暴走機関狼、ウルフちゃん
雨はいつの間にか上がっていた。あの鳥に起因するものだったのか、それともただの通り雨だったのか。まあ真実はどっちだっていい。
それはそうと、さっきの鳥を倒した時になぜか経験値が俺に入っていた。イロハにも入っていたみたいだし、システムは俺たちが倒したって判断したみたいだな。そんでまあ、その経験値の量がおかしかった。
「イロハ………どこまでレベル上がった?」
「えっと…81、ですね。これって高いんでしょうか?」
「このゲームの説明にはスキルレベルの上限が10、プレイヤーレベルの上限が100って書いてあったんだ。つまり、たかだかあの鳥1匹だけで上限近くまで上がったってことになるな。ちなみに俺も81だ」
あの鳥、やっぱ化け物だったんだな。むしろ雷1発でよく沈んでくれたと思うし、ああいうギミックボスだったのかもな。経験値も滅茶苦茶ウマいが、スキルレベルが上がってないのが気になるところ。その辺りは後で調べるとして、今はレベルアップで貰ったSP―――ステータスポイントの割り振りをするとしよう。
手持ちのSPは800。つまりレベルが1上がる毎に10ポイント貰えるって計算になる。そしてこのゲームのステータスの最大値は999。つまりSPだけじゃどう足掻いても能力値はカンストしないってことになる。もしかしたらSPが入手できるクエストなんかもあるのかもしれないが、少なくともすぐに出来るって訳でもなさそうだしな。
割り振り自体はゲーム内通貨であるマニーさえ払えば何度でも変えられるようだが、初期のマニーしかない中でビルドをミスるのは致命的だ。最低限だけ振って残りは後回しにするしかないか。
問題はスキルレベルだ。スキルは今の戦闘において一切の経験値を得られていなかったことから、条件は恐らく使用回数。それも戦闘中じゃなきゃならないだろうな。
そう、このウルフと戦った時のような絶望的状況で糸くずを何度も出さなきゃいけないんだ。さすが魔界、相当イカれてやがる。
まあスキルに関しては追い追い考えるとして、今はどうやってこの森を抜けるかだ。ここに来るまでの間だけでもヤバそうな魔物は何体か見えた。いくらウルフちゃんが居るとはいえ、安全に街まで行けるかもかなり怪しい。ステータスをVITに割り振っておけばそうそう死ぬことはないだろうが、にしたって限度はあるはず。
はぁー…俺も色々起きすぎてテンパってんな。一旦ステータス振りするか。
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NAME:SiN
LV:81
JOB:《糸使い》
HP:450
MP:270
STR(筋力):5→100
VIT(頑強):5→50
DEX(器用):15
AGI(敏捷):5→50
INT(賢さ):15→30
LUK(幸運):0
SKILL:《糸魔法:Lv1》
SP:800→600
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よし、こんなもんか。行動に関わるステータスに振って、VITは急な襲撃にも耐えられるようにするために上げた。賢さに関しては、l糸魔法も一応魔法だから少しは振っておくべきかなという判断だ。LUKはいらん。
これで俺の方はいつでも移動できる準備はできたけど、イロハについてはまだ何も聞いてなかったな。落ち着きがてら聞いてみるか。
「そういやイロハのジョブって何なんだ?見た感じ戦闘職には見えないけど」
「私のジョブは《白魔導士》です。あんまり自分が戦ってる姿を想像できなかったのでサポート系にしようかなーって」
「あー…それだと大変じゃないか?こんな化け物だらけの人外魔境で助けてくれる人もいないだろうし、多分攻撃手段もってないんだろ?」
「そうですね。でもシンくんがいるじゃないですか」
くっ、笑顔が眩しい…。そして俺を信用するのが早すぎる…。もちろん嬉しいんだけど、もうちょい危機感というか…ちょっと心配になってくるわ。
「俺だって始めたばっかの初心者だし、俺の《糸使い》がどんなジョブかも分からん。武器の支給はあるから最低限戦闘職だとは思うんだが」
「へぇー、なんか響きがカッコいいですね!映画で見るような蜘蛛みたいに糸を飛ばしたりできないんですか?」
「俺も最初はそう思ったよ。まあ見れば分かる」
頭の中で《糸魔法:Lv1》を呼び出す。もう慣れてきたし、思考操作って案外簡単なんだな。
出てくるのはさっきの糸くずなんだけど。
「これは…なんというか………」
「正直に言ってくれていいぞ」
「ダサい、ですねぇ……」
「めっちゃ光ってたからすごいんだと思ってこの職業取ったのにこんな仕打ちってなくない?」
「あれ?シンくんもだったんですか?実は私の《白魔導士》も光ってて。それと一緒に《聖なる魔女》ってスキルを手に入れたみたいなんです」
全然俺のより響きがカッコいい…。なんだよホーリーウィッチって。名前だけで強そうじゃん。愚痴はともかく、やっぱりあんだけ光ってたのには意味があったんだ。状況証拠的には間違いないのに、今のところ全くそうは思えないが。
ともあれ、少なくとも移動スキルが無さそうなのは確定した。そうなるとウルフちゃんに出口まで連れてってもらうしかないんだが。
「ウルフちゃん。頼りっぱなしで悪いんだが、俺たちをこの森の外まで連れて行ってくれないか?」
「グルゥ♪」
「おっ、マジか。連れてってくれるみたいだから、イロハも乗ってくれ」
「分かりました。わっ、もふもふで可愛いです。毛並みも気持ちいいですねぇ〜」
ウルフちゃんは身体を屈めて、俺たちが乗りやすいようにしてくれた。本当に人の言葉が解るんだな、中々の賢さに思わず頭を撫で撫でしてしまう。ウルフちゃんも気持ち良さそうに鳴いている。
「よしウルフちゃん、街に向かって走れっ!」
「ガルルゥ♪」
「ちょっと待てっ!そっちは街と逆ぅぅぅ!?」
「ふえぇっ!?全然止まってくれませぇん!?走るの速すぎますしぃっ!」
自動車並みの速度で森を爆走するウルフちゃん。これチュートリアルってマジ……?
tips:魔界にチュートリアルはありません。一刻も早く森を抜けて市民権を獲得しましょう。




