は頑張るって言ったら・・・なんとかOKもらったよ。だから・・・絶対に【ルーボ・フレッド】を壊滅させる」
「うん・・・私達も全力で援護するから」
「よろしくね!」
「うん、よろしく」
その後は、いわゆる女子トークである。夜が更けるにつれて盛り上がっていった。
その頃正憲の部屋では、空港で捕まえた男を尋問が始まろうとしていた。
「・・・」
男はイスに縛り上げられ。口にはタオルを巻かれている。ずっとフーッ!フーッ!と暴れているが、それは怒りではなく明らかな恐怖だった。
それもそのはず、正憲の手には日本刀が握られていた。
きんつばって皆さん食べたことありますか?
おいしいですよね。
あ、以上です。




