おまけ話「五男星之介」
自分のコト自分で言うんは照れるンで、先に星ちゃんのこと話すんな。
星ちゃんはオレと5個違うし、須恵兄とは10個ちゃう。
せやから母ちゃんの妊娠を聞かされた時。
コウノトリが運んで来るんやないのはオレらも判っとったから、正直びっくったけど。
父ちゃんは会社勤めしながら、ばあちゃんの畑手伝うとって。
母ちゃんが焼物んコトで日本中飛び回って勉強続けとるのを、いつも応援しとった。
せやからまあ互いに理解あって仲良え夫婦やと思うし。
母ちゃんの研究が一段落ついた時なんかは、2人で温泉一泊とかしとったな。
ん?そっかそーゆー時か…。
まあオレらは仔犬か仔猫が増えるくらいに思うとったけど。
実際やって来ると、家の空気がガラリと変わってもた。
何んかずっと甘い香りがふわふわしとるし。洗濯物とかオモチャみたいに小っこいし。
寝る・ミルク・泣く笑うだけで1日終わるなんてズルいわ~。
けどオレらが学校から帰って抱っこすると、カイロみたいにぬくぬくでやわやわや。
しかも、かっぱえびせんより短い指でTシャツぎゅうって握られたりすると。
こお胸がきゅうんとなってまう。
赤ん坊の姿て、大人の愛情反応を得られる造りやて聞くけどホンマやな。
「なあ須恵兄、オレが生まれた時もこんなんやった?」
「えーあんま覚えてへんなあ。オレかてまだガキんちょやったし」
いや今もまだガキんちょやけど…。
でもまあそー言うモンやんな。
自分のコトだけでいっぱいン時て、自分以外のコトて目に入って来んもんや。
じいちゃんが正にそおやった。
県境に在る窯元に籠り切りで創作活動没頭しとって、正月ですらコッチには戻って来んで。
孫が4人居るのは知っとっても、区別も付かんし名前もうろ覚え。
オレらの方も、じいちゃんのコト思い出すンは何んかの受賞とか取材の時だけ。
話したり遊んだ覚えも無いし。家に居る時も食事は別やったし。
それが。癌が見つかったんで、じいちゃん渋々窯元離れて家戻って来ることなったら。
よちよち歩きの星ちゃんが家族の真ん中に君臨しとってんから。
じいちゃんは不可解と困惑と知らんフリを足して100倍したよーな顔やった。
せやけど星ちゃんはそんなん関係無うて。
オレらは学校。父ちゃんは会社、母ちゃんは研究所で、ばあちゃんは畑か家事。
そおなったらとりあえず、残っとるじいちゃんを遊び相手にするやんな。
じいちゃん自慢の長い顎鬚は、引っ張るにちょうど良え場所に垂れ下がっとおし。
他の大人はアカンて判っとる危ない物や食べ物も、じいちゃんは判ってへんから。
「なんや気になるンか?」て星ちゃんに渡してまうし、食卓に上がらせてまう。
そんでまあ、ばあちゃんと須恵兄に「じーちゃん!何しとんっ」と怒られとお。
孫は鎹て言うてエエんか知らんけど。
具合悪うて思うように創作が出来んで、不機嫌オーラ全開なじいちゃんと。
気遣いと遠慮でよお近付けんオレら。
そんなじいちゃんとオレらがつながり直すことが出来たんは、星ちゃんのお陰やと思う。
決定的なんは夏の暑い夜、縁側でスイカ食べて花火しとる時や。
じいちゃんの膝に座っとった星ちゃんがいきなり「じーんまっ」て言うたんや。
もおみんな目ぇ丸うして固まってもた。
それは、じいちゃんがスイカの甘い汁を星ちゃんに舐めさせたからやねんけど。
星ちゃんが初めて発した言葉がソレやった。
「えっちょお待てっ!星之介っ「にいちゃん」て言うてみ!」
「せとでもエエで。言い易いやろ」「わあ録画しとけばよかったなあ」
「いや母ちゃんが知ったらガッカリするんちゃうか?フツーはママとか言うやろ」
もおオレらは大騒ぎ。
そん中でじいちゃんだけは、今まで見たコト無いくしゃくしゃな顔して涙浮かべとった。
そおいう時間を過ごしたせいか。
手術後、窯元に戻って再活動したじいちゃんの作風は随分変わったそおや。
オレらは全然判らんけど。
そん時のニュースや記事を見たら「ぬくもりが」「やわらかさが」とか言われとった。
それに何より星ちゃんのお陰で、孝星のじいちゃんとつながったのは確かや。
じいちゃんの通院に付いて行った星ちゃんがドシンとぶつかった相手が、孝星のじいちゃん。
よおある出会いパターンや。
「すんませんなあ、じっとせん子で」
「いやウチの孫と同じくらいや、元気あってエエやんな。
それよりあの、失礼ですが陶芸家の六弘先生かとお見受けしとるンですが」
「あーはあ、そおです」
「先日文化会館であった展示会も観に行かせて貰いました。復帰おめでとおございます」
「治療で体力も落ちましたし、再発にビビリながらの復帰ですけどなあ」
「あー…大変なご病気やったんですね…」
「こん位の歳なったら、まあどっか悪うなるもんやし。そちらさんもどっか治療中ですか?」
「いや私や無うて娘が病気持ちで、その付き添いです。
言うても精神的なヤツでして、ホンマにどこが悪いんか、どおしたら良おなるんか。
もお二度と元には戻らんのか…。終わりが見えんで疲れてます…。
せっかく孫も生まれたンに、このままやとあの子まで不幸にしてまいそおで。
時々もお何んも無かったコトにしたあなってもて…。
すんません、突然こんな愚痴溢して貰うて。私は情けない何んも出来ん老人や…」
「人それぞれ違うンで、一括りには出来んけど。
病気はどれも大変や。縫ってくっついても跡は残るし。無くすモンもようけある。
そんな穴ボコを埋めてくれるンは家族や孫や、自分のことを想うてくれる誰かのキモチや。
あんたさんのキモチは無駄やない。どんな想いやろうと在った方がエエに決まっとる。
無い方が良え命なんて、この世には在らへんで」
「そおやろか…まだ何んか出来ることが有るんやろか…」
「なあじーちゃん。オレその子と遊びたい。
いっぱいゲームして甘いモン喰うて、生まれて来てよかったーて言うねん」
じいちゃんが言うには。
孫と同じ歳の星ちゃんが居ったから、孝星のじいちゃんと親しなれて。
囲碁相手もして貰えるし、星ちゃんの遊び相手も増えるし。そんで家に呼んだんやて。
あの気難しじいちゃんがなあ。陶芸関係以外の人を招くやなんて意外や。
まあ、じいちゃんが端折った話やからソレだけちゃうかも知れんけど。
他に何ンかあったとしても別にエエやんな。
それより星つながりで惹き合うモンがあった言うんが一番ピッタリしそおや。
うん、やっぱ星ちゃんは兄弟ん中でも特別な子や。
ブラコンて言うてくれてええで?何回でも言うし。
何んか不思議な魅力があって、甘えっ子でテキトーやのに憎めへん。
ほんま星ちゃんはカワエエしオモロイわ。
孝星と有星とこれからも仲良おやって行くんやで。おにいちゃんは見守っとおからな~。




