あの頃は喋るおもちゃも珍しかったのかもしれない
ホーリーウルフの足が止まったのはそれから5分後のことだった。そこは大きくはあるが何の変哲もない大岩の前。ここに何かがある、ということなのだろう。
降りるよう促され、またもや見知らぬ大地に降り立つシンとイロハ。周りに生物の気配は無く、それはまるでこの場所を避けているのか…はたまたこの場所が生物を拒絶しているのか…。
ともあれ選択肢は一つ。あからさまに怪しいこの大岩を調べるほかない。
「怪しいな…」
「怪しいですね…」
「ここマップにすら載ってないぞ。俺たち以外には何も居なそうだし、全くもってどうなってやがんだ…?」
軽く辺りを見回してみるが、落ち葉が風に飛ばされる様子しか見えない。
「とりあえず触ってみるか。いかにも過ぎるし何かしらはあるだろ」
「回復魔法準備しておきますね」
「一応頼む。まあ流石にトラップなわけ………のわあぁぁぁっ!?!?」
「シンくーーん!?」
俺は大岩に手を触れた瞬間、いきなり物凄い力で内側に引きずり込まれた。そしてそのまま下に向かって一直線。
うん、全然罠だったわ。
「痛ってえなちくしょう…いや痛覚は再現されてないから痛くはないが。普通に落下ダメージもらったぞ…」
あの大岩は幻だった。中に俺たちプレイヤーを誘うための罠。まさかウルフちゃんもグルだったとは思いたくないな。多分、周りを探索するのが正解だったんだな。
まあ終わった事を悔いても仕方ない。この落とし穴にも一応先があるみたいだし、いただけるものはいただいていきましょうかね。
「あ、イロハはどうすっかな。フレンドになるの忘れちまったしメッセージ送れねえわ。まあいいか、これを機に俺なんかとは無縁の楽しいレギオンライフを…」
「シンくん、あぶなーい!!」
「ん?………あ」
「ガルルゥ♪」
頭上から降ってくるイロハとウルフちゃん。
まっずーい、HPそんなに残ってないからウルフちゃんに押し潰されたら死…。
「ゆべしっ」
「ああっ!?大丈夫ですか!?今すぐ回復しますね!」
「グルゥ…」
「あっぶねえ、味方に殺されるところだった…」
なんとか耐えた…。レベルが上がって基礎HPが三桁に増えたからか。それでも二桁台前半までは減ってたから急所判定だったらマジで死んでたな。
ちなみにこのゲームのクリティカルには二種類ある。一つは先程言った急所判定。人間なら首や心臓、モンスターならそれぞれ設定された弱点部位など、簡単に言えば“効率的にダメージを与える手段“だ。
そしてもう一つはLUK頼りのランダムクリティカル。LUKの値が高ければ高いほど確率が上昇し、急所以外を攻撃した時に与えるダメージが大きくなるというもの。出たらラッキー、まあ宝くじと一緒だ。
ダメージの上昇幅は1.3倍、と攻略サイトに書いてあった。あくまで予習したのは基礎知識だけだからそれ以上は分からんけどな。
「すみませんすみません!シンくんがなかなか戻って来なかったので、この子と追いかけたら落っこちちゃって…」
「いやいや、それを言うなら連絡手段を確保しておかなかった俺も悪い。こんなとこに来た時点で想定しとくべきだった。お前もごめんなー」
「ま、まあこうしてみんな生きているんですし!それだけでも良しとしましょう!」
「…だな。そんじゃあ洞窟探索といきますか」
「グルゥ♪」
落ちた先にあったのは大きな空洞だった。それこそ、かなりサイズの大きいウルフちゃんが通ってもまだまだ余裕があるくらいだ。
マップにも載ってない場所だし、こういう時は落ちてる石とかを拾って投げてみるのが良い。そうすると反響する音でここの大体の広さが分かるんだが…。
「そんなに広くはなさそうだし、むしろ狭いぐらいだな。一応戦う準備はしておくか。つっても使えるのは片手剣ぐらいだが」
「あっ、見てください!あの先、開けた場所になってるみたいです!」
「よし、準備は出来てるか?慎重に行くぞ…」
そうして俺たちは大広間に出る。さっきまでと同じように生物の気配は全くないが、異様な圧を放つ何かがある。
ゆっくり、一歩ずつそれに近付いていく。そしてその正体が徐々に明らかになっていく。
うっすらと差し込む光に照らされていたのは、巨大な龍の石像だった。
『客人など、何時振りだろうか』
「キャアァァァァァ‼︎シャベッタアァァァァァ⁉︎⁉︎」
『………此度の客人は中々に騒がしいようだが』
石像が、喋った。
tips:LUKは様々な運が絡む要素に影響します。クリティカルやアイテムドロップ率だけでなく、装備強化の大成功判定からスキルレベルの上昇値にバフが掛かることもあります。ただし、ユニークだけはどうにもなりません。




