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六人席が存在しない世界  作者: 三進二退
3/4

第三席

まだまだ続きそうです

ああ、今日もこの夢か。


坂を下り、住宅街をぬけていく。


なんの変哲もない、どこにでもいるような少年の帰り道。


桜が舞う大通りをかなりの速度で走る。


少年が角を曲がる。その先に何があるかも知らずに。


少年が車道に弾き飛ばされた。


次の瞬間、少年はトラックに撥ねられた。


車道に出たのだから、当然の帰結だ。


脳味噌をぶちまけながら車道を転がり、少し離れた所で静止する。


これでいつも夢は覚める。


でも今日は違った。


死んだはずの少年が起き上がる。


首から上はグチャグチャで、手足は変な方向に折れ曲がっている。


それでも、少年は起き上がり、こう言った。




「思い出さなきゃ、死ねないよ」







―四月十日―


「卓~そろそろ起きないと学校に遅刻するわよ~」

母さんのおっとりとした声が聞こえる。いつものどおりの朝。窓のカーテンを開けると、あふれんばかりの光が差し込んでくる。雲一つない快晴だ。顔を洗い、歯を磨く。鏡を見るとうっすらと隈が出来ていた。昨日夜更かししすぎたせいだ。

「早くご飯食べに来なさ~い」

少し寝坊してしまった。階段を駆け下りる。今日もいつも通りの朝食。僕のは白米に焼き鮭、みそ汁の三点セット。一方母さんやあかりねえ、優太はパンにオムレツにベーコン、コーンスープと洋食だ。父さんやばあちゃんは和食。六人(むつひと)家の朝食はいつもこう。きれいに和食派と洋食派、半々に分かれるのだ。

「母さんの作るみそ汁は本当に美味しいなあ!毎日飲めちゃうよ!」

「あらやだあなたったら!毎日飲んでるじゃないですか!んもう…」

「はっはっはっ!それもそうだったな!」

これは二週間に一度くらいはやる、お決まりのネタだ。なんでうちの両親はこんなに仲がいいのかと時々思う。仲が悪いよりは断然マシだけど。

「ねえねえママ。なんでうちはろくにんかぞくなのに、イスはななこあるの?」

ふいに優太がそんなことを聞いた。まあ僕も昔不思議に思って聞いたことがある。

「それはね、優太。おじいちゃんが座るための席なのよ。」

「そうなんだ!でもぼくおじいちゃんみたことないよ?」

「おじいちゃんは世界をまたにかけるお仕事をしてるの。」

そう、じいちゃんは世界中を旅する自称冒険家だ。たまにふらっと帰ってきては、旅先で手に入れたという不思議な物をお土産にくれるのだ。そして気が付いたらまたふらっと旅に出ていく。たしか優太が生まれた後にはまだ帰ってきてなかったから、知らないのは当たり前といえば当たり前だろう。

「おじいちゃんはなにをやってるの?」

「うーん…それはおじいちゃんに会うまでの楽しみにとっておきましょ?」

「えー!ぼくいがいみんなしってるんでしょ?ずるいよー」

母さんが誤魔化すのもは無理もない。実際僕らもじいちゃんが何をやってるか知らないのだ。前に帰ってきたときは古代文明の遺産を探してると言っていたし、その前は確かどこかに隠された埋蔵金を探してると言っていた。僕が生まれる前は宇宙人との交信手段を確立させようとしていたらしい。そんな時廊下の電話がけたましく鳴り出した。

