第10話 嫉妬して凹んでいたら留学生が優しかった
カラーンッ、カンカンッ、ガチャン、ガチャン
今日も校舎を包み込む足場の設置が行われている賑やかな音が響く。
ホームルームで担任から指示があった。
「足場の工事は今日で終わるので、明日からは少し静かになると思いますよ」
「ただし、工事中は色々な飛沫が飛散する可能性がありますから、なるべく窓を開けないで下さいね」
「工事は十日を予定しています」
それだけ伝えると、担任はさっさと教室を後にする。
担任がいなくなり、教室の中が騒がしくなる。
陸が机に突っ伏していると、さっそく詩織が近寄ってきた。
「おはよう、佐伯君。元気は……なさそうだね?」
「……おはよう……見ればわかるだろ……」
「何をそんなに凹んでいるのかなぁ? あ、麗華に留学生の娘、取られちゃったって思ってる?」
詩織がピンポイントで陸の心を抉ってくる。
「そんなんじゃねえよ……それにエレナは誰のものって訳じゃないだろ?」
「うふふふ。そうですね。佐伯君の言う通りです」
「じゃあ、放っておいてくれよ……」
しかし詩織は立ち去らない。
それどころか、陸の耳元に顔を寄せて囁きかける。
「拗ねてる男の子は可愛いけど……度を越すと可愛くないですよ……」
その言葉に思わず陸が詩織を睨む。
「駄目ですよぉ、女の子にそんな怖い顔しちゃぁ……モテませんよぉ?」
その瞬間、詩織がでっかい家猫に見えてきた。
「(……あー、あれだ。俺は、猫に捕まった虫けらだ……)」
陸は朝から、詩織の玩具にされるのだった。
そんな二人の様子を、麗華は自分の席から横目で見つめるのだった。
◆
昼休み。
現場監督の狭間のスマートフォンが振動する。
「誰だ……ああ、クライアントさんか……」
そう言って狭間が電話に出る。
「狭間です。お世話になっております……はい。順調に作業は進んでいます。足場も午後一には作業が完了します……はい? 養生作業ですか……まあ、スケジュールに余裕が出来ましたから大丈夫ですよ……はい」
「分かりました……防風シートの作業が終わったら、養生の工程を入れておきます……あ、作業は専門の業者が来るんですね……分かりました。学園には連絡を入れておきます」
そして電話が終わる。
「スケジュールに余裕があったから良いようなものの……しかし、養生作業か……何処の事を言ってるんだか……」
狭間はそう言うと、スマートフォンをポケットにしまう。
そして、午後の予定に頭を切り替える。
「天気も良いし……シート張りも順調にいきそうだな……」
「あ、狭間さーん、ちょっと良いですか?」
職人の一人が狭間に声を掛けてきた。
「おう、今行く」
狭間は、返事をすると職人たちの元へ向かうのだった。
◆
同じく昼休み。
陸は一人で食堂へ向かう。
教室内で陸に話し掛けてくるのは麗華と詩織だけだ。
その二人は生徒会室でお昼を食べているので、自然と陸はボッチになる。
「(別に寂しくなんかないさ……と思う)」
陸の脳裏に今朝の光景が蘇る。
「(うああああああああっ!!)」
陸は思わずその場に蹲る。
そんな陸を怪訝そうに見ながら生徒達が避けていく。
「(くっ……男の嫉妬とか……みっともない……みっともないぞっ!!)」
陸がそう呟いて勢いよく立ち上がる。
「きゃっ!!」
「えつ!?」
背後から聞こえた小さな悲鳴に、陸が思わず振り返る。
其処には驚いた顔をして陸を見つめるエレナの姿があった。
「エ、エレナ……」
「リク……びっくりするから……もう、いきなり立ち上がらないでよ」
「ご、ごめん……ちょっと凹んでたんで……」
「へこむ?」
「ああ、ちょっと落ち込んでただけだから……」
落ち込む原因になった女の子に、その事を話す事だけは避けたい陸だった。
「そう……なの? まあいいや。陸はこれから食堂なの?」
「うん。エレナも?」
「うん。陸の後姿が見えたから、一緒に行こうと思って……そしたら急にしゃがみ込んで……具合でも悪いのかなと思って声を掛けようとしたら……」
「あー、ごめん。すいません」
陸はペコペコと頭を下げる。
するとエレナがクスッと笑う。
「具合が悪くないんだったら……良かった」
「えっ」
何故かそう言われた瞬間、陸の心臓が跳ねた。
陸が固まっていると、エレナが声を掛ける。
「早く行こう。メニューを確認しなきゃ」
「あ、ああ」
陸はエレナに引きずられる形で食堂へ向かうのだった。
◆
陸が『鶏のから揚げ+タルタルソース』のから揚げを口に放り込む。
「うまっ……学食とは思えないな……」
「日本って凄いね……何でも美味しい」
「まあ、そうでもない所もあるんだけどね……」
そしてワンタン入りの中華スープを啜る。
「しかしさあ……お嬢様がスペイン語話せるとは思わなかったよ……」
「うん。あれはびっくりしたよ。綺麗な発音だったし」
「そうなんだ……二人がずっと喋っていたけど、全然分からなかったよ」
「あっ……そうか。朝はごめんね。久しぶりに母国語で話せたもんだから……つい嬉しくなっちゃって……」
「いいよ、いいよ。そういう事あるんだろうし……ただ、俺も少し勉強しようかなって思ったよ」
「えー、本当? リクがスペイン語話してくれたら、あたしすごく嬉しいと思う」
エレナのストレートな物言いに、陸の顔が思わず赤くなる。
「う、うん。頑張ってみるよ……」
「楽しみにしてる。もちろん、分からない事はあたしに聞いてね」
「う、うん」
陸は何となく気恥ずかしくなり、大きな唐揚げを口に放り込むのだった。




