第5話 ボッチの俺に美少女が増えた
「貴方、何故正門にいなかったの?」
陸は今、九条麗華に詰問されていた。
「い、いやだって、そんな約束してないだろ?」
「約束? なんでそんな事を貴方としなければならないの?」
「……え……だって……」
九条麗華はとても整った顔立ちと、意思の強そうな目と眉を持っている。
何が言いたいかというと、美人が怒るととても怖いという事だ。
「貴方がいなかったせいで、私が重い鞄を持つ事になったのよ。何で時間通りにいないのよ」
「いやだから、そんな約束してないって……」
「貴方と約束する必要なんて無いわよ!!」
話が噛みあっていない。
そんな二人を花房詩織がニヨニヨとしながら見つめている。
「(うふふ、やっぱり麗華ちゃんと相性いいみたい)」
詩織の視線に気づいた麗華が、詩織を睨む。
「何を見ていらっしゃるの?」
「いえいえいえ、仲が良いなって思っていただけですよぉ?」
「「違うよ(ますわ)っ!!」」
「ほら、返事も一緒だし……こんなにわずかの時間で仲が宜しいですねぇ」
「「だから違う(ますわ)って」」
「ほらほらほら。麗華ちゃんってば素直じゃないんだから」
「詩織、いい加減にしなさいっ!!」
麗華がビシッと詩織を指さす。
「はいはい。わかりましたぁ……でもね麗華ちゃん」
「なんですの?」
「荷物を持って欲しかったらちゃんとお願いしないと……きちんとお話しなければ気持ちは通じませんよぉ?」
「うっ……」
「あと佐伯君も、少しは乙女心を理解しないと……モテませんよぉ?」
「うっ……」
陸と麗華は全く同じリアクションをして固まる。
そしてその様子を見て詩織は、ニヨニヨと笑うのだった。
クラスは今日も平和だった。
◆
昼休み。
オリエンテーションの一環で、今日は新入生が全員食堂で昼食を摂る。
食堂の使い方や注意点などを教えながら、昼食を摂り、新しい友たちと親睦を図らせたいといった学校側の思惑があるのは明らかだった。
「という訳で……佐伯君。一緒にご飯を食べましょう」
「何が『という訳で』なんだよ……いいよ、放っておいてくれよ」
「あらあらあら、すねちゃって……可愛くないですよ……自己紹介の事なら誰も気にしていませんよぉ?」
「そっちが気にしなくても、俺が気にするの」
「でも、せっかくのお昼を『ボッチ』で過ごすのはちょっと……見ていて気の毒ですしぃ」
「うぐっ……」
詩織が陸の痛い所を突いてくる。
「それに麗華ちゃんとちゃんと話すチャンスですよぉ……なんだか、『ちゃん』がいっぱい続きましたねぇ?」
「其処かよっ!?」
陸の身体から力が抜ける。
「分かったよ……でも、俺と飯なんか食っても良い事無いぞ?」
「それはこっちが決める事ですよぉ……さあ、行きましょう」
詩織はスッと手を出して陸の腕を掴む。
「お、おいっ」
「さあ、行きますよぉ……麗華ちゃんの元にぃ」
「ちょ、ちょっと……おいって」
陸は詩織に掴まれたまま、強引に食堂へ連れて行かれるのだった。
◆
学園の食堂。
新入生の約百二十人が食堂内の思い思いの場所に小グループで座っている。
食堂内はそんな生徒達の話声でザワザワと喧騒に満ちていた。
壁際に折り畳みのテーブルと椅子が数脚用意されていて、教職員が其処に座っている。
マイクを持った教員が、軽くマイクを叩いてから喋り始める。
『あー、静粛に。静かにしなさいっ!!』
教員の言葉に生徒達が一斉に話すのを止める。
「(……この辺が、良い所のお坊ちゃん、お嬢ちゃんって感じがするよな)」
陸はそんな感想を持ちながら教員の方を見る。
『これはオリエンテーションの一環です。外部生や留学生、普段食堂を使用しない者達に食堂の利用方法を学んでもらいます』
『もちろん、既に利用方法を理解している者は、知らない人達に利用方法を教えてあげてください』
