第21話 生徒会室防衛線
陸が出て行った直後の教室。
誰もが無言で身体を震わせている。
麗華と詩織も同様だった。
「……陸」
麗華が思わず陸の名前を呼ぶ。
「麗華ちゃん……」
詩織が麗華の背中を優しく撫でる。
少しずつ麗華が冷静さを取り戻す。
「(今、この学園で何が起きているのか……正確に理解しないと……)」
麗華は断片的な出来事の記憶を繋げていく。
「(隣の教室で、銃声のような音が聞こえたと言って陸が出て行った……)」
「(そんなドラマや映画のような出来事が起こる訳が無いと、高を括っていた……)」
「(……隣の教室を覗いたら……本当に銃撃された……)」
麗華は大きく深呼吸する。
「(そして……あの校内放送……)」
麗華は教室内のクラスメイト達の顔を見る。
「(何故、この学園を……偶然ではないわ。言っていたじゃない、『永田健介』の不正を暴くって……)」
その名前を呟いたとき、何故か麗華の心臓が跳ねる。
「『永田健介』……あの永田のおじさまの事? お爺様の所によくいらしていた……」
思わず考えている事が口に出てしまう。
「永田のおじさま……お爺様……ひょっとして……」
麗華の心の中に、澱のような何かがジワリと広がる。
「(ひょっとして……この学園が狙われたのは……『九条』が関係している……)」
麗華の思考が、次々と繋がっていく。
「(この学園には、九条の関係者の子息、子女が多く通っている……)」
麗華の呼吸が荒くなっていく。
「(この計画が『九条』をターゲットとしているのならっ!?)」
「麗華ちゃんっ!!」
その瞬間、麗華は詩織に抱きしめられる。
「麗華ちゃん……しっかりして……あたしが付いているから……」
そう言う詩織の身体も震えている。
「……詩織……」
麗華は優しく詩織の身体を抱きしめる。
「ごめんなさい。もう大丈夫ですわ。少し思考の海に沈んでいたようですわ……」
「麗華ちゃん……」
「詩織……少し付き合って頂けます?」
「麗華ちゃん?」
「不出来な従者のフォローも、上に立つ者の責任ですわ」
「……」
詩織を見つめる麗華の瞳は、先程までの怯えた瞳ではなかった。
「その為には生徒会室へ……生徒会長なら、この状況から判断して、生徒会室にいると思いますわ」
「で、でも……」
「詩織の不安は理解できますわ……今のわたくし達に何が出来ると言うのでしょう? だからこそ、まずは合流しませんと」
麗華の真剣な眼差しに、詩織は頷いていた。
「わかった……佐伯君だけを危険な目に会わせる訳にはいかないもんね」
「ええ。全く世話の焼ける従者ですわ」
麗華と詩織はもう一度頷きあうと、教室のドアを開け、廊下の様子を伺うのだった。
◆
一方の陸。
陸は物陰に隠れながら、一階へと移動してきた。
「(確か、此処から突き当りまで移動すれば、資材置き場に近いはず……)」
陸は微かな記憶を頼りに移動していく。
途中に教職員室がある。
そっと中を覗くが、室内には誰もいない。
よく見ると机の上や床の上に、巻き散らかされたように書類が散らばっている。
「(誰もいない……そうだよな……テロリストなら最初に此処を襲うよな……)」
陸は教職員室の中で、何か武器になる物を探そうとする。
しかし、すぐにその考えを止める。
「(下手に武器を持っていると、却って撃たれる可能性が高い……危険だけど、丸腰の方が良いか……)」
陸は物色するのを止めると、当初の目的通りに資材置き場に一番近い出入り口を目指す。
「(アイツらが何者かは分からないけど……学校を占拠するだけじゃない筈……何か目的がある筈)」
陸は教職員室の扉を少しだけ開けて、廊下の様子を伺う。
テロリストたちが跋扈している筈なのに、何故か一階は静寂に満ちている。
「(誰もいないのは不気味だけど……これも奴らの作戦なんだろうな……)」
陸は周囲に目を配りながら、廊下の突き当りを目指すのだった。
◆
幸いな事に、陸は誰にも発見されずに廊下の突き当りに到着する。
其処にはアルミ製の両開きのドアがあった。
陸がドアノブに手を掛けるが、ドアノブはガチャガチャ音を立てるだけで、一向に回る気配が無い。
「(鍵が掛かっているのか……じゃあ、窓からはどうだ?)」
陸は廊下の窓の鍵を開ける。
そして窓ガラスを開けようとするが、ピクリとも動かない。
「(何で開かないっ!?)」
その時、陸の視界に窓ガラスのレールに、透明な溶けたプラスティックのような物がこびり付いている事に気付く。
「(これって……接着剤?)」
陸は次の窓に移動して、レール部分を確認する。
「(こっちも接着剤で塗り固められているっ!!)」
その瞬間、陸はテロリストたちの思惑に気付く。
「(これは、俺達を校舎から逃さないためっ!?)」
陸は廊下を振り返る。
廊下にはたくさんの窓ガラスがあるが、多分全ての窓ガラスが同じ状態なのだと気づく。
「(……でも、いつからだ? 校舎の外装工事が始まってまだ一週間も経っていないのに……)」
陸は思わず呟く。
「(……どんだけ用意周到なんだよ……でも、だからと言ってこのままじゃ……)」
陸は、次の手を考えるのだった。




