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糸王の宮、禁域に棲むは虹の主―1

 


 《糸蟲の宮殿》。フロイラインの近辺にあるダンジョンの中でもぶっちぎりの最低人気を誇る、超不人気優良ダンジョンだ。


 一見矛盾しているこの評価だが、一言一句嘘偽りは無い。優良ダンジョンであること間違いは無いし、不人気であることも否定できない。

 このダンジョンでドロップする糸素材は、レギオンで現在発見されている中でも最高品質であり、特に布を使用する装備には必須かつ大量に使用されることから市場でもかなり需要は高い。難易度もフロイラインから行けるダンジョンの中では最も易しく、金策という視点でも行く価値は大いにある。


 ではなぜ人気が無いのか?それは、ここに出現する魔物のビジュアルが総じて虫系であり、無駄に凝って作られたせいか見る者が見れば気絶による強制ログアウトが免れないという誰も想定していなかったであろう鬼畜仕様。そのせいか、攻略サイトでは難易度があからさまに過大評価されている。

 普通に攻略すれば二つ前の街のダンジョンにも及ばない難易度だというのに、だ。


 それを聞いたイロハは一瞬で留守番を決意した。そしてその場にうずくまり、梃子でも動かないほどに固まった。




「イロハおねえちゃんだいじょーぶ?」


「は、はい大丈夫ですよー…。ごめんなさいミキさん、あれだけ自信満々に言っておきながら…」


「構わないさ。あそこは見た目だけなら最低最悪のダンジョンだからね。僕はあれが魔王城だって言われても信じるよ。じゃあシンくんは行こうか…と言いたいところだけど」


「どうかしたんです?」


「いやいや、僕ってばそもそも生産職だし。戦闘能力は皆無な訳でして。シンくんの火力じゃ足りなさそうなのと、相性も良くなさそうだから誰か連れて行こうかと」


「なら俺が行こう。クモのトラウマはもう克服したからな。…クモは出ないよな?」



 イマイチ怪しい反応を見せるサカキのおっさん。嫌なら行かなければいいのに、とは言えないな。元はと言えば俺の火力不足が原因なんだ、大人しく甘えておくか。



「出ないよ。うん出ない出ない」


「そこはかとなく不安になる返事はやめろ!…ったく、さっさと行くぞ。ヘッド、嬢ちゃんのことは任せたぞ」


「了解。いってらっしゃい」




 こうして初めてのダンジョン攻略が始まった。





 ——— ——— ——— ——— ——— ——— ——— ———





「おいコラ…ミキィ………!」


「アッハハハハハ!!やっぱりサカキくんは良い反応をしてくれるねぇ!!」


「おっさん、後ろ後ろ!!」


「ぬわあぁぁぁぁ!?!?」


「「うははははは!!!!」」



 俺たちは《糸蟲の宮殿》の中盤辺りまでやってきた。序盤で現れたのはカマキリとかトンボとか、コイツらも大概アウトなビジュアルだったが、ついにと言うべきか、おっさんが懸念していたクモ型モンスターが出現。

 最初の方こそ大丈夫そうだったのだが、道中で隠し部屋を見つけてお宝だと誘い込まれたのが運の尽きだった。

 そこはモンスターハウス―――魔物の大量発生するトラップ部屋だったのだ。さらに尽きた運を搾り取るかのように、出現する魔物の大半がクモ型というおっさんにとっては地獄すら生ぬるい状況。


 そして今、クモに囲まれたおっさんを見て俺とミキさんは大爆笑していた。だっていい歳したおっさんが情けねえ悲鳴あげてんだもん。実はおっさんの死角からクモを誘導して遊んでたりも…。



「シン、てめぇこっちにクモ押し付けてやがんな!?今すぐやめねえと切り刻むぞ!!」


「あ、バレた」


「サカキくぅ〜ん、フレンドリーファイアが出来ない仕様なの知ってるよねぇ〜?」


「クッッッッソがぁっ!!!!」



 ヤケクソになったサカキのおっさんがMP消費度外視の大技で薙ぎ払うまで、俺たちは腹を抱えて笑っていたのだった。

 ちなみに素材はウハウハだってミキさんが言ってた。サカキのおっさんは後で全部売り払ってやる、としっかりキレていたが。


 それからダンジョンの攻略を再開したが、俺の出番はほとんどなかった。というのも虫と糸魔法の相性が悪過ぎる。敵の動きを止めようと粘糸を放てば避けられるか破壊され、ようやく当たったと思えば効果はなく、無視して普通に動いていた。虫だけにってね。笑い事じゃねえ。


 だがなぜかクモ型にだけは効果があった。一番効かなそうなのに、奴ら自分の糸じゃないせいで上手く操れないことに気付いてパニックになってんだ。そこを鉄の剣でズバッと。おかげでおっさんの弱点を補いながら上手く進むことができていた。


 そしてボス部屋目前かと考えていた時、ミキさんから謎のアドバイスを受ける。



「シンくんにサカキくん、二人ともこのダンジョンを攻略するのは初めてだよね」


「俺は当然」


「そうだな。……クモが出るって聞いてたからな」


「じゃあ一応伝えておくね。ここのボスを見ても絶対吹き出さないでね」


「なんだそのアドバイス」



 そうしてボス部屋の扉を開けて現れたのは。




 ——— ——— ——— ——— ——— ——— ——— ———




 ダンジョンボス《シルキード・キングモス》が出現しました。




 ——— ——— ——— ——— ——— ——— ——— ———




「「ぶっふぉぉぉ!?!?」」




 登場するなりマッスルポーズを取る、王冠とマントを纏った全裸の昆虫(へんたい)だった。




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