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4/9

大物が取れると、嬉しいんです。

翌週。

私はタオルを持参した。

「何それ」

「敷く」

「どこに?」

「久世くんの膝」

「…………」

私は猫の刺繍が入った小さなタオルを、彼の太ももに広げた。

「これで寝ても大丈夫」

「準備万端だね」

「二度と久世くんの制服によだれの海は作らない」

「俺は別に気にしてないけど」

「私が気にするの!」

「ふうん」

久世くんはタオルを見た。

「ほんとに好きなんだね、猫。」

「好き。おばあちゃんになったら絶対飼う。あ、今度久世くんの家の猫の画像あったら見せてよ。」

「いいよ。本物がいいなら見にきてもいいよ。」

それだけ言って、久世くんはケースから耳かきを出した。

私はすっかり慣れた動作で横になる。

家に行っていいってことかな?

耳かき以外の約束したことないから、なんか不思議。私と久世くんの関係って不健全なんだか、健全なんだかよくわからんな。


「あー……これこれ」

「おっさんかな」

「うるさいなー」

もう最近は、久世くんの太ももに頭をくっつけるだけで、条件反射で全身の力が抜ける。

耳の奥を覗き込むように、久世くんが指で耳の外側のところを軽く引っ張った。

「ん」

「……あ」

「なに?」

「あ、今日はちょい奥にある」

「取れる?」

「たぶん。ちょっと大きい」

耳かきが入る。

カリ

「…………」

カリ カリ

音が頭の中に響く。

「ちょっと奥触るから動かないでね」

「んー」

「痛かったら言ってね?」

「うん」

耳かきの先が、さっきより少しだけ奥へ触れる。

カリ ガリリ ガリリ ガリ

ぞくぞくする。やばい、気持ちいい。

「……っ」

「痛い?」

久世くんの手が即座に止まった。

「違う。気持ちいい」

「ならいいけど。素直だなー。」

また動く。

ゆっくり。

ひっかけるというより、端を探すみたいに。

カリ

カリ パリリ

少しだけ剥がれる感覚がして――

「取れた」

「ほんと?」

「うん。大きい」

私は目を開けた。

「見る?」

「見る」

久世くんが耳かきの先を見せる。

「うわ」

「大物」

「恥ずかしい。即捨ててください。」

「なんで?取れると嬉しいんだけど。」

そう言う久世くんの声が、珍しくだいぶ温度高め。

耳かきするの好きな人にしてもらう耳かきってほんと最高。


「……久世くん」

「ん?」

「私ばっかり得してない?」

「なんで?」

「だって私、毎週めちゃくちゃ気持ちいい思いして、そのあと寝てるだけじゃん」

「俺も耳かきしたいから、させてもらってる時点で別にいいけど」

「でもさあ」

「じっとしてくれるし」

「寝てるからね」

「妹はすぐ動くからやりにくかった」

「私、優良顧客?」

「顧客ではないでしょ」

「いやいや、久世くんの耳かき技術は店開けるよ。耳かきサロン久世。私、払える範囲ならアルバイトしてでも通うよ。」

「本田さんはタダでいいよ。創設者だから。」

2人でツボにはいって笑った。 


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