対決
母は呆然としていた。第二王子も、近侍たちも、遠くから見守る課長も。ミス・ドラゴンですら驚きを隠そうともしなかった。
性格の悪い魔法使いたちだけが、ニヤニヤと笑ってサラの姿を探している。その中にも数名、表情が凍っている者がいる…今の私は、その心情を見逃さなかった。慄け。怖がれ。怯えろ。私は強い…お前たちの誰をも踏みつけることができる。全員を、屈服させることができるんだ。
魔法使いとしての母との対決は、伝統的な形式で行われた。ボウリングのピンのように並んだ土人形に、母と私がそれぞれ破壊魔法をかける。壊れた人形の数で、その魔法の強さが決まり…どちらが優れた魔法使いかがわかる。
私たちは互いを見ないように、馬車馬の目隠しのような板を取り付けられて背中合わせに座らせられた。視線を媒介にした互いの殺し合いにならないための処置だとわかってはいたが、落ち着かない。母はどんな顔をしているのだろう。サラに殺されかけ、もう一人の娘に恨み言を聞かされるのだ…
「同情してはいけないわ。あなたは、あなたの手紙の心情を貫けばいいの」
ミス・ドラゴンが囁く。私は頷くが…何も考えないようにするのが精一杯だった。必死で息をのみ、吐き出すことを繰り返す。失敗したら、どうなるのだろう…課長はああ言ってくれたが、今の職場には戻れまい。母とサラをここまで怒らせてしまったからには、私の実家ももうなくなった。
近侍が気付け薬を持ってきてくれて、少し心を落ち着かせる。今はそれどころではない。逆に…逆に考えよう。今こそが私の正念場なのだと。ここを乗り切らなければ、私の居場所は一生無くなってしまうのだ。
自分の弱さに勝つ場所、それがここだ。
「では…先に、ミセス・サンドラ・テイラーから、お願い致します」
魔法は落ち着かなければ使えない、というものではない。むしろ心を揺り動かし、強い感情を放つことが技の強さを決めるのだとミス・ドラゴンは言っていた。そういった意味で、毎日を感情的に過ごしてきた母は私よりずっと有利である。
でも…背後、母の居るあたりからは荒い息とともに、いつも通りの怒りと侮蔑、そして、何より恐怖を感じた。私への恐怖…感じたことの無い意識。
ぞっとするような叫び声とともに、恨み言が放たれる。
「この、恩知らず娘!」
「あんたたちを育てるために、どれだけ苦労したか!」
「返せ!私の時間を、返せ!」
「今からでもいい、死ね!殺してやる!」
叫びは衝撃となり、私たちの足元を揺らす。魔法使いたちの驚嘆と侮蔑の声が上がる中、十体ほどの土人形が壊れるのが見えた。これがすごいことか否かは、わからなかった、が…
「続いて、ミス・エマ・テイラー。お願い致します」
「いつも、サラばかりひいきして、機嫌をとって」
「私など死ねばいいと、本気で思っていた」
「あなたは私を愛さなかった」
「私は…私は、こんなになってしまった!誰にも愛されない、誰も愛せない!」
「責任を取れとは言わない。苦しんで、…死んで」
巻きあがる土煙、雪崩落ちる人形たち。
私は勝った。視界の隅に、倒れる母親が見えた。




