知り合いの家の前に来ると緊張するけど帰る時は特に何も思わないのあれ何なんだろう
言われるがまま俺たちは金ピカのおっさんに着いていく。最初はおっさんのことを警戒していたが、俺たち全員が初めて来る街に興味深々でそんなことはすぐに忘れてしまった。
まず建物に感動している。ゲーム開始から既に2時間以上経過しているが、初めて建物と呼べるものに遭遇した。思っていた何倍も作り込まれているし、武器屋に薬屋、食べ物系の出店など本当に種類は様々。NPCが運営しているだけでなく、プレイヤーメイドの装備も売っているようだし今度覗いてみよう。ま、こいつとどの武器が相性良いかなんて分かりゃしねえけどな。
「あるじ!あれおいしそー!」
「はいはい、今お金持ってないから後でなー」
「…なんだお前、そういうプレイが趣味なのか。いや、個人の趣味趣向に口を出す気は無いが、他のプレイヤーにまでそれをやらせるのは少しな…」
「違うわ!リルルはNPCだっての!プレイヤーは俺とイロハの二人だけだよ!」
「……何だと?テイマーがテイム出来るのは自分よりレベルの低い魔物だけ。人間をテイムするスキルなど聞いたことが無い…」
あっ、やべ。口を滑らせた上にこのおっさん、勘が鋭い。元はと言えばおっさんが変なこと言い出したのが悪いんだが。
でも確かに俺とリルルの関係性は普通じゃない。プレイヤーの領域に入ったらこういう反応になることも予想できたことだ。
だけどこのゲームにはユニークっていう一点モノがある。たぶん、俺の《糸使い》とかイロハの《聖なる魔女》が高確率でそれだ。しかしそうなると、まさかのオオカミ形態の方が誤魔化しやすかったみたいだな…。
まあいいや、別に全くの嘘っぱちって訳でもないからな。
「いやー、実はこれユニークス…」
「それ以上喋るな。事情が変わった、少し急ぐぞ」
おっさんは顔色を変えて、今までのゆったりした足取りから違和感が無い程度の早歩きになる。
俺たちも景色をゆっくり見ている暇は無くなり、おっさんを見失わないように必死に追いかける。
そうしている内に目的地に辿り着いたのか、おっさんは足を止める。でもここって…。
「おっきいー!あるじー、このお家おじいちゃんよりおっきいよー!」
「すごいですねー…。すごすぎて言葉が出てきません…」
「見てくれだけだがな。一応、ここが俺たちの拠点だ。入ってくれ」
まあとんでもない豪邸だった。ヨーロッパの方にありそうなうんたら宮殿みたいな、なんかそんな感じの建物。近くを通るのも避けたいくらいに外見だけで萎縮させられる。
その浮ついた気分のまま、デカすぎる門をくぐり抜けて豪邸の中へお邪魔する。
おっさんはさっき、見てくれだけだなんて言ってたが冗談じゃない。内装も半端じゃなかった。まず目に入るのは高そうなシャンデリア。ゲーム内の物だから値段なんて関係ないんだろうが、どうせ高いに決まってる。
ロビーは吹き抜けになっていて、2階から入り口を見下ろせる設計のようだ。
そこに置かれている椅子に腰掛けるおっさん。座るように促されたので俺たちもおっさんの対面に座る。
「自己紹介がまだだったな。俺はSakakiMだ。Mは省いて呼び捨てでいい」
「俺はSiN、そんでこっちがイロハとリルルだ」
「Irohaです、よろしくお願いします」
「リルルだよー!よろしくね、金ぴかのおじちゃん!」
「おじ…まあいい。さて、丁度仲間が全員出払ってるみたいでな。茶は出せないが気を悪くしないでくれ」
「する訳ないだろ?俺たちは今日始めたばっかの初心者なんだ、さっさと話を進めてほしいくらいだね」
「そうだな。まず前提として、お前らはユニーク持ちって事で良いんだよな?」
「俺たちはキャラクリの時にアホみたいに光ってたジョブを取っただけ。それしか分からないが、合ってるか?」
「間違いねえな。お前たちは全世界に100人といない固有保持者の内の二人だ。しかし珍しいこともあるもんだな。一日に二人、しかもルーキーがホルダーになるなんざ、レギオン史上初じゃねえか」
100人……ひゃくぅ!?思ってた何倍も少ねえじゃねえか!もしや俺たちってとんでもないレアモンスター?代わりに俺のLUKは0になったけどな。
「右も左も分からんだろうが、ひとまず俺の話を聞いてくれ」
このゲームには“クラン”ってもんがある。ゲーマーなら大体分かるだろうが、プレイヤー同士で固まって一緒に魔物を討伐したり、ダンジョンを攻略したりする互助組織みたいなやつで、殆どのプレイヤーがこれに所属している。
そんでもってこのクランなんだが、一部の連中を除いてクラン同士で協力し合うことはまず無い。理由は幾つかあるが、人数上限が30人とそこそこ多いのと、ダンジョンや大人数のレイドでも協力できる最大人数が16人という人数関連がネックになってる。大体は自前のメンバーで足りちまうからな。
挑める人数上限がある分、最近は一人一人の能力を底上げするのがクランの存在意義みたいになっちまってる部分もあるがな。
「ここでユニーク関連の話になってくるんだが、母数が少ない上に単騎でクランの最高戦力たり得るホルダーはどこのクランも喉から手が出るほど欲しい人材だ。街中で安易に口に出すが最後、勧誘の嵐に巻き込まれてジエンドだったろうよ」
「ほーん。ならおっさんも俺たちが欲しいのか?」
「正直、どっちでもいい。ウチのクランはそもそも11人しかいない少数精鋭な上、その半数以上がホルダーなもんでな。現状でも完成されてるが、戦力はいるに越したことはない。もし入りたいってんなら歓迎するぞ」
「………ホルダーって少ないんじゃなかったのか?」
「ああ、少ない。魔界のホルダーはウチのクランかどっかのリーダー務めてるような奴らだけだ。前提として魔界はプレイヤーの母数が少ないからな」
そういえば魔界ってクソ不人気だったな。色々起きすぎてすっかり忘れてた。母数が少ない分ユニークホルダーも少ないって訳か。
事情は分かったが、このサカキとかいうおっさんが嘘を吐いている可能性だってゼロじゃない。まあ全くそうは見えないんだけどな。
そうなると証拠が欲しくなってくるところだが…。
「半分信じてないって顔だな。初心者なら無理もないが。そうだな、これを見れば信じるか?」
「なんだこれ。写真?」
「ゲーム側で統計取って、討伐数とか最大ダメージ叩き出したとかの年間大賞みてえなイベントやった時の集合写真だ。そいつら全員ウチのクランメンバーだよ。気になるなら現実に戻った時に調べればいい」
その名はレギオンのプレイヤーなら知らぬ者はいない、プレイヤーでなくとも多くの人々に知れ渡る最凶達の名。
「俺たち、魔王の凱歌の名前をな」
tips:クランは最大30人まで所属可能ですが、人数に応じてステータスとドロップ率にボーナスもあります。非戦闘職のプレイヤーも所属させることが出来るので、クラン外で専属にするよりもメリットが出る形に設計されています。




