ジェットコースターって乗ってみると意外とそうでもないよね
助けたいのは山々なんだけど、遠距離攻撃手段がないんですよ。さっきこの子に槍折られちゃったからね。
残ってる剣をぶん投げても良いんだけど、これ以上武器を失うのは避けたいしあの人に当てない保証もない。いくらチュートリアルでもPKやっちゃったらペナルティあるよなぁ…。
かくなる上は…。
「ホーリーウルフくぅ〜ん、ちょっとお願いがあるんだけどぉ………」
「フンッ」
「え、何でそっぽ向くんだよ。俺なんかした?いやそもそも味方じゃなかったのか……」
さっきまであんな機嫌良さそうだったのになんだって急に?確かに槍で突いたのは悪かったけどさぁ。俺だって追いかけられたから反撃しただけだしそんな不機嫌になるかね。
頼みの綱のウルフくんにも断られちまったし本当に万策尽きたぞ。うーん、何か手は…ん?これは………。
「雨……初心者エリアでも降るんだな」
ポツ…ポツ…と雨粒が俺たちの身体を濡らしていく。雨は段々と強まっていき、やがて現実世界の台風並みの強さまでになってしまった。
風も出てきていよいよ本格的に厄介になってきた。なんせ吹き飛ばされた枯れ木や落ち葉が視界を塞いできたり、鋭い部分がヒットすると僅かながらダメージ判定が入っている。
要するにレベル1の俺にとって、この継続ダメージは最悪の状況ってことだ。
「ウルフくんの自動回復のお陰でスリップダメージ自体は無効化できてるんだが、それでも視界が遮られるのはキツいな。あの人だっていつまで保つか…」
俺と同じ初心者なら、まず長くは耐えられない。一旦デスして初期地点に戻るのも無しじゃないが、これが強制イベントならそれも意味無いよなぁ。何より、女性に怖い思いを何度もさせるわけにはいかねえ。
………待てよ。ウルフくんが不機嫌になった理由ってもしや。
「なあウルフくん…いや、ウルフちゃん。お前、まさかメスだったりするのか?」
「グルッ、グルルゥ♪」
「マジかよ。どうでもいいことも偶には役に立つもんだな…」
ホーリーウルフ、性別がメスだったという衝撃の事実。いや普通にあり得た話なんだけどな。普通なら絶対に考えなくて良かったから思い浮かばなかっただけで。
あと純粋そうな女性プレイヤーがいないって決めつけは別ゲーでの体験によるものだ。俺がやってきたゲームの中で、出会った女性プレイヤーがまともだったことは唯の一度もない。大抵が頭のネジ三本くらい飛んでる奴らだったからな。万人向け超絶人気ゲームだし、魔界もああいう人ばっかりだったら良いなぁ(願望)。
さて、ウルフちゃんも機嫌を戻してくれたがどうするかな。そもそもの話、ウルフちゃんが何出来るか分からんし。
「なあウルフちゃん、あの人を助けてあげることってできるか?」
なんか人語を理解しているっぽいので、念のため上空の鳥をを指差しながら聞いてみる。ウルフちゃんはグルゥ♪と嬉しそうに鳴くと、全身を屈めて何やら唸り始めた。
段々体毛が逆立って、これじゃあオオカミってかハリネズミだ。
「グルルルル………」
「何をするつもりなんだ…?」
「グルゥ!!」
一際大きな声で鳴いたかと思えば、空が一層暗くなって同時にゴロゴロと雷のような音が鳴り出す。ような、じゃないわ。これ雷だ。
しかも雷雲はあの鳥の真上にだけ集まっている。ま、まさか……。
「ちょっと待ってウルフちゃ」
無念、静止の声も一瞬遅く届かず、ピシャアッと大きな音を立てて雷は巨鳥目掛けて降り注いだ。そう、一発ではない。何度も何度も、巨鳥が落ちるまでだ。
ダメだ、あれじゃあ確実に…。
「うわわわわっ!?おーちーるー!?」
「生きてるぅっ!?う、ウルフちゃん、俺のことはいいからあの人助けに行って!」
「グルゥッ!」
俺の指示を受けて、落下点に向けて一目散に駆け出すウルフちゃん。その様子を遠目に見ていると………え、食べられた?
と思ったらすぐに戻ってきて、しっかり背中に乗せられていた。なーんだ、雨の影に隠れて見えなかっただけか。
「びっくりしました…。おっきなワンちゃんに食べられちゃったのかと…」
「あ、やっぱ口の中には入ったのね……。というか、あの雷でよく生きてましたね」
「私、初心者なので何がなんだか分からなかったんですけど、たぶんこの《フィールド効果無効:Lv1》のおかげだと思います」
なるほど、雨とか雷は自然現象だからフィールド効果判定だったのか。てっきりウルフちゃんがなんかしたからエネミー特有のスキルかと。それともスキルで雷を呼んだってことなのか?
まあどっちでもいいか。こうして二人とも生きてる訳だしな。
「あ、すみません!助けてもらったのにお礼がまだでした!私、Irohaって言います!今日始めたばかりなんですけどゲーム自体も初心者で、そしたた急にあの鳥さんに連れて行かれちゃって……でも本当に助かりました!」
「いやいや、そんな大したことしてないっすよ。俺の名前はSiNです。一応、ゲームはかなり触れてきたつもりですけど、俺もVRそのものが初体験なんで分からないことだらけっすよ。初心者同士、仲良くしましょう」
「はい、頼りにさせてもらいます!」
そういえばこのゲーム、声はいじれなかったな。もしやこの感じだと年齢が近かったりするのか?
「あのー…初対面で聞くことじゃないかもしれませんけど、シンさんってもしかしてかなりお若いですか?」
「一応今年で十九っすね」
「わっ、一個下…。ふふっ、私は今年で二十歳なので私の方がお姉さんですね」
先に聞かれた。あー…この眩しい感じ、バイトとオワってるMMOで廃れた心に効く〜…。
てか歳上か。ゲームだと歴が物を言うしあんま関係ないけど、敬語とか使った方がいいかな?
「なら俺は敬語のままの方がいいっすかね。今も半分くらいタメ口っすけど」
「いやいや、一個しか違わないので気軽にタメ口でお願いします!呼び方もイロハって呼び捨てちゃってください!私もシンくんって呼ぶので!」
「了解。それで、イロハはなんで魔界に?初心者なら人界の方が良かったと思うんだけど」
ずっと気になっていたことを聞いてみる。公式サイトにもあった通り、オーソドックスで初心者が一番入っていきやすいのは間違いなく人界だ。
そっちを選ばずによりにもよってこのイかれた魔界に…?
「スリルを味わってみたかったんです。初めてのゲームなので、きっとどこでもそんなに変わらないかなーって」
「そりゃあなんとも…」
この人あれだ、遊園地でとりあえずジェットコースター乗るタイプの人だ。
tips:スキルはレベル毎に成長します。威力が増したり射程が延びたり、新魔法を覚えたりすることも。