「「「「はーい」」」」
一部の生徒達が返事をする。
『またこの時間は、新たな新入生とのコミュニケーションの場でもあります……大いに親睦を深めてください』
『なお、本日に限り、全てのメニューを無料で提供します。あくまで今日だけですからね』
「「「「はーい」」」」
『では、食事会を開始します』
教員の宣言と共に、一部の生徒達が配膳のコーナーへ駆けていく。
「ふふふ、此処のメニューは結構自慢なんですよぉ?」
「何故、詩織が胸を張るんですの?」
「胸は昔から張ってますぅ……麗華ちゃんのえっち」
「違いますわっ!!」
麗華が耳を真っ赤にして否定する。
陸は二人がじゃれる様子を見つめながら、小さくため息を吐くのだった。
「……何でこうなった……」
そして、自分の席の横を見る。
其処には見るからにエキゾチックな美少女が黙って座っている。
「……何でこうなった……」
陸は同じ言葉を繰り返すのだった。
◆
時間を少し巻き戻す。
結局、陸は詩織に連れられて食堂までやって来てしまった。
「わたしはちょっと麗華ちゃんを探してきますから、佐伯君は席を確保しておいてくださいねぇ」
「わかった……」
「逃げちゃダメですよぉ?」
「逃げないよ……多分」
詩織は一瞬真顔で陸を見つめた後、いつもの表情に戻す。
「じゃあ、よろしくですぅ」
そう言って詩織が人混みの中に消えていくのを見送ったあと、陸は思案する。
「このまま大人しく席を探すか……バックレて別な奴と飯を食うか……」
陸は真剣に思案する。
「(どう考えたって、前者しか選択肢がねえだろうよ……)」
がっくりと頭を下げて席探しを始める陸。
「(しかし……ボッチな奴なんて全然いないじゃないか……俺みたいな外部生だっているだろうに……)」
そんな事を考えていたせいか、陸は目の前にいた女生徒にぶつかってしまう。
女生徒がふらつく。
「あ、ごめんっ、大丈夫?」
思わず手を伸ばして女生徒の腕を掴む。
その瞬間、女生徒の右手が凄い勢いで陸の頬を捉えた。
バチーンッ
思い切り良い音が響く。
「えっ!?」
「あっ!?」
女生徒の声と、陸の意識が飛んでいくのは、ほぼ同時だった。
◆
「大丈夫ですか?」
エキゾチックな容姿の女生徒は、隣のクラスのエレナ・カリストと名乗った。
「う、うん。大丈夫……ちょっと意識が飛んだだけだから……」
陸は叩かれた頬を抑えながら答える。
「すいません……急に腕を掴まれたので……つい」
「俺の方こそデリカシーが無かったよ……いきなり腕を掴んじゃって……悪かった」
「いいえ……こちらこそ……すいません」
陸とエレナは交互に頭を下げる。
そして、不意に陸が笑いだす。
「もう終わらないから、この位にしようぜ……」
「は、はい」
エレナもほんの少しだけ微笑む。
「君は、友達でも探していたの?」
「いえ……わたしは留学生なので……まだ友達がいません」
エレナは顔を伏せてそう言った。
「じゃあ、俺と同じだね……俺も外部生でさ……友達がいないんだ」
「……」
「まあ、お節介な同級生は出来たんだけどね」
「……あ、あの」
「ん?」
「良かったら、エレナと呼んでください。サエキ君」
そんな事を言われて、思わず顔が綻ぶ陸だった。
「じゃあ、俺の事はリクって呼んでよ。前の友達にはそう呼ばれていたんだ」
「……リク……」
エレナに名前を呼ばれて、内心デレデレしている時だった。
「席も用意せずにナンパとは、良い性根をしていらっしゃいますのね?」
その声に、陸の動きが止まる。
人形のように首だけを背後に向けると、腰に腕を当てて仁王立ちしている麗華と、その後ろでニヨニヨ笑っている詩織の姿が見えた。
「折角ですので、其処の方も含めて、きっちりお話しましょうね」
麗華の有無を言わさない言葉に、陸は黙って頷くしかなかった。




