入団テストとピキピキジジイ
流れで決まった入団テスト。俺たちがクランハウスの地下にある訓練場に案内されていた。
移動は階段なんてアナログなもんじゃない。なんと超文明の遺物…とかでもない普通のエレベーター。十分凄いけどね。
そうしてやって来た地下訓練場は。
「「ひろい」」
「わはー!おっきいねー!」
「ここはちょっとした亜空間になっていてな。大きさはダンジョンのボス部屋と同じサイズだ。あれ、確かどこ行っても共通の広さだったよな」
「そうだね。設計者が居ないから確かなことは言えないけど、障害物の差はあれど基本的には1km四方の正方形。高さはボスごとに調整されているようだけど、この部屋は高さも1kmに設計されているはずだ」
その言葉通り、この部屋は見事な正方形になっていた。まるで学校の体育館のような雰囲気だけど、完璧な正方形というのは空虚と共に若干の恐怖を感じるものだ。バスケットゴールがないのが余計にね。設計者はきっと体育館にわか(?)なんだな。
ちなみにマスターの説明によると、この空間はいくら破損しても修復が可能なので好きなだけ暴れていいそうだ。無論、そんな火力は持ち合わせていないが。
「そういやお前らのユニークをまだ聞いてなかったな。聞かない方が面白そうだから聞かねえけど。つーかそもそも戦闘職なのか?」
「俺は多分戦闘職、イロハはヒーラーだから戦闘能力は怪しいな。まあ俺も大した戦闘能力は持ち合わせちゃいないが」
「最初は誰だってそうだ。勝利条件は……そうだな、俺に一撃当ててみせろ。俺は反撃しない。MP切れまでにそれが出来れば合格だ」
一撃…簡単そうに聞こえるが、おっさんの腰にぶら下げられた二振りの剣。通常1つしか装備できないはずの武器をインベントリにも入れずに2本持ち歩いているんだ。何かあるとしか考えられない。
対して俺は、そもそも戦い方が分からない。数多くゲームをやってきたとはいえ、VRに触れるのはこれが初めて。勝手なんか分かりゃしない。
それに糸魔法はまだまだ未知数。幸い攻撃は仕掛けてこないみたいだから、《硬質化》に《粘質化》、一応《染色》も本格的に戦う前に色々チェックしておかなければ。
インベントリから片手剣を取り出して、おっさんの前に立つ。おっさんも腰から黄金の剣を真っ黒な刀を抜き構える。
「準備はできたか?」
その言葉に小さく頷き、俺も魔法の発動準備をする。
「始めっ!」
マスターの合図と同時に俺はまず粘質化から試すことにした。指先から出て来た糸に触れると…うん、ネバネバしてる。粘り度合いは操作可能。離れないくらい引っ付かせることもできるし、誰でも引き千切れるくらい弱くすることもできる。ただし一本が最長でも1mくらいにしかならないから、粘糸をくっつけて大きくするしかない。
ついでに操作性も確かめるか。犬!猫!はしご!チンアナゴ!
「何やってんだお前………」
「はっ。楽しくなっちゃってつい…」
いっけね。思ったよりも思い通りに動くもんだから。
「彼、今あやとりしてたよね…」
「そうですね。あれがユニークっぽいですけど、かなり自由度が高そうですね」
これが粘質化か。糸玉になってる分、糸くずよりはよっぽどマシだな。次は硬質化を試したいところだが………えい。
「のわっ、きったね!?何すんだテメェ!」
「あれー?一撃与えるだけでいいんですよねぇ〜?そんな油断してて良いんですかぁ〜?」
「ピキッ」
お、ピキってるピキってる。とりあえず床はべちゃべちゃにしておこう。
「それそれそれー」
「それやめろぉ!!動きづらくなるだろうが!!」
「それが目的だからなー。それー」
「あっはははは!!言っちゃいなよサカキ!昔戦ったクモ型モンスターに糸まみれにされたのがトラウマだってさ!」
「バラすなアホマスタァァッーー!!」
MP消費は少ないから無限に撃っていられそうだが…おっさんめ、綺麗に躱してやがる。それに自分が動ける最低限の領域を残すように糸を相殺して打ち消してる。………チッ、役者だな。
「「………さて」」
「《祓》」
「ですよねぇ…」
おっさんは一度黒刀を振るい、俺が放った粘糸を全て薙ぎ払う。タヌキ爺め、遊んでやがったな?
マスターにミキさんも笑って見ている。あの2人も知ってておっさんを煽るような真似をしてたのか。ケッ、これじゃピエロだぜ。
「次は何を見せてくれるんだ?おじさん楽しみで仕方ないなぁ〜」
「焦んなよジジイ。驚いてぎっくりするんじゃねえぞ?」
「俺ぁまだ三十代だ!そこまで老いぼれてねえ!」
さあ、第二ラウンドといこうじゃないか。
シンが撃ってる糸玉は初見では味のしなくなったガムにしか見えません。ほんのりブドウの香りがするとかしないとか。




