第十話 尋問
喉が痛いんですよね。
だからどうしたって?
ほんとそうですよね。
すみません。
「・・・この刀は、社長からお借りしているものです。好きに使って良いとのことでね・・・」
相変わらず男は暴れている。イスごと倒れそうだ。
(・・・そこまで苦労しなさそうですな)
「今から質問をします。正直に答えれば、この件の終了後、あなたを開放します」
男は開放という言葉を聞いて、少しだけ大人しくなった。
「ルールがあります」
「1つ 大声を出さないこと」
「2つ 暴れないこと」
「3つ 事前にある程度調べはついています。中途半端な嘘は避けるように」
「以上3点を一つでも破った瞬間、あなたの命は無いです。わかりましたか?」
正憲が日本刀をチラつかせる。男は狂ったようなスピードで首を縦に振る。
その様子を見て、正憲は男の口に巻いたタオルを外した。開口一番、男は慎重に喋った。
「・・・本当に、開放してくれるんだな?」
「もちろん。素直に話してくれれば、この件の終了後に必ず開放します」
「終了後って・・・いつだ」
「答える義務は?」
「・・・わかった。なんでも聞いてくれ」
男は自分に質問する権利は無いと理解した。
「あなたは、【ルーボ・フレッド】の一員ですね?」
「そうだ」
「あの空港で何をしていたのですか?」
「・・・日本人観光客を見張っていた。怪しそうな、いわゆる観光目的ではない人間がいそうだったら連絡しろと言われていた」
「それは誰に?」
「・・・ボスだ」
「ボスとは?」
「・・・」
「・・・あなたに付いていた盗聴器やGPSは全て外しています。聞かれる心配はありません」
「! ・・・」
男の表情一面に、一気に安堵の色が行き渡った。正憲はその表情の変化をしっかりと目の当たりにした。
(・・・恐怖による忠誠・・・)
「・・・オリアンドロ」
「・・・ボスの名前ですか?」
「そうだ」
もちろん正憲はオリアンドロのことは知っている。確認の意味での質問だ。
「連絡したらどうするんですか?」
「本部の人間がすぐに飛んでくる。日本人は拉致されて、強制尋問だ」
「・・・で、目的の人間では無かった場合は?」
「・・・殺されるのが一番まともかもな」
「・・・」
マフィアのやることだ。大体は想像がつく。だがやはり、その容赦のないやり方に、正憲は怒りが収まらない。
「・・・あなたは何度報告しましたか?」
明らかに正憲の顔に、怒りの雰囲気が見て取れる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺は直接手を下したわけじゃない! 俺は命令されたから報告しただけで・・・」
「・・・」
「・・・クッ・・・わからないが、10人もいってないとは思う・・・」
「少なくとも一人以上は報告したと」
「しょ、しょうがないだろ! 報告のない日を続けていたら何て言われたと思う? 『お前ちゃんと見てるのか? 仕事する気が無いならお前からでもいいんだぞ』って言われたんだ!」
男はもう泣きそうである。
「俺だって命が惜しいよ・・・」
「・・・あなたはなぜこの組織に?」
「・・・街のチンピラだったんだが、ボスに喧嘩をふっかけてな。酔ってたのもあるが、なかなか根性があるってことで引き入れられたんだ」
「・・・」
「マフィアってのはチンピラの憧れだ。しかもあの有名な【ルーボ・フレッド】だぜ? そりゃあ喜んだよ。・・・けど入ってみて、驚いた。さすがの俺でも、ここまで非人道的なことは出来ない。俺は入ったことをずっと後悔していたよ・・・」
男に嘘はないように見えた。心の底から吐露しているようで、常に若干震えている。この震えも、目の前の正憲に対してもあるだろうが、他に別の、いわゆる組織に対しての恐怖心もあるように見える。
「・・・あなたの心境はわかりました。次の質問ですが、今オリアンドロはどこにいますか?」
「・・・わからない。だが、可能性があるとしたら、コロッセオ地下労働場の管理室だ」
「ほぉ」
「歴史上ではその部屋は闘技者の待機室だったようだが、そのスペースを気に入って事務所のような形に変えているらしい」
「らしいということは、あなたは入ったことはないのですね?」
「入ったことがないどころか、ボスの顔すら・・・最初に出会った時以来見たことがない」
「・・・なぜそんな顔も見えない男に怯えるのですか?」
「・・・殺し屋だ。ボスが雇っている殺し屋が恐ろしい」
「なるほど」
「仲間が殺される姿を何度も見た。あれは人間じゃない」
「名前はわかりますか?」
「なんだったかな・・・ナ、ナ・・・」
「ナルキス?」
「そう! それだ! ・・・ってアンタ、なんで知ってんだ?」
「最初に言いました。情報はある程度入手しております」
「・・・あんたら、本気でウチを潰すのか?」
「そんなこと言ってませんが」
「組織の人間を拉致してまで情報を搾取してるんだぜ? それでただの遊びでしたじゃあ済まないだろ。こうなった以上、俺ももう元には戻れない。教えてくれたっていいだろ」
「・・・まぁ、事が終わったら話してもいいでしょう。それまではじっとしていてください」
「・・・オーケイ、わかったよ」
「・・・あなたのボスはなぜ、コロッセオなどという歴史上の重要文化財すら、勝手に変えれるのでしょうかね」
「・・・それは可不可の話か? それとも精神的な問題か?」
「両方です」
