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糸王の宮、禁域に棲むは虹の主―2

 


 《シルキード・キングモス》。虫の楽園の主にして最強の戦士である彼は、凶器的なまでに鍛え上げられたその筋肉で数多の冒険者を屠ってきた。


 このボスの恐ろしい部分はなんと言っても、自らが生み出した糸を自由自在に操る能力…ではなく。遭遇時に裸マントで筋肉を見せつけ、敵を困惑と爆笑の渦に巻き込む点である。

 しかもこのマッスルポーズ、誰が設計したのか追加効果もある。それはなんと笑ってしまうと…。




「キサマらぁっ!!我が至高の肉体を侮辱したなっ!?許さん…許さんぞ!!二度と笑えぬようここで葬り去ってやるっ!!」


「だーから言ったのに。笑ったら専用のセリフと共に解除不可のバフが掛かるんだよ…」


「「それ先に言えやぁっ!!」」


「まあ…言っても言わなくても笑ったでしょ?」



 それはそう。あんなバッキバキのフィジーク見せられて笑わないのは同業者だけだろ。俺は大概ゲラな部類だと思うが、別にあんなの誰だって笑うだろ…。


 しかしバフって言っても大したもんじゃないだろ。どうせ全ステータス1.1倍とかのあってもなくてもそこまで変わらないレベルじゃねえのか?



「ちなみにバフは全ステ3倍ね」


「さん」


「ばい」


「じゃ、がんばってねー」



 僕ってば戦闘能力皆無だし、と言って閉まりかかっていたボス部屋の扉から脱出するミキさん。ただでさえ強いはずのダンジョンボスがステータス3倍の出血大サービスだと?いやぁ、まったく。



「後でシメる」


「おっさん、三枚おろしはどうだ?」


「それいいな。だがその前に三枚におろさなきゃいけねえ奴がいるなぁ?シン、前衛は俺がやる。援護は頼んだぞ」


「了解!つっても大したサポートは出来ねえけど、なっ!」



 すっかりおっさん呼びが定着した中で、まずは変態に先制攻撃を喰らわせにかかる。

 おっさんが前衛で気を引きながら、俺が後ろで使い捨ての弓と矢を生成。準備が出来たら今度は俺が気を引いて、その間に高火力のおっさんが一気にHPを削る作戦。即席だが中々上手くいきそうだと思ったが、ステータス3倍の暴力は伊達じゃなかった。


 ただのパンチが地面を砕き、キングモスと言うだけあって糸の扱いはお手の物。俺より糸が太い分攻撃は見えるが、それ以上に速さと威力が桁違い。避けるのが精一杯で矢を射る暇もない。

 おっさんも似たような感じだが、流石にトッププレイヤーなだけあって、隙あらば強烈な反撃を与えている。


 しかしどれも深手を負わせるには至らない。あのヤロウ、単にステータスが高いだけじゃなく、攻撃を太い糸できっちりガードしてやがる。これじゃいつまで経っても大したダメージにならねえ。



「効かぬわぁっ!!」


「チッ………シン、ちょっと下がってろ」


「何でだよ。二人で戦った方が良いだろ?」


「言ってなかったかもしれねえが、こう見えて俺もホルダーでな。そいつを使うにはちょいと集中力が要るからお前のことを考えてる余裕がない。その代わり、俺の戦いぶりを目に焼き付けろ」





 俺が()()()N()o().()2()たる所以を見せてやる。





「行くぞ、無銘(ナナシ)。ユニークスキル起動―――《魂源幽乖(こんげんゆうかい)》」




 サカキは黄金の剣をインベントリへ仕舞い、代わりに錆と欠けが目立つ無銘と呼ばれた鈍刀を取り出す。そしてスキルを起動すると同時に10人に分身。全員同じ立ち姿で武器も同じ黒刀と鈍刀、側から見ればどれが本物なのか全く見分けが付かない。

 それらは軍隊のように統率の取れた動きで10方向から一斉にボスへと襲い掛かる。しかしダメージを与えることなくあしらわれ、()()煙のように消滅してしまった。


 だが彼らは再び出現し、またダメージを与えられず霧消、そして復活。何度も繰り返されるその光景だったが、少しずつ変わっている点もある。




「おっさんが…速くなってる…?それにあの刀、少しずつ錆が取れていってるような…」




 気のせいじゃない、ボスの対応が本当に少しずつだが後手に回っているんだ。今まで全て消されてた分身が1体、また1体と残るようになっていく。しかも攻撃する度に動きが変わっているからあれじゃ対応するのも一苦労だ。


 そうして都合十度目の攻撃で、目に見えた変化が訪れる。無銘と呼ばれていた刀が光を発し、消えた後に残っていたのはさっきの鈍ではなく美しいほど艶のある刀。




「真化―――《真打・夢幻》」




 サカキは刀を構えると、先程とは倍…いや、さらにその倍以上の分身を生み出す。全員が隙のない完璧な連携で攻撃を繰り出しボスを翻弄していく。加えて、分身は増え続ける。気付けば分身の数は百を優に超え、確実に大きなダメージを与えるようになっていた。


 これがサカキのユニークスキル、《魂源幽乖》。自身と同じステータス、同じ装備を持った分身を生み出し、自らの意思通りに行動させることが出来る。

 その代償はたったのHP最大値の1%。分身の耐久値はこの1%のHPのみであるため、適当な攻撃に当たっても消滅してしまう。


 しかし問題は、この分身が消滅するとサカキ本体のHP最大値の1%を回復するため、分身が99体までなら何度も蘇らせることが出来てしまう点だ。これによって先程のようなゾンビアタックがノーリスクで可能になっている。

 唯一の弱点は本体のサカキがダメージを受けると最大数が減ってしまうことだが、サカキが《気配遮断:Lv10》という最高位の隠密スキルを所持しており、サカキが全て霧消したように見えているのは本体が隠密行動で身を隠しているからである。

 加えて卓越したPSを持っているため、《魂源幽乖》の展開中に攻撃が当たることはまず無い。


 極め付けは《無銘》なのだが…戦いが佳境に入ってしまったのでこの話はまたいずれ。




「トドメだっ!!」


「ぬ…見事…なり…………」




 分身たちの肩を跳び上がり、シルキード・キングモスの脳天から全身を二刀両断。変態はサカキへの称賛と共にポリゴンとなって霧散していくのだった。




《気配遮断:Lv10》:最高位の隠密スキル。スキルで気配感知系統を所持していない限り気付くのは困難な程、極限まで自身の気配を消すことが出来る。しかし悲しいことに、味方からも見えなくなってしまうのが難点。

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