おまけ話「次男釉」
お次は次男釉兄の紹介なんやけど。
あんまり話すコト無いんよなー…何んせ普段から喋らんし。
兄弟のうち須恵兄と星之介とオレは、母親似の丸い目ぇしとって。
釉兄と瀬戸兄は父親似の切れ長の目。
しかも釉兄は両親の良えトコ取りみたいな、兄弟で一番整った顔しとる。
せやけど中身は何ンつーか妖精?木霊?空気?ほわんとしとって説明しにくい。
良うナイ言い方かも知れんけど、ヒトにあんま興味無い感じ。
興味あるんは陶磁器と土。
そんなんやからオレが誠心学院に入学した時は。
1コ上の瀬戸兄と高3やった須恵兄は、校内で知っとおヒトは多おて。
「六弘んとこの3番目かあ」とか言われたりして。
いやいや4番目です、もう1人兄居るんで。て何度も言い直したもんな。
顔は良えのに存在感無さ過ぎンのが釉兄やった。
じいちゃんは何度も癌の手術したンで、今はもう窯元から離れとるけど。
オレらが子供の頃はよお仕事場に連れて行って貰うた。
林業用のガタゴト道をミニバンが走ると、ジェットコースターの登りみたいやし。
林ん中には小さい川が流れとって、小魚も虫も小鳥もようけ居って冒険気分やし。
オレらがわあわあ大声出しても誰あれも怒ったりせえへんし。
めっちゃ楽しい遊び場やった。
けどオレらが木登りや虫採りしとる間も、釉兄だけはじいちゃんの隣に座っとって。
何んも言わんとじーっと粘土が形成されるんを見つめて。
窯に火が入ると、イス引きずって近くに座って炎の音を聴いとった。
けどそおやって作業場に溶け込んでまうと、帰る時なって釉兄を探すんが一苦労。
オレらが釉兄を呼ぶ声なんて耳に入らへんし。
狭いトコに座り込んどったりするから、みんなであちこち探さなアカン。
そんでいっつも瀬戸兄が何んとか見つけ出して、土埃だらけの釉兄を引っ張って来る。
瀬戸兄は釉兄と2コ違いやけど、4コ上の須恵兄くらいこの頃からデカかったし。
須恵兄は、遊び疲れて眠うてグズる星之介の面倒見るんで手一杯やったし。
何んとなく瀬戸兄は釉兄の面倒見係やった。
そんな釉兄は陶芸家じいちゃんの血を一番よお引いとるかと思うたけど。
残念ながらクリエイター成分は含まれてへんかったみたい。
陶土を扱うたらじいちゃんそっくりの形を造り上げるクセに、オリジナルはアカンらしい。
せやから大学は応用科学とかいう小難しいトコ行ってセラミックの勉強して。
今は母ちゃんがやっとる再生土の研究を手伝うとる。
オレらから見たら、釉兄が造った器は十分良えもんに見えるけど。
釉兄はいつも小さく笑って言うんや。
「じいちゃんは土と形の間をちゃんと渡せるヒトや。
せやから土が持っとる性格や意志を、人が扱う器に映せる。
けどオレはどっちかに立つしか出来ん。
じいちゃんが造り出した形を真似したらな。
アッチのことをコッチへ持ってきたらこお成るんや、って理解は出来るんやけど。
自分ではよおその筋道を見つけられんワ。ほんまじいちゃんはスゴイ人やで」
ふうううん?
けど正直オレにはあんまスゴイなーとは思えへんで。それよりも心配になってまう。
「なあ釉兄。
アッチとかコッチとかよお解らんけど。
もし釉兄がアッチに立っとっても、きっとオレらはアッチには行けんやろ?
せやからあんまアッチばっか行かんといて欲しーし、コッチにちゃんと戻って来てやぉ」
「ははは何んやソレ」
何んやて何んよー、釉兄が言うたことやんかー。
言うとる本人がふわふわやからなあ、もお。
釉兄が瞬きもせんと陶芸作業に魅入っとる姿を見て、星ちゃんが言うたコトがあって。
「田んぼでじぃっとしとる白い鳥みたいやー」
「あー白鷺な。水張った田んぼでエサ狙うとると動かんもんな。
白鷺はすらっとして綺麗やから確かに釉ぽいなあ。
そんなら小さあてチュンチュン動き回っとる雀は星之介やな」
そう言うて須恵兄は笑うとった。
うん、雀はカワエエ。星ちゃんぽいんは認めるけど、釉兄が白鷺なんは困るなあ。
じっとしとる白鷺のキモチて、泳ぎ回るエサを追って水ン中に在るやん?
自分が水ン中の生き物やナイのを忘れとるみたいに。
もし白鷺が追うてるモンをなかなか捕まえられんかったら。
いつまでも動かんと。キモチだけずうっと遠くまで泳いで行ってまうかも知れん。
そんな釉兄やから、じいちゃんも陶芸の道を勧めへんかったんちゃうかなあ。
でもま、ウチには最終兵器瀬戸兄が居るからな。
いざいう時は、ふわふわの釉兄がっちり捕まえてコッチへ戻してくれる思うけど。
頼むで瀬戸兄~。