「もしもし、六人です。え…父さん!?帰ってくるのかい!?何年ぶりだろう!」

うわさをすれば、とやらだろう。じいちゃんに最後に会ったのはちょうど小学校の卒業式の日だから、実に四年ぶりということになる。

「それでいつ帰ってくるんだい?明日⁉それはまたずいぶん急だね!それじゃあごちそうを用意して待ってるよ!」

今度はいったいどんなお土産を持ってくるのだろう。前の時は昔の奉行が使っていたという十手だった。その前のときは古代文明の人々が使っていたという鏡だった。

「おじいちゃんかえってくるの?」

「ええ、明日来るそうよ。さっそくご飯の買い出しに行かなくちゃ。」

「やったー!はやくあしたにならないかな~」

優太は大喜びだ。母さんは張り切ってるし、ばあちゃんも凄くニコニコしてる。でもあかりねえだけなんだか難しい顔をしてる。

「どうしたのあかりねえ?じいちゃんが帰ってくるんだよ?楽しみじゃないの?」

「…え?え、ええ。もちろん楽しみよ!四年ぶりだもの!今夜は楽しみで楽しみで眠れなそうだわ。」

うーん…さっきのあかりねえの顔はとても楽しみにしてるようには見えなかったけど…まあ気のせいか。

 そんな時、玄関のインターフォンが鳴った。

「おーい卓!そろそろ行かないと遅れちまうぞ!」

「あら、竜也(たつや)君もう来たのね。ほら卓もさっさとご飯食べて行きなさい。」

時計を見るともう八時だった。始業は二十五分からだからそろそろ家を出ないとマズい。残りの白米を書き込みそ汁で流し込む。

「それじゃあ行ってきます!」

みんなの声を背にドアを閉めると、スマートフォンをいじりながら待ってるヤツがいた。俺の幼なじみで、親友の明石(あかいし)竜也(たつや)だ。

「なんかいいことでもあったか?」

「え?なんで分かるの?エスパー?」

「んなワケあるか。ちょっと気持ち悪いくらいニヤニヤしてたぞ、お前。」

やっぱりじいちゃんに会える喜びは凄いなと思う。そんなに顔に出てたとは。

「んで何があったんだ?」

「四年ぶりにね、帰ってくるんだよ!」

「四年ぶりって…まさか(たく)じいが帰ってくるのか?」

竜也はじいちゃんのことを卓じいと呼んでいる。じいちゃんの下の名前が卓蔵(たくぞう)だからだそうだ。

「そりゃそんだけニヤつくわけだ。んで卓じいはいつ帰ってくるんだ?」

「それがなんと…明日なんだよ!」

「おいおいおいおいそりゃ一大事じゃねえか!しっかしいつもあのじいさんは急だな。」

「まあ前回よりはマシだけどね。」

この前帰ってきたときは連絡もなしにいきなりひょっこり僕の卒業式に現れ、家族をびっくりさせたのだった。

「前回…卒業式の時か!あれはおったまげたなぁ…しかし逆に卓じいが連絡してくるなんて珍しくないか?」

確かに。僕の聞いた限り卓じいが帰ってくる前に連絡してきたことなんて一度もない。

「もしかしたらなんか理由があるのかもしれないね。」

「俺もそんな気がする。でもまあ明日になりゃ分かるだろ。」

そんなことを話してるうちに学校についた。下駄箱で靴を履き替え、それぞれのクラスに向かう。

「んじゃまたあとでな。」

「じゃね~」

クラスに入るとちょうど始業五分前だった。今日もいつも通りの時間に来れて少し嬉しい。





結局じいちゃんに会うのが楽しみで授業はほとんどうわの空だった。校門前の大きな銀杏、いつもの待ち合わせ場所にいると、駆けてくる人影が見える。竜也だ。

「悪い、HRが長引いた。ったくスズゴンめ…」

スズゴンはHRが長引くことで有名な先生だ。スズゴンは先生の学生時代のあだ名らしいけど、なんでスズゴンなのかは僕らもよく知らない。

「しょうがないよ、スズゴンだもん。それじゃあ帰ろうか。」

僕らは他愛のない話をしながら歩いた。坂を下って、住宅街を抜けていく。大通りの桜は満開だった。そんな桜の木の近くに見覚えのある人がいた。

「あれはもしかして…じいちゃん⁉」

「え?どこにいるんだ…ってありゃ卓じいじゃねえか!おーい!卓じいー!」

じいちゃんがこっちに気が付いた。すると血相を変えてこっちにやってくる。

「おお!卓に竜也!お前らに渡したいものがあったんじゃ!」

「落ち着けって卓じい。いったいどうしたんだよ?だいたい帰ってくるのは明日じゃなかったのかよ?」

「そうだよじいちゃん。ちゃんと説明してよ。」

「悪いがそんな暇はないんじゃ。急いでやらねばならないことがあってな。詳しいことはあとで話すから今はとりあえずこれを受け取ってくれ。」

そいうとじいちゃんは僕らに紙袋を押し付けると走り去ってしまった。

「ちょっ待てよ卓じい!いきなりどうしたんだよ!」

「どうしたんだろう…それにじいちゃんがあんなに必死になるなんて…」

「どうする?追うか?」

「いや、後で話すって言ってたしとりあえず家に帰ろう。」

「それもそうだな。そうだ!卓じいのお土産見てみようぜ。」

紙袋の中には『卓へ』というメモがついた小瓶と『竜也へ』というメモのついた古ぼけた懐中時計が入っていた。

「これは…時計か?かなり使い込まれてるが…これはこれでイカすな!流石卓じいだぜ。」

「僕のは…なんだこれ?小瓶に水が入ってるけど…」

この小瓶は卓じいがくれるお土産にしては地味な気がする。小瓶に水が入ってるだけなんてそんなありきたりなもを卓じいがお土産いするなんて。

「ったくお前は想像力が貧困だな。中身がただの水なわけねぇだろ?きっと卓じいのことだ。飲んだらメチャクチャ強くなる魔法の薬とかだろ!」

「えぇ…でもじいちゃんなら持ってきかねないからなぁ…」

「あー!早く卓じいの話聞きてぇなぁ。」

小瓶の中身は気になるけど、正体は卓じいしか知らないだろうし今は家に帰るのが先だ。ああと二つ信号を渡れば僕らの住むマンションだ。早く帰ってじいちゃんが帰ってくることをつたえなきゃ。

 そう思いながら一つ目の信号を渡った時、



僕らは何かに撥ね飛ばされた。




登場人物の名前考えるのかキツくなってきました。

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