第8話:勝手にナイトメアモード
第8話:勝手にナイトメアモード
「はい、一般のお客様はセーフティエリア(規制線の外側)でお待ちくださーい! まもなくショーが始まります!」
『はじまりの広場』の西通り。
黄色い誘導灯を持った例の男性町人が、真顔でテキパキとテープを張り、集まってきたプレイヤーたちを安全圏へと誘導していた。
ハルが「何やってんの!?」と声をかけると、男性町人は首だけをこちらへ向けた。
「あ、ハルさん。ただいま『治安維持バイト』でホラーナイトのエリア規制を行っております。某テーマパークのイベントのようなものだと思って、テープの外側から安全にご鑑賞ください」
「テーマパーク感覚で害悪プレイヤー処理しようとしてる!?」
ハルのツッコミの先――規制線の内側では、行儀の悪いNPC狩り勢数人が、露店を荒らしたままキョトンとしていた。
「あぁ? なんだよこの黄色いテープ……」
被害を受けていた露店の店主NPCが、スッと胸元から黒い羊皮紙を取り出し、メガホンで叫んだ。
「当店舗への暴行行為を確認いたしました! これより当エリア限定『ナイトメアモード(ホラーナイト)』を開催いたします!」
次の瞬間、規制線の内側の空だけがドス黒い紫に染まり、地面からぬっと半透明の怨霊たちが湧き出してきた。空気がひやりと重くなり、二の腕に鳥肌が走る。
【警告:指定エリア内の敵対対象に対して『ナイトメアモード(強制霊イベント)』が発動しました】
「うわっ!? なんだこれ、急にホラー映画みたいになったんだけど!?」
慌てたNPC狩り勢が剣や大魔法を叩き込むが、攻撃はすべて怨霊の体を虚しくすり抜ける。物理も魔法も一切効かない怨霊の大群に揉まれ、PKプレイヤーたちは悲鳴を上げながら一瞬で全滅し、教会へと送られていった。
……しかし、害悪プレイヤーがいなくなった後も、街に解き放たれた怨霊の大群は消えず、ウジャウジャと蠢いている。
「あ、あいつら全滅したのに怨霊残っちゃってるじゃん! 大丈夫なの!?」
ハルが焦ると、男性町人はメガホンを構えて集まったプレイヤーたちへ爽やかにアナウンスを始めた。
「ご安心ください。これより、残った怨霊を退治する『街区復興ミニイベント』を開催いたします! 皆様には無料で『残弾無限・聖水水鉄砲』をお配りいたしまーす!」
「ちゃっかりミニイベントに移行したー!?」
ハルがツッコむ間もなく、外側のプレイヤーたちに水鉄砲が手際よく配られていく。
「なお、この水鉄砲は本イベント限定の専用アイテムとなっております。イベント終了後は自動回収されますので、今のうちに思う存分お使いください。……ただし!」
男性町人は真顔のまま、ビシッと注意点を指さした。声のトーンだけが一段、低くなる。
「好奇心でイエローテープを越えて内側に入った瞬間、すべての怨霊が一斉に襲いかかってきますので絶対におやめください」
「怖っ!? 判定が厳しすぎるだろ!!」
ハルが叫ぶ横で、外側のプレイヤーたちは「すげぇ!」「撃て撃てー!」と限定の水鉄砲をバシャバシャ放ち、安全圏から爽快に怨霊たちを撃ち抜いていく。まさにテーマパークのアトラクション状態だ。
その時、空中にシステムメッセージがポップアップした。
『【運営アナウンス】NPCが独自にナイトメアモード(ミニイベント)を発動する事象を確認。……こんな機能実装していませんが、プレイヤーの満足度が非常に高いためそのままにします』
「運営もイベントとして完全に乗っかってんじゃねえよ!!」
ハルがツッコむと、男性町人はスッとハルに「高級・聖水ショットガン」を差し出してきた。
「ハルさん。あちらのショップで販売中の有料版(課金製)水鉄砲をお使いになれば、さらに広範囲の除霊が楽しめますよ。一発いかがですか? こちらはイベント後もインテリアとして飾れます」
「無料のイベント限定水鉄砲で十分楽しめてるから買わないよ!!」
害悪プレイヤーを迅速にお仕置きし、残った怨霊すらも期間限定の無料ミニイベントに変えてプレイヤーを楽しませ、ちゃっかり集金まで狙ってくるNPCたちの恐ろしい手腕に、ハルは呆れつつも水鉄砲を撃ち続けるのだった。
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