Le Ressentiment.―2
ニーチェに関する独自解釈が含まれます。ご注意ください。
「ルサンチマンこそが力の源、被害者であることが全ての始まり…
聖コジマは泣いていたわ、それに気づいてしまって。『性格の悪いもの、邪悪なものが魔法使いになる』などと勝手に規定してしまって。どれほどの苦しむ魔法使いたちを見捨ててきたのかと…そして」
かたん、お茶のカップが置かれる。
「彼らを『性格が悪い』などとスケープゴートにして、自分たちを善人にしてきたというこの事実!」
「善人に…して、きた」
「そう。ただ振る舞いが乱暴で、力がある者への嫉妬よ。
あなたの姉、サラもそうだけれど…本来、彼らは救われるべき存在だった。姉妹で産まれた時からひどい差をつけられて、成長する前の美しい魂を殺されるような目に遭って、発現した力によって『性格が悪い』と決めつけられる。魔法使いになって宮廷に呼ばれれば嫉妬を受け、他の傷ついた魔法使いたちと憎み合う。
これが地獄でなくて何かしら?本当に苦しんで救いを求めていたのは、…誰だったのかしら」
女史は半ば自分に問うような口調で、でも確かにこちらに向かい、話し続ける。私は耐えきれず、気がつけば涙を零していた。サラ…サラ!私の姉!
そしてエマ…私自身。母と姉に虐げられ続けた、私そのもの…。
「ミス・エマ。顔を拭いて、こちらを見なさい」
「…はい」
「あなたがここに呼ばれた理由は、ひとつです。あなたの姉が為し得なかったことを行って欲しい」
「はい」
「ミス・サラと同じように、あなたもまた虐げられてきた。あなたもまた、見方を変えればルサンチマンの権化であり、『力』を備えているはずなのです。
しかも、その『力』は、今も増え続けている。あなたにとっては悲劇ですが、私にとっては素晴らしいこと、と言わせてください」
「あの、…私は」
「どうか、何も仰らないで。あなたが今、その『力』を使う術を知らないことはよくわかっています。私が、私の目的のために、あなたに魔法としての『力』をお教えしましょう。構いませんか?」
ノー、などと言えるはずもない。私は声もなく頷き、やっと彼女の顔を正面から見る。真白な肌にきっちりとまとめられた黒い髪、若い頃の美貌が色濃く残る顔。
「ミス・エマ。私のために、強い力への意思を持って『性格が悪く』なってくださいませんか?」
「はい、…奥様」
緊張していた空気の、一瞬の緩和。彼女は相変わらず女史然として、ふっと微笑んだ。
「そういえば、私はあなたに名乗っていませんでしたね、ミス・エマ・テイラー。
私はこんな形だけど、ミセス、ではないのよ」
「これは失礼致しました、お嬢様。
それでは…何とお呼びしたらよろしいでしょうか」
微笑みが、まるで女学生のような笑顔に変わる。動揺を隠せない私に、彼女はこう言った。
「私はドラゴンです。ミス・ドラゴンと、呼んで頂戴」




