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第4話:危険人物、出禁につき

第4話:危険人物、出禁につき


「うわっ……なんだあの空気?」


ショートソードを腰に下げたハルは、街の中央通りで人だかりができているのを目撃した。


野次馬の中心にいるのは、厳めしい鎧を着込んだプレイヤー。大声を上げて、果物屋の店主に詰め寄っている。


「おいコラ! なんで俺が店に入れねえんだよ! アイテム買わせろよ!」


対する店主のNPCは、表情ひとつ変えないまま、淡々と答えていた。


「申し訳ございません。お客様は当店舗、および近隣商店街の出入り禁止リストに登録されております」


「はぁ!? 出禁!? ゲームのNPCが出禁とか意味わかんねえだろ! 顧客だぞ!」


「昨日、当店の陳列棚を無断で蹴り飛ばし、売り物のリンゴを踏みつぶした上、暴言を吐かれましたよね。当店では、危険人物および反社会的な挙動を示すプレイヤー様への商品販売をお断りしております」


「そんな昔のこと覚えてんじゃねえよ!」


「昨日です」


「細かいこと言うな!」


「昨日のことを昨日と申し上げただけですが」


鎧のプレイヤーは、言葉に詰まったのか、代わりに大きく舌打ちをした。


「プログラムのくせに生意気言ってんじゃねえぞ!」


プレイヤーが店主の胸ぐらを掴もうとした、その瞬間。


通りがかりのNPC兵士たちが無言でヌッと現れ、そのプレイヤーをガチガチに取り囲んだ。足音ひとつ聞こえなかったのが、逆に不気味だった。


「治安維持ガイドライン第3条に基づき、他者への威圧行為を行ったプレイヤーを拘束します。街の外へ強制転送いたします」


「おい離せ! 運営にクレーム入れてやる!!」


「クレーム窓口のリンクは、こちらのシステムメッセージからどうぞ」


律儀に案内までする兵士NPCに、ハルは思わず「対応が丁寧すぎる」と口の中で呟いた。


光の粒子となって追放されていく乱暴なプレイヤー。粒子が空気に溶けて消えるまで、その場の誰もが言葉を発さなかった。


一部始終を見ていたハルは、開いた口が塞がらなかった。


「す、すっげえ……。NPCが自分たちの判断でプレイヤーを出禁にして排除した……」


「ハルさん、こんにちは」


振り返ると、例の能面顔の男性町人がいつの間にか隣に立っていた。相変わらず気配がなく、今度もまた足音を聞いた記憶がない。


「うわっ!? あ、男性町人さん……。今の、すごかったね」


「ええ。私たちはプレイヤー様を単なる『操作キャラクター』としてではなく、この街を訪れる『お客様』として認識しております。ですが、店舗の損害や他のお客様の安全を脅かす存在に対しては、毅然とした対応をとらせていただいております」


「めちゃくちゃしっかりしたコンプライアンス意識だ……」


「先ほどの出禁対応は、まだ軽い方です」


「軽い方なの!?」


「先週などは、武器屋で試し斬りと称して店内の柱を三本ほど破壊されたプレイヤー様がいらっしゃいまして。あちらは即座に永久追放となりました」


「永久って!」


「柱は建材費がかかりますので」


「理由が生々しい!!」


「ちなみにハルさん」


男性町人は懐から羊皮紙のようなリストを取り出した。紙の端が少し丸まっていて、何度も広げられてきたことが窺える。


「ハルさんは『安全・優良プレイヤーリスト』に登録されておりますので、どの店舗でも安心してご利用いただけますよ」


「えっ、俺!? なんにもしてないけど!?」


「『NPCへの不必要な暴言がない』『威圧的な態度をとらない』『会話のドサクサでツッコミは入れるが害はない』『実家で犬を飼っていた優しい雰囲気がある』などの項目で高評価を獲得しております」


「最後の項目、絶対判定基準に関係ないよね!?」


「他にも『薬草屋のおばあちゃんの心配をした』『武器屋の転職に理解を示した』などの加点項目がございます」


「地味な善行まで採点されてたのかよ!」


ハルのツッコミに、男性町人は表情ひとつ変えないまま頷いた。


「評価基準は多角的です。危険人物を排除し、ハルさんのような優良なお客様に快適に過ごしていただくことこそが、この街の治安維持に繋がりますので」


「なるほど……。NPCが自発的に警備して防犯対策までやってくれるなら、プレイヤー側も安心して遊べるな」


「ええ。ちなみに、優良プレイヤー様には定期的な特典もご用意しております」


「お、特典?」


期待に目を輝かせるハルに、男性町人は懐から一枚の紙を取り出した。


「こちらの『優良プレイヤー様限定・武器強化応援パック(有料)』を、特別価格にてご案内可能です」


「結局課金かよ!!」


「特典の中身が課金アイテムなだけです。特典であることに変わりはありません」


「屁理屈のクオリティが高いな!?」


感心するハルに対し、男性町人はすっと羊皮紙を仕舞いながら言った。声のトーンだけが、ふっと一段落ちる。


「それと、ハルさん。治安維持費および防犯カメラ(監視魔法)設置のクラウドファンディングとして、こちらの『街の安全応援課金パック』もぜひご購入ください」


「プレイヤーから防犯費用を集めようとするな!!」


「街の平和は、皆様の温かい課金によって保たれております」


「露骨に集金システムへ繋げてくるんじゃないよ!」


「ちなみに、両方セットでご購入いただくと、割引率が上がります」


「畳みかけてきた!!」


セキュリティ意識が無駄に高いNPCに呆れつつも、悪質プレイヤーがしっかり排除されるシステムに、ハルは少しだけ感心してしまうのだった。




お読みいただきありがとうございました。

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