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覚悟はいいか………全然俺より出来てるじゃん

ちなみに最初に戦うはずだったボスとシンの現在のレベルだと、ステータス振りによっては素手でノーダメージ攻略も余裕で出来ます。相当やる気が出ない限りは行く必要性は皆無です。ドロップ品も美味しくないので。

 


 俺たちはもう初心者とは言えないレベルになってしまったと聞いて正直気分は萎えた。みんな経験してきたあの戦いを俺たちは知らないままプレイしていくんだなぁ…と。いつか他のプレイヤーに出会っても話についていけなくて蚊帳の外に置かれる未来がありありと見えるわ。


 そうなると、俺たちに残された選択肢は一つ。最凶と恐れられる覚悟をするしかない。



「…なーんて思ってんだろうが、別に珍しいことじゃねえよ。推奨はされてないが初心者を連れてきてキャリーしてるクランもあるし、それで金を稼いでる悪どい連中だっている。だからお前たちはお前たちのやりたいことをすればいい」



 サカキは一呼吸挟んで、先程までとは違う快活な笑みを見せる。



ここ(VR)は、そういう場所だろう?」


「…良いこと言うじゃん」



 そりゃそうだ。俺もイロハもその為にレギオンの世界に飛び込んだんだ。

 だから結論を急ぐ必要は無い、じっくりとこの仮想世界を見て回ってからでもクランは俺たちを受け入れてくれるだろう。


 それにさっきから俺ばかり話しているが、イロハの意思だってある。ニコイチって訳でも無いんだから無理強いはできないしするつもりもない。

 イロハはゲーム初心者だって話だったし、それこそ最初の街に行って普通のゲーム仲間を探しても良いんじゃないかとも思うんだ。既にゲームの虜な(イカれてる)俺とは違って純粋で、化け物集団の仲間入りをする必要はない。


 そう伝えようとしたが、イロハの眼を見て驚いた。まさか俺よりも覚悟が決まってるなんてな。



「シンくん、私はここでお世話になろうと思います。ここにはたぶん、私の求めていたものがあるので。それでなんですけど、シンくんも一緒に来てくれたら嬉しいなー…なんて、烏滸がましいでしょうか…?」


「いや、誘ってくれるのは嬉しい。むしろ意外だよ、イロハはもっとエンジョイしに来たのかと思ってたからさ」


「最初はそのつもりだったんです。でもシンくんにリルルちゃん、天龍さんやサカキさんと出会って考えが変わりました。私はきっと恵まれてるんですよね。それなら極めてみるのも面白そうじゃありませんか?」


「ははっ、いいな!最高だよイロハ!」



 きっとイロハは自分じゃ気付いてないんだろうが。その考え方は“ゲーマー”の思考回路をしてなきゃ出てこねえ。雰囲気からは全く想像がつかなかったが、奇しくも俺たちは同じ穴のムジナだったってことだ。


 そうだよな、せっかく強くなる為の土壌が整ってるんだ。すくすく育たなきゃ種を寄越した運営が可哀想だよなぁ?



「どうやら覚悟は決まったようだな。ま、俺に入団を許可する権限は無いんだけどな。これでも一応サブマスなんだが」



 ……………………は?



「えぇ……。今までの会話なんだったんだよ………」


「本当ですよ…。この空気どうしてくれるんですかサカキさん…」


「いやいや待て待て。別に入れねえとは言ってねえし、唯一権限持ってるヘッ…クランマスターがインするまではここの設備は自由に使ってくれて構わん。それにだな………」


「私がどうかしたのかな?」



 サカキのおっさんが何かを言いかけたその時、俺たちの後ろに音もなく2人の男が現れる。イロハは驚きで悲鳴を上げて腰を抜かしてしまい、その声でぐっすり寝ていたリルルが目を覚ましてしまった。


 見た目は至って普通。言葉を発した方の男は混じり気のない黒髪と軽鎧(かるよろい)が特徴で、落ち着いた雰囲気を醸し出しているがその奥に髪色と同じくらいの暗いものを宿しているような感じがする。

 反対にもう1人の男からは何も感じない。髪は短い茶髪でアロハシャツにビーチサンダルというラフな格好。恐らく戦闘職ではないのだろう。


 サカキのおっさんが軽く驚いているところを見るに、予想外の来客なんだろうな。俺はイロハに手を差し出して身体を起こさせ、とりあえず会話の続きを聞くことにする。



「なんだ、今日は忙しいんじゃなかったのか?インする予定は無いって言ってたよな」


「何となく、今日は早めに店じまいにしようと思ってね。事務仕事は…明日やればいいさ。とか言ってたらまた皆んなに怒られちゃいそうだけど」


「相変わらず()()()の勘はよく当たるな。久々の入団希望者だ。まだ詳細は聞いてないが、2人ともほぼ確実にホルダー。後はヘッドの許可待ちってとこだったんだよ」


「へぇ。魔界にホルダーが生まれるのはいつ振りかな。最後は確か……」


「その話は後にしてくれ。こいつら、今日始めたばっかの初心者だから済ませておきたい事もある。さっさと登録だけしてくれ」



 おっさんに“ヘッド”と呼ばれた男。話の流れから察するに、この人がさっき話していたクランマスターか。



「おっとすまない、まずは自己紹介から。私はマスター。クランマスターなのは関係なくて、現実では喫茶店を営んでいるんだ。名前の由来はそこから来てるんだ。それでこっちの彼が…」


「フハハハハ!!僕はAmikkey(アミッキー)!!気軽にミキさんと呼んでくれたまえ、後輩諸「真面目に自己紹介しなさい」………怒られてしまったよ。まあそういう訳だから、僕に対しては何も遠慮する必要はないよ。あ、さっきのは全部冗談でこっちが素だから」


「マスターさん、ミキさんですね。俺はSiNといいます。今日始めたばかりの初心者ですけど、ゲームに関する知識はそこそこあるのですぐに戦力になれるよう頑張ります」


「Irohaです!ゲーム自体が初めての経験なので分からないことだらけですけど、先達の皆様に色々ご教授願えればと思っています!これからよろしくお願いします!」


「リルルはリルルだよー!」


「おいお前ら、俺の時とは随分態度が違うじゃねえか。あぁん?」



 そりゃそうだろ。この2人は丁寧だし俺たちが話しやすいように空気作りをしてくれたけど、おっさんにはそういうのなかったからな。相応の対応ってやつだよ。



「まあまあ、落ち着きなよサカキ。でもそう簡単にクランに入れる訳にもいかないんだ。ほら、私たちには鉄の掟があるじゃないか」


「あー…そういやあったなそんなの。最後にやったの一年以上前だからすっかり忘れてたわ」


「鉄の掟…ですか?」


「そうだよ。あ、2人とも別に敬語じゃなくていいからね?私たちの中に気にする人なんて誰もいないから。それで鉄の掟っていうのは…」


「入団テストの模擬戦だ。相手は…俺かヘッドだな。さあ、現役バリバリの前線プレイヤー(フロントランナー)相手にどこまでやれるか、お手並み拝見といこうじゃねえか」



 流石に負けイベだと思いたいんだけど。おっさん滅茶苦茶にやる気出してんだよなぁ…。



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