第22話 九条麗華を探せ
麗華と詩織が教室を出て暫く経った頃。
黒ずくめの男二人が、麗華たちの教室に現れる。
「静かに……静かにしていれば手荒な真似はしない」
男はそう言って、持っていた結束バンドの束を一番前の生徒に投げつける。
「これでお互いに拘束し合うんだ。後ろ手で頼む」
そう言って、威嚇するようにMP-5を振って見せる。
一番前にいた生徒が結束バンドを掴むと、隣の生徒に話し掛ける。
「ごめんね……」
「ううん。仕方ないよ……」
そう言って隣の席の子は、後ろを向いて両手を背中に回す。
その細い手首に、真っ黒な結束バンドが巻かれていく。
「時間が無いんだ……さっさとやれっ……」
黒ずくめの男が静かに命令する。
「……そのまま聞いて欲しい。このクラスには『九条麗華』がいる筈だが……何処にいる?」
その問いかけに、クラスメイト達の動きが止まる。
「正直に名乗り出て欲しいんだが……我々も時間が惜しいんでね」
男はそう言うと、MP-5のセレクタを操作する。
そして目の合った男子生徒の近くに歩み寄る。
「お前……目が合ったのが運のつきだ……」
そう言って男子生徒の首筋にMP-5の銃口を押し付ける。
「ひいっ!!」
「正直に名乗り出ないと……どうなるか実演してみせようか?」
男は教室の中を見回す。
生徒達は皆震えて動かない。
「……残念だ……非常に残念だ。我々も遊びではないのでね」
そう言って引き金に指を伸ばす。
「ま、待ってくれっ!! 九条さん達は、さっき教室から出て行ったんだっ!!」
男子生徒が大声で叫ぶ。
「……どういう事かな?……説明しろ」
「さ。さっき見たんだ……九条さんと花房さんが廊下に出て行く所をっ!! だから、この教室にはいないんだよっ!!」
男子生徒は涙を流しながら大声で叫ぶ。
「だから……だから助けてくれよっ!!」
黒ずくめの男がもう一人の男にアイコンタクトする。
もう一人の男が、手近な生徒の頭に銃口を押し付ける。
「アイツの言っている事は本当か?」
「……た、たぶん。ただ、本当に今、教室の中に九条さん達はいないっ!!」
生徒は震えながら答える。
「ちっ……逃がしたようだな」
黒ずくめの男が呟く。
「分かった……おい、見ているんじゃない。さっさとお互いを拘束しろっ!!」
そう言いながら、男はポケットからトランシーバーを取り出す。
『こちらチーム4。ターゲットは教室内に居ない……オーバー』
『……どういう事だ?』
『分からん……が、我々が来る前に教室から移動したようだ』
『了解した。お前たちは制圧後、エレナと合流しろ。隣の教室にいる』
『了解。オーバー』
黒ずくめの男は通信を終えると、もう一度教室内を見回すのだった。
◆
生徒会室は校舎の三階にあり、放送室とは反対側の端にある。
此処には、生徒会長の後藤亜里沙を中心に、生徒会役員が集まっていた。
「常日頃から危機管理について事前準備をしていたのが、こんな事で役に立ってしまうとは……」
亜里沙はそう言って唇を噛む。
「しかし、放送室を占拠されたのは痛いですね。これでは外部との接触が出来ない」
副会長の男子生徒が答える。
「携帯は使えないの?」
「それが、さっきからやっているんですが……圏外の通知が出てしまいます」
今度は書記の女生徒が答える。
「となると……外部に救援を求めるのは難しいわね」
亜里沙が悔しそうに呟くと、他の生徒会役員達も黙って俯いてしまう。
「やはり放送室を何とかしないと」
「でも、相手はテロリストよ。銃声を聞いたという情報もあるわ」
「だからと言ってこのまま此処に立て籠もっていても事態は解決しないぞっ!!」
「じゃあ、あたし達に何が出来るの? 相手は銃を持っているのよっ!!」
副会長と書記の女の子が激しい口論を始めてしまう。
「二人とも、落ち着いて……此処はまだ奴らには見つかっていないようだし……少し考えましょう」
亜里沙の言葉に、二人がハッとしたように頷く。
「外部と連絡を取るにしても……わたし達には情報が無さすぎるわ……」
「「……」」
生徒会室に静寂が包まれる。
その時不意に、生徒会室の扉が小さくノックされる。
「「「っ!?」」」
室内の三人が慌てて扉の方へ振り返る。
すると小さな声が聞こえてきた。
「会長……後藤会長はいらっしゃいます? 麗華です。九条麗華です」
「麗華っ!?」
亜里沙が頷くと、副会長がドアの鍵を開ける。
扉を慎重に開けると、室内に麗華と詩織が飛び込んできた。
「やっぱり。会長なら、此処にいらっしゃると思いましたわ」
「麗華……何を無茶しているのっ!!」
亜里沙は麗華の肩を掴んで、その顔を見つめる。
「敵は武装しているのよっ!?」
「……はい。知っています。少し前に銃撃を受けましたわ」
その答えを聞いて、亜里沙の顔色が変わる。
「会長……此処に来たのは、会長に聞いて欲しいお話があるからですわ」
「……聞いて欲しい……話?」
「はい。まだ、仮説なんですけど……多分、これが正解だと思いますわ」
麗華はそう言って、先程までの自分の考えを亜里沙に伝えるのだった。




