第6話:群れを作るモンスターたち
第6話:群れを作るモンスターたち
「……おい、あれ見ろよ」
「マジか、何やってんだアイツら……?」
街の外へ一歩足を踏み出したハルは、平原のあちこちで足を止めているプレイヤーたちの群れに気づいた。
ハルも視線を向けると、木陰の近くで小柄な魔物――ゴブリンの集団が集まっている。
本来のゴブリンといえば、プレイヤーを見つけ次第キーキー叫びながら単身で突撃してくる、典型的な「初心者用の雑魚モンスター」のはずだった。
しかし、目の前にいるゴブリンたちは違った。
一匹のゴブリンが木の上で見張りをし、別の数匹は狩ってきた野うさぎを囲んで何やら「ギャウギャウ」と話し合いながら、等分に切り分けて分配している。
さらに奥では、縄張りの境界線と思われる木に爪で印をつけていた。
「……え?」
ハルは目を疑った。乾いた風が平原を吹き抜け、草の匂いと共に、ゴブリンたちの唸り声が耳に届く。
「ゴブリンが……縄張りを作って、食糧を分配して、見張りまで置いてる……!?」
思わず声が出たハルに、いつの間にか隣(の平原の草むら)に立っていた例の男性町人が静かに語りかけた。相変わらず気配がなく、真顔のままだ。
「ハルさん。大型アップデートの影響は、私たち人型NPCだけに留まらないようですね」
「うわっ、男性町人さん!? 街の外まで何しに来てんの!?」
「薬草の採集です。それよりも、ご覧ください。野生のゴブリンたちが自主的に『社会』を形成し始めています」
「社会!? ゴブリンが!?」
「ええ。互いに協力し、群れを守るための規律を生み出しているようです。運営の方々が意図して実装されたのか、それとも私たちと同じように、自分たちで学んだのか……そこまでは分かりませんが」
ハルはゴブリンたちの統率取れた動きを見つめながら、背筋が少し寒くなった。腕に鳥肌が立つのが分かる。VRの感覚だと分かっていても、その冷たさは本物と変わらない。
「なぁ……これ、このまま放っておいたら、あいつら文明築いて街に攻めてきたりしない……?」
「その可能性もゼロではありませんね。ですが、野生の魔物は野生の魔物です。彼らがどれほど社会性を持とうと、生態系を脅かす存在であれば討伐するのがこの世界のルールです。現実世界で人間が野生動物の増加を抑えるのと同じですね」
「急に現実的な生態系管理の話になったな……」
「ただ……」
男性町人はゴブリンの群れを見つめたまま、少し言葉を止めた。何かを考えているような、そんな間があった。
「あのように規律正しく食糧を分け合い、助け合う姿を見ていると、少しだけ感心してしまいますね」
「まあ、確かに……ただのバカな雑魚モンスターだと思ってたから、ちょっと見方は変わるかも」
ハルが少しだけゴブリンたちに情を抱きかけた、その時だった。
見張りのゴブリンがハルたちに気づき、「ギャアッ!」と警戒音を上げた。
すると食糧を分配していたゴブリンたちが一斉に素早い動きで木彫りの盾を構え、美しいフォーメーションでハルを取り囲んだ。土を蹴る音が、四方から一斉に響く。
「めちゃくちゃ連携の取れた挟み撃ち!!」
ハルのツッコミに、男性町人は冷静に腰の短剣を抜いた。
「ハルさん、情を移すのは結構ですが、彼らは明確に敵意(赤ネーム)を示しています。戦うか、逃げるかの二択です」
「分かってるよ! 剣抜くから手伝って!!」
NPCだけでなく、魔物まで勝手に生き始め、勝手に賢くなっていくこの世界。
ハルは「このゲーム、本当にどこへ向かおうとしてるんだ……?」と戦闘体勢に入りながら、引きつった笑いを浮かべるのだった。
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