第13話 留学生に『明日は学校に来ないで』と言われました
次の日の朝。
鳳城学園の通用口には、ワンボックスカーが一台停車していた。
警備員がノートパッドを持って、その車の運転席に近づく。
「おはようございます。今日はどのような御用で?」
「現場監督の狭間さんには伝えておいたんですが、校舎外装の養生の作業で来ました」
そう言って、運転手は入場許可証をダッシュボードに乗せる。
「ああ、聞いています。車は資材置き場の所に停めて下さい。帰りにこの書類を忘れずに提出してください」
そう言って警備員は一枚の書類を取り出す。
「狭間さんのサインが必要になるんで、忘れないで下さいね」
「承知しました」
そう言ってワンボックスは鳳城学園の中へと入っていく。
警備員はその車を見送ると、すぐに次の車の対応に追われるのだった。
◆
ワンボックスは資材置き場の隅に停車する。
車の中から作業服を身に纏った男達が七人ほど降りてくる。
その中の二人が、資材置き場に置いてあるブルーシートを引き剥がす。
中から段ボールに入った大量の接着剤のカートリッジが現れる。
「エポキシガンへの装填を急げ……午前中には片をつけるぞ」
運転手の男の声に、男達は無言で頷く。
ワンボックスのリアハッチが開かれ、中から大量のエポキシガンが姿を現す。
「片っ端からやれ……何か聞かれたら『養生作業』だと言え……出来るだけ騒ぎを起こすなよ……いいな」
そしてエポキシガンへの接着剤カートリッジの装填作業が始まる。
「装填が終わった者から行け……」
男達がエポキシガンを持って、防風シートの中へ姿を消していく。
運転手の男が車の中から数枚のボードを取り出す。
其処には『養生作業中に付き、関係者以外の立ち入りを禁止します』と書かれていた。
運転手の男はそのボードを持つと、防風シートの入り口に掲げる。
「まあ、気休めなんだが……」
そう言って運転手の男は次の入り口に向かう。
◆
防風シートの中では、男達は窓枠の前で立ち止まり、サッシのレール部分にエポキシ接着剤を流し込んでいく。
「綺麗にやる必要は無いぞ……開かなくするのが目的だからな」
男達は無言で頷き、黙々とサッシを接着剤で固定していくのだった。
◆
一方、正門前。
結局、陸は今日も麗華の鞄持ちを行うべく、正門の前に立っていた。
「(どんだけお人好しなんだよ……俺)」
朝起きた時は、すっぽかしてやろうと思っていたのに、目を瞑ると早乙女の顔が浮かんでしまう。
『明日もよろしくお願いします』
その一言が、耳から離れない。
「まあ、俺もオッケーしちゃったからな……約束を破るのも嫌だし……」
そんな事を呟いていると、正門の前に見覚えのあるマイクロバスが到着する。
留学生が利用する通学の為のバスだ。
いつものようにインターナショナルな生徒達が降車してきて、そのまま正門の向こう側へ姿を消していく。
そして最後にエレナが姿を現す。
「エレナッ」
陸が声を掛けるが、何故かエレナのリアクションが薄い。
「……? エレナ……どうかした?」
陸は思わずエレナに駆け寄る。
「……あ、リク……」
エレナは少し驚いたように陸の顔を見つめる。
「エレナ……調子でも悪いのか? 顔色が良くないぞ?」
「えっ……ああ、うん。大丈夫……気にしないで……」
「気にしないでって……そんな事言われても……」
陸がそう言うと、エレナは急に陸の目を見つめる。
「えっ……なに?」
「……リク……明日は学校に来ないでって言ったら……どうする?」
「えっ? そんな事言われても……まだ新学期も始まったばかりだし……ちょっと難しいかな」
そう答えると、エレナが顔を伏せる。
「……そう……だよね……ごめん。変な事言って……」
「エレナ?」
エレナは顔を上げると、無理やり笑顔を作る。
「あたし……行くね……また、後で」
そう言ってエレナは踵を返す。
そして陸が何かを言いかけるのを振り切るように、正門の向こうへと走って行ってしまう。
「……何だったんだろう……何か様子がおかしかったな……」
陸は首を捻るが、考えても答えは出ない。
「昼休みにでも事情を聞けばいいか……」
陸はあまり深く考えないようにした。
「(気になるからって……あんまりズカズカと深入りしてもな……)」
そして其処へ早乙女の運転する車が入ってきて、陸の横に停車する。
陸は思わず後部ドアに手を掛け、ゆっくりとドアを開ける。
いつものように優雅な仕草で麗華が車外に姿を現す。
そして陸の顔を見た途端、ブワッと顔と耳が赤くなる。
「おはよう、お嬢様」
陸がそう挨拶すると、麗華はそっぽを向いて返事をする。
「……お、おはよう……」
其処へ早乙女が現れ、陸の手に麗華の鞄を手渡す。
早乙女は陸を見つめて小さく頷く。
「お、お任せください……」
つい、そんな返事をしてしまう。
麗華は横目で陸と早乙女のやり取りを見ていたが、陸が鞄を受け取るのを確認すると、さっさと歩きだす。
「ほら、行きますわよっ」
麗華はほんの少しだけ首を振り返らせて陸に声を掛ける。
「はいはい。(なんだかな……)」
陸はそう返事をすると、麗華の後を追いかけるのだった。




