第24話 仕掛けられた悪意
一方、一階の陸。
色々考えた挙句に、一つの答えを出す。
「ガラスを割ろう……非常時だし、仕方ないよな」
陸は何か道具になる物を探すために周囲を見回す。
そして、廊下の一角に備え付けられている、赤い円柱形の物体に目をつける。
「……消火器……これを叩きつければ……多少音はするけど……やるかっ」
陸はすぐさま消火器を回収する。
「すいません。俺は悪い事をしますっ!!」
そう言って陸は消火器をガラス窓に向かって叩きつける。
バキャッ
「えっ?」
陸の予想に反してガラス窓は砕け散らなかった。
確かに罅は入ったが、破片となって砕け散る事は無かったのだ。
「何で?」
陸はガラス窓に近づいて、よく観察する。
するとガラスとガラスの間に、薄いフィルムのような物があり、これによって破片が飛び散る事を防いでいたのだ。
「合わせガラスかっ!?」
陸は思わず膝をつく。
「……これを破るのは一苦労だぞ……何で学校のガラス窓が合わせガラスなんだよ……」
しかし、陸はすぐに考え直す。
「……くそっ……どうしたら……」
陸はよろよろと立ち上がる。
割れた窓ガラス越しに資材置き場が見える。
「……ん?」
その時、陸は違和感に襲われる。
「何だ……あれ?」
陸の視線の先には、たくさんの電線が繋がる、巨大なブレッドボードのような物があった。
「……えっ……何か、嫌な感じがする……」
陸は割れたガラス越しに、周囲を観察する。
「此処からは良く見えないけど……ケーブルが接続されているのは間違いない……その先にあるのは……スイッチボックス……かな」
そして陸の脳内で、点と点が繋がっていく。
「(あの沢山のケーブルは何処に繋がっている?)」
陸は視線でケーブルを追いかける。
そして、心臓が跳ねる。
ケーブルは足場のパイプへと繋がっているのが見えたからだ。
「(何で足場のパイプにケーブルが……それもあんなに沢山……そしてスイッチボックス……)」
陸の額から冷たいものが伝い落ちる。
「(俺の想像が間違っていなければ……これは……)」
その時、階段の上の方から、多数の足音が聞こえてきた。
「まずいっ」
陸は慌てて周囲を見回すが、隠れられるような場所が無い。
「くそっ……」
陸は消火器を持ったまま、階段の横の壁に身を隠す。
「(今、見つかる訳にはいかないんだっ!!)」
◆
「おい、こっちで何か音がしたよな?」
「ネズミが這い回ってるのか……全員拘束したんじゃねえのか?」
「……そろそろ時間だっていうのに……おい」
男達の声が近づいてくる。
陸は壁の陰に隠れて考えを巡らせる。
「(あいつらが来たら……すぐに見つかる……それはヤバい……考えろ……考えろ、俺っ!!)」
陸は必死に考える。
しかし無情にも足音はどんどん近づいてくる。
そしてついに男の爪先が見える。
「(コヨーテブラウンのBellevilleのブーツ……)」
その瞬間、陸は無意識に消火器のピンを引き抜いた。
「なっ!?」
男が目を見開くのと、陸が消火器のトリガーを引くのが同時だった。
バシュウウッ!!
一気に辺りが真っ白になる。
陸はノズルを持って振り回す。
おかげで階段の周囲が煙幕を張ったように視界が塞がれる。
「くそっ!!」
バンッ、バンッ
至近距離から発砲の音が聞こえる。
「馬鹿者ッ!! 撃つなッ、仲間に当たるぞっ!!」
陸は敢えて声のする方向に突っ込んでいく。
階段に爪先が引っかかり、転びそうになるのを無視して、陸は一気に階段を駆け上る。
男達はまだ白煙の中で、陸の姿を探している。
「(今のうちに……階段を駆け上るんだっ!!)」
陸は階段を夢中で上っていくのだった。
◆
陸は半分パニックになって、夢中で階段を駆け上る。
だから気づけなかった。
三階で止まる筈が、そのまま屋上まで駆け上ってしまったのだ。
狭い空間と目の前の扉がある事で、自分が屋上までやって来てしまったことに気付く。
「(此処は……屋上の入り口……)」
階下の更に下方から、男達が駆け上ってくる音が聞こえる。
陸はドアに近づき、ノブを掴む。
「(此処が開かなかったら……お終いかも……)」
陸は覚悟を決めてドアノブを回す。
ガチャッ
ドアがあっさり開く。
「(えっ、開いたっ!?)」
しかし躊躇している場合ではない。
陸はすぐさま屋上へ飛び出す。
陸が飛び出してきた出入り口の上には、給水塔が設えられている。
よく見ると壁に金属の棒が梯子状に埋め込まれている。
「(とにかく、隠れようっ!!)」
陸は金属の棒に飛びつくと、懸垂の要領で身体を持ち上げる。
出入りの為の小さな穴が天井部分に開いていて、陸はその中へと体を侵入させる。
「(ふうっ……)」
陸は小さく息を吐く。
給水塔がある空間は、四畳半位の広さで、周囲を二メートル程の壁で囲まれている。
その中央には巨大な給水タンクが鎮座している。
陸は給水タンクによじ登ると、周囲を慎重に見回す。
「(どうやら、屋上にはあいつらは居ないみたいだ……)」
陸は給水タンクの上に座り込む。
「(これからどうする……)」
陸は今までの出来事を思い出す。
「あっ!!」
思わず声が出て、慌てて自分で口を押える。
「(そうだよ……あの足場のパイプに繋がるコードとスイッチボックス……もし、パイプの中に爆薬とかが入っていたら……それが一斉に爆発したら……)」
「(でも何で足場のパイプなんだ……あれじゃ校舎を破壊したりできないんじゃ……精々ガラスが割れる位……)」
「(んっ? ガラスが割れる……教室の中には拘束された生徒達……)」
爆風で粉々に吹き飛ばされるガラス片が、生徒達に襲い掛かる光景。
陸は自分の想像に恐怖する。
「(そんな残酷な事が……目的……なのか?)」
無意識のうちに手が震えている事に気付く。
思わず親指を噛む。
「(……くそっ……俺に出来る事は……まだ、何かある筈だ……)」
陸は屋上を睨みつけながら、考えるのだった。




