第26話 探していた背中
「痛ってえええええっ!!」
叫び声を上げたのは陸だった。
何度も足場に体を打ち付けながら落下したため、真っ逆さまに落ちる事は無かったが、身体中に打ち身が出来ていた。
よく見ると、陸が引きずり落とした男が、陸の下敷きなってくれたおかげで、陸は打ち身だけで済んだようだった。
「うううっ……痛くて起き上がれない……でも……」
無理やり体を立ち上がらせると、二人の黒ずくめの男達が気を失って倒れている。
「ちょっと……無茶しすぎたかな……」
陸が体を摩っていると、倒れている男の肩口から音が聞こえている事に気付く。
『おい、足場班。どうした? 何かあったのか? 返事をしろ』
どうやら男達の仲間のようだ。
陸は思わずそのトランシーバーを掴み上げる。
そして送話のボタンを押す。
『……残念だったなっ!! 足場の二人はやっつけたぞっ!!』
『……貴様……誰だっ!?』
『誰だって良いだろ……ふざけた真似しやがって……おかげで俺は三階から落下したんだぞっ!!』
陸は自分で何を話しているか分からなくなっている。
『お前らが考えている事なんて、お見通しだっ!! 足場を爆発させて、生徒達を襲わせるなんてふざけた真似は絶対にさせねえぞっ!!』
陸は絶叫していた。
脳内にドーパミンが出っぱなしになっていたのかもしれない。
気づくと通信が切れていた。
「(……あ、ヤベッ……俺、何をしていた)」
急に冷静になる。
「(何ケンカ売るような事言ってんだよ、俺っ!?)」
陸は周囲を見回す。
「とにかく……今は放送室を目指す……みんなを避難させないと……」
そして一歩踏み出した瞬間、左の足首が激しい激痛に襲われる。
「痛ってえええええっ!!」
さっきまでは気づかなかったが、よく見ると左の足首がとんでもなく膨らんでいる事に気付く。
「マジかよ……これで歩くのかよ……」
陸はがっくりと肩を落とし、足を引きずりながら、足場の上を歩いていくのだった。
◆
トランシーバーを握っていた男の顔から表情が抜け落ちる。
男は周波数の切り替えスイッチを操作すると、静かに口を開く。
『こちら屋内班……少々問題が発生しました』
『……どうした?』
『生徒会室への突入が失敗しました……足場班の二人と連絡が取れません』
『……どういう事だ?』
『どうやらネズミが一匹入り込んだようで……コイツが我々の計画を知ってしまったようです』
『……そうか……仕方ない。時間が惜しい。九条の孫娘は諦める。お前たちは戻ってこい』
『了解。オーバー』
男はすぐにハンドサインで撤退を伝える。
黒ずくめの男達は、静かに廊下を戻っていくのだった。
◆
生徒会室に隣接する、備蓄用の部屋の中。
生徒会室にバリケードを築いた後、生徒会のメンバーたちは、この備蓄用の部屋の中に身を隠していた。
「急に静かになったわね……」
亜里沙がそう呟く。
「敵の罠かもしれません……もう少し隠れていた方が良いのでは?」
副会長が亜里沙の呟きに答える。
「わたくしが様子を見てきますわ」
「えっ?」
麗華がそう言うと、亜里沙が驚いた表情で麗華を見つめる。
「麗華……まだ危険かもしれないのよ」
「それは理解しています……ただ、先程わたくしの従者の声が聞こえたような気がしたので……確認しておきたいのですわ」
麗華はそう言って倉庫の中のメンバーの顔を見る。
「わたくしが此処を出たら、鍵を掛けて下さって構いませんわ」
「麗華」
「麗華ちゃんっ!!」
亜里沙と詩織が思わず声を上げる。
「大丈夫ですわ……無理はしません」
そう言って麗華は扉に近づく。
「わたくしが出たら、必ず鍵を掛けて下さいませ……約束ですよ」
麗華はそう言って扉を少しだけ開けて、生徒会室の様子を伺う。
室内に侵入された形跡はない。
「行きますわ……」
麗華はそう言うと、静かに生徒会室へと移動する。
麗華の後ろで扉が閉まり、カチャリと鍵の閉まる音が聞こえた。
「もう、引き返せませんわ……あの従者をきっちり問い詰めてやりますわ」
麗華は窓側のバリケードに近づく。
バリケードを組む時に、細身の女性ならやっと通れるくらいの隙間を設けておいたのだ。
「(……この隙間……詩織だったら無理ですわね……色々つっかえるモノが付いてますもの……)」
麗華は隙間の中に体を滑り込ませる。
「(音がしないというのも……怖い物ですわね)」
麗華は四苦八苦しながら窓の所まで移動に成功する。
「(しかし、酷い物ですわ……)」
麗華は外れた窓枠や、飛び散ったガラスの破片を見ながら呟く。
「(此処から足場に出られそうですわね……)」
麗華は窓枠に手を着くと、その体を足場の上に移動させる。
ガシャン
麗華は防風シートと足場の間から、恐る恐る下を覗く。
すると、地面に人が倒れているのがかすかに見える。
「(誰か倒れている……此処を襲ってきた人たちかしら……でも何で?)」
麗華は静かに足場を歩いていく。
途中階段になっている部分があり、其処から下の階の様子を見る。
「(此処にも人の気配はしませんわ……)」
麗華は意を決して、二階部分の足場に移動する。
そしてもう一度、下を覗き込む。
左の方向には、黒ずくめの男が二人倒れている。
「(何があったのかしら……)」
そして麗華が右の方を見る。
「えっ!?」
麗華の心臓が跳ねる。
其処には、彼女が見たかった後姿があったからだ。
麗華はとっさに立ち上がると、階段を駆け下り、その背中に近づいて行く。
「陸っ!!」
その背中の人物がゆっくりと振り返る。
そして見る間にその表情が驚きに変わるのが分かる。
「陸っ!!」
麗華はもう一度その名前を呼ぶと、飛び込むようにその背中に抱き付くのだった。




