第7話 鞄持ちの俺に美少女が絡んでくる
次の日の早朝。
陸は正門の前に居た。
「何で俺がこんな事を……こんな事をする為にこの学校を選んだ訳じゃないのに……」
陸は呟く。
「高校生になったら、少しだけでも良いから、変化した実感が欲しかっただけなのに……自己紹介は最悪だし、変な高飛車女に捕まるし……」
そう言いながらも陸は大人しく、麗華の到着を待つ。
陸の脳裏に、昨日の昼休みの出来事が思い浮かぶ。
金色の髪を持つ美少女が真剣な眼差しで陸を見つめている。
『良い事。明日はちゃんと待っているのよ?』
『えっ……なんで?』
『わたしの鞄を持つ為でしょ? わたしに重い鞄を持たせるつもり?』
『いやいや、鞄って……自分の鞄くらい自分で持とうよ?』
『嫌よ。その為にあなたがいるのでしょう?』
『……『嫌よ』って……』
会話が噛みあわなくて陸が困っていると、横にいた詩織がクスクスと笑いながら陸に言う。
『ここは、『お任せください、お嬢様』っていうくらいの度量をみせてほしいなぁ、ねえ佐伯君』
『ええっ……』
陸は思わず助けを乞うようにエレナの方を見る。
しかし、エレナは陸が視線を向けた瞬間、全然違う方向に視線を逸らす。
『(エレナまで……)』
だらだらと冷や汗をかいている陸は、結局頷くしかなかったのだ。
そして、今に至る。
「しかし、時間とか聞いてなかったな……何時くらいに来るんだ?」
陸はそう言って腕時計を見る。
「まだ、七時前じゃないか……運動部の朝練並みの時間だぞ?」
そう呟いた時だった。
校舎の方から、金属パイプのぶつかる音や、地面に何かを打ち付けるような音が聞こえ始めた。
「こんなに早くから工事するのか……」
「(たしか担任が言ってたな……外装工事を行うので、暫く工事の騒音があるって……これの事か)」
陸は正門越しに校舎の方を見る。
工事は裏手の方から行っているようで、正門からは特に変わった様子は見えない。
「せめて工事でもしていれば、眺めて時間を潰せたのにな……」
そう言って陸は、お嬢様の登校を待つのだった。
■
陸がボヘーッと正門の前で待ち始めて三十分が経過した。
「まだ来ない……」
既に何台もの高級車が正門前で停車し、中からセレブなお坊ちゃんやお嬢様が車の中から現れる。
その様子を眺めながら、陸は思う。
「(……鞄持ちまで連れてる奴は居ないじゃん……あの高飛車女め……)」
その時、高級車に交じって、マイクロバスが正門前に停車する。
陸が何気に見ていると、マイクロバスのドアが開き、中からインターナショナルな生徒達が姿を現した。
「(えっ、ナニコレ……こんなに外国の人がうちの学校に通っているのか……)」
陸は呆けた顔をしてその様子を見ている。
すると最後尾からエレナが姿を現す。
エレナはバスから降りると、自分の方を見ている陸の姿に気付く。
「リク……」
エレナはすぐには正門を潜らず、陸の方へと近づいてきた。
「おはよう、リク」
「あ……おはよう、エレナ。昨日振り」
「ふふ、なにそれ?」
エレナが口を手で抑えながらクスクス笑っている。
何となく居心地が悪くなった陸は、強引に話を変える。
「何だか、今のマイクロバスに乗ってた人たちって、凄くインターナショナルな感じだったね?」
「ああ、うん。留学生は基本、寮に住んでいるから……送迎のバスが用意されているんだよ」
「へえ……さすが上級学校……そんなサービスもあるんだ」
「ホームステイしている子もいるけど、大抵は寮住まいかな。綺麗なマンションだよ」
「……マンション……か……凄いね」
陸の頭の中には、今の自分の住まいが思い浮かぶ。
「で、リクは此処で何をしているの?」
エレナが不思議そうに聞いてくる。
「ほら、昨日話してたやつだよ。お嬢様の鞄持ち」
「えっ、あれって冗談じゃなかったの?」
「マジだよ、大マジ。昨日はすっぽかす形になったから、あんなに騒いでたんだよ」
エレナがびっくりした表情のまま固まる。
そして急に笑い出す。
「リクって、凄いお人好しだね……ふふ、褒めてるんだよ……ふふふ」
「……褒めてる態度じゃないぞ?」
「だって……ふふふ」
エレナと陸がそんなやり取りをしている時だった。
陸のすぐ横に、一台の高級車が停車する。
運転手の早乙女さんが姿を現す。
しかし、早乙女さんがドアを開ける前にドアが開き、麗華が姿を現す。
「ちゃんと待っているかと思えば、また女の子と……貴方には真剣さが感じられませんわっ!!」
いきなり現れたお嬢様は、朝から激おこだった。
■
「ねえ、佐伯君。麗華の機嫌が悪いけど……何かした?」
「してねえよっ!!」
「そうやって向きになるところが、超あやしー」
あの後、色々あってやっと教室に辿り着いたら、いきなり詩織に絡まれた。
「っていうか、俺、正門にずっといたけど、詩織が通ったの気付かなかったぞ?」
「うん。そうだね」
「何で、先に教室にいる?」
「……佐伯君、本当に外部生なんだね……そりゃ知らないか」
詩織は陸を気の毒そうに見る。
「うちの学校、正門が二つあるの。一つは麗華たちが使う正門。佐伯君がいたのもそっち。あたし達大多数の生徒は、第二正門を使うんだよ?」
「第二正門? なにそれ」
陸は詩織の顔をマジマジと見つめてしまう。
「あの正門は特待生とか、留学生とか、一部の特別な人達が使う門なの。佐伯君、ひょっとして初日から知らなかったの?」
「……知らない……知っていたら近づかなかった」
詩織は猫のような目で陸を見つめる。
「佐伯君って面白いね……あたしも興味出てきたよぉ」
「そんな興味持たないでくれ……」
詩織と陸が話し込んでいると、何やら強烈な視線を感じた。
陸が何気なくそっちの方向を見ると、麗華が般若のような表情でこっちを見ている。
「お、おい。お嬢様が凄い表情でこっちを見ているぞ?」
陸がこそっと詩織に話す。
詩織はニコッと笑うと、麗華の方へは振り返らずに教室を出て行こうとする。
「お、おい、何処へ行く気だよ」
「お花摘みです。女の子にそんなこと聞いちゃダメですよ。モテませんよ」
そう言って詩織は素早く教室から出て行ってしまう。
それを見計ったように、麗華が近づいてくる。
「貴方、本当に女の子に節操がありません事ね?」
「えっ、な、何を……」
「これは少し教育が必要ですわね」
そう言って麗華は、酷薄な笑みを浮かべるのだった。