「・・・警察内部に、ボスと通じてる男がいる。詳しくは知らないが、ボスが好き勝手出来る要因の一つとして、それは大きいだろう」
「・・・なるほど」
そういう問題でも無さそうだが、初耳である。その警察官も突き止める必要がある。
「あとボスは・・・歴史的なものを乗っ取るのが趣味らしい」
「・・・」
「なんでも、過去の英雄達が使用した財産を、我が物にしている感覚が好きなんだとか・・・俺も噂程度しか聞いたことないが・・・」
「・・・変態ですな」
「変態だよ」
男が嘲笑する。
「その管理室までに行き方はわかりますか?」
「いや・・・だが、アジトの入口としては、○番街に△△書店という店がある。その横の路地裏を抜けて行くと、どこかの古い建物の裏口に入れるんだが、それがコロッセオにつながっている。何度か見張りで行ったことがあるからこれは本当だ」
「わかりました。あとで地図を見せるので、教えてください」
「あぁ、わかった。見張り番がいるが、そこから奥は下っ端だと入れない」
「なるほど、ありがとうございます」
その後は細かい情報を男から集め、23:30に正憲の部屋で蓮治・誠司と合流になっているので、正憲は情報をまとめる作業に入った。
「ハァ・・・ハァ・・・」
「粘るね。もう諦めたら?」
「ハァ・・・ハァ・・・バカ言うな。俺はまだ、諦めちゃいけねぇ・・・」
誠司は必死に粘っていた。格上の相手に対し、せめて蓮治が応援に来るまで、なんとか
粘らなくてはならなかった。蓮治が、追いつかない誠司に疑問を抱いて戻ってきてくれるかは博打だが、今はそれを祈ることが一番だった。それに、勝つ算段が無いわけではない。
「ハァ・・・ハァ・・・・・・フゥー」
大きく息を吐く誠司。傷だらけの体。服は多くの切り傷に囲まれ、赤く血濡れている。
「まぁ正直・・・片手一本でここまで粘られるとは思わなかったよ。久しぶりにそこそこ強い人と戦えて僕は満足だ」
「・・・フゥー」
呼吸を整える誠司。
「でも、諦めが悪いのは・・・あんまり好きじゃないんだよね」
「・・・」
「だから・・・死んで!」
低い入り込み。地面スレスレから誠司を切り上げるように下から襲いかかる。
来た! 誠司は狙っていた。この戦いで、色白男はキメの一撃に下からの切り上げを得意としているように感じていた。狙いすましていた右アッパーが、色白男の顔面に突き刺さろうとしている。
(!! 右手は使えないはず・・・!)
色白男はこの一瞬で多くの思考を巡らせた。
実は壊れていなかった? この一撃のみ? ハッタリ?
様々な思考を巡らすも、あまりに唐突で予想外な一撃に、体は既に回避することを選択していた。低い位置から切り上げる攻撃の性質上、下からのアッパーを受けると、とんでもないダメージになる。下手したら首が飛んでいくレベルだ。しかし勢いもすでに切り上げ体勢。躱すにしても、そのままアッパーの軌道に合わせる形で、浮き上がりながら仰け反るしかなかった。
「くっ・・・」
しかし誠司の右アッパーは途中で止まっていた。ハッタリである。
(!! クソッ・・・!)
「残念だったな」
誠司の全力の左フックが、正確に色白男の顎を打ち抜いた・・・かのように思えた。
「!!」
色白男は間一髪で顔を回転させ、スリッピング・アウェーの要領で左フックを回避した。
(コイツ、土壇場で・・・!)
そのまま2,3歩、たたらを踏みながら後退する色白男。恐らくカスっていたのだろう。かなり効いているようだ。
「がっ・・・」
「・・・どうだ、顎ってのはカスってもめちゃくちゃ効くだろ」
「こ、この・・・!」
色白男は今、頭がぐにゃぐにゃのはずである。にも関わらず、正確にナイフを投げてきた。
「!?」
焦って大きく躱してしまう。体勢が大きく崩れてしまった。そこへ色白男が体勢を崩しながら近づき、誠司の顔面へ向けてパンチを繰り出した。
(まずい・・・!)
当たる! そう思った瞬間、その拳を横から誰かが掴んだ。
蓮治である。
「楽しそうなことしてんじゃん」
「蓮治・・・!」
「お、お前は・・・!!」
「よぉ、久しぶりだ・・・な!」
蓮治は思いっきり色白男の顔面をぶん殴った。蓮治は離すつもりは無かったのだが、色白男は殴られる直前に掴まれている手を引き剥がしており、後方に吹っ飛んだ。地面に跳ねながら体勢を立て直すと、そのままの勢いで逃げていった。
「チッ、相変わらず逃げ足だけは速ぇ」
「蓮治、追ってくれ! あいつはやばい!」
「あぁ、知ってる! 誠司はホテルに戻って柊さんに報告してくれ!」
「わかった!」
そう言うと蓮治は凄まじいスピードで追いかけ始めた。
誠司は膝から崩れ落ちた。その顔には大きな安堵が見える。
ポケットに入れていた携帯を取り出し、正憲に連絡した。
『もしもし』
「吉金です。敵と交戦しました。敵は今蓮治が追っています。かなり傷を負ってしまったので、ホテルの人にバレないよう部屋まで誘導願えませんか」
『なるほど、わかりました。入り口と真反対のところに裏口があります。高田様に向かって頂きますので、そちらからご進入ください」
「ありがとうございます」
なんとか敵の魔の手から身を守った誠司。フラフラとホテルへ戻るのであった。
戦闘シーンを文字で伝えるのってめちゃくちゃ難しいですね。
俺だけ理解出来たらええかwwwwwとか思ってましたけど、そういうわけにもいかず・・・。
試行錯誤繰り返しながらやっていきます。




