4.ここに
たくさん笑って誠心学院を卒業した後は、予定通り星之介と孝星は進学先の近くで下宿。
有星は直売所のカフェを任されつつ、近隣のダンス教室のアシスタントもこなして。
それぞれが選んだ道で、それぞれ充実して忙しい日々。
となるはずだったけど。
惹き合う運命のせいなのか、単純にもう1セットみたいな関係だからか。
近くても遠くても、生活時間が合わなくても。3人はずっと何処かで交差している。
有星は完璧なバレエ技術と、誰とでも協調性がとれる性格と風貌から信頼を得て。
いくつもの教室から声が掛かるようになって移動の度に星之介達の部屋をホテル代わり。
その頃星之介はプログラミングだけでなく美術や撮影技術とかアレコレ手を出してしまって。
講義の後いつも終電を逃す、と言うかそもそも時計なんて見なくて電話するだけ。
「孝星~帰る~迎え来て~」
だから孝星は早々に免許を取ったし、下宿も駐車場付きを選んでいた。
そのお陰で有星があちこちの教室や公演を巡る時も、孝星が運転手。
でも有星が泊まりに来る時だけは、星之介も早く帰宅するし。
直売所の農産物を持ち込んで有星はご馳走を作ってくれるし。
3人で狭いテーブルを囲んで、それぞれの近況を喋くってるといつまでも話は尽きない。
それはちょうど惑星直列。
それぞれの周期で軌道を巡る惑星が時々同じ方角に並ぶのを繰り返すみたいに。
それは就職しても変らなかったし。
有星がカフェの仕事を後任に譲り、大阪のそれなりに大きなダンスカンパニーに所属すると。
ほぼ3人同居状態。2LDKだから有星の私物はリビングの片隅に積んでいて。
いつの間にかリビングが孝星と有星の共同スペースになり、空いた部屋が3人ゴロ寝室に。
そしてベッドの上では星之介を真ん中に3人並ぶから、寝室はいつも惑星直列状態。
お陰で毎日がキラキラ星気分。
いつもたくさん笑って、横に前に後ろにすぐ近くに居ることが出来た。
家の中だけでなく。
ダンスカンパニーの公演があると星之介は必ず観に行くし。孝星も着いて行くしかない。
有星はスタッフだから役付きでは無いけれど。
チョイ役とか低年齢生徒達のサポートとかで舞台に出て来る。
そんな有星には実はかなり隠れファンが存在するから、チケットは毎回完売。
(まーソレも当然やろな)と公演を観ながら孝星は思っている。
星之介みたいに振り付けの良し悪しなんて解らないし興味も無いけれど。
舞台上の有星は、踊りと観客に愛と情熱を差し出していることが伝わって来る。
でも今の有星は「差し出しても、何ンも返って来おへん」なんて言わない。
多分それは普段からたっぷり受け取って満たされているから。
隣でずっと変わらないキラキラの瞳で舞台を見つめている星之介もきっと同じ。
3人で居れば足りないコトも欲してるコトも補え合えるカンジ。
だから孝星は、そろそろ考えんとなと思っているコトがあった。
久し振りに3人の休みが重なって、直売所と六弘家に顔を出すことにした日。
直売所でたっぷり新鮮な食材を買い込んで駐車場に運んでいると。
「あ、仔猫や」
目ざとく星之介が、直売所の物置近くにちょこんと座っている濃い色のキジトラに気付いた。
「逃げへんのな?駐車場の出入りあるから危ないのになあ」
「直売所で餌付けしとるんちゃうか」
「いや、オレんこと呼んどる」
いきなり星之介が仔猫の方へ向かってしまう。
「ちょお星ちゃん待って」
両手が買物で塞がってる有星は慌てるけれど。
孝星は小さくタメ息をつきながら買物を車に積み込み。
車の掃除道具を入れてるボックスをひとつ引っ張り出して、ひっくり返して空っぽにして。
中にボロタオルを敷き詰めると星之介の後を追う。
「保護するかも知れん」
「えー?猫が星ちゃんを呼ぶて、そーゆー意味なん?」
「六弘家に居る猫も犬も亀もほとんど星之介が連れ帰って来たからなあ」
そして物置を覗き込む星之介の背中越しに有星も様子伺い。
薄暗い物置にはもう1匹キジトラが居て、小さくてもシャーシャーと星之介を威嚇中。
「あっちにも居る」
ヒソヒソ声で星之介が指差す先には、隅っこで丸くなってる小さな毛玉。しかも動かない。
「生きとおの?」
「判らん。親猫確認出来んでも、病院に連れて行きたいんやけどなー」
生き物を飼う経験が無い有星はいきなり目の前に生と死が並ぶ状況に緊張してしまう。
「外に居った奴は箱に入ってくれたで」
いつの間にか孝星は初めに見付けた仔猫を保護していて。
仔猫は箱の中で大きい目を更に見開き鳴き声も出さずに固まっている。
その姿を見ると、さすがに有星にも何んとかしたいと情が湧く。
「怖がっとおみたいやけど」
「そらそおや、体格差考えてみ。巨人3体に囲まれとるんやからな」
「オレ、カフェ行ってみる。仔猫が食べれるモン分けて貰ってくる」
元の職場だから頼み事が出来る知り合いもいるし。
怯える仔猫2匹に手を伸ばす勇気は無くても、せめて何か出来ることをしたい。
有星は立ち上がるとカフェの方へ走って行った。
その勢いは、星之介と孝星が引き留めるコトも出来なくて。2人は顔を見合わせる。
「あーあ行ってもた」
「この大きさやと、まだ離乳してへんかもな」
「うん。それにイヤな臭いしとって、腹壊しとるんちゃうかな。
母猫には悪いけど、とにかく病院や。オレ中入るから、逃げられんよおにしてな」
「ん」
六弘家は動物好きで、譲渡会で行先が決まらなかったコを引き取ったコトもあるし。
こういう事態にも星之介と孝星は慣れっこだからテキパキ判断。
ガリガリに痩せてるくせに逃げ回って鳴き喚くコと。
とりあえず呼吸はしてるけど下痢まみれで動かないコと。
小動物に慣れていない有星が見たら気絶しそーなくらい悲惨な2匹をやっと救い上げる。
「よっしゃ!病院に電話いれとく」
埃だらけの星之介と孝星が物置から出て来ると、ちょうど有星が何かを持って走って来た。
「キッチンにエエ感じのモン何んも無くて。
とりあえず卵焼き作って来てんけど、食べるやろか?」
必死の汗を浮かべる有星は大真面目。
星之介と孝星は顔を見合わせてから、ぱかっと口を開けた。
「仔猫は病院行くンが先やから。とりあえずニンゲンに喰わせてー」
そんな出来事があって、星之介の実家帰りはすっかり遅くなったけれど。
必要な薬と栄養たっぷりの仔猫ミルクを飲ませて貰って、3匹とも箱の中ですやすや安眠中。
先住猫と犬は興味津々で箱の周りをウロウロするし。
実家住まいの釉と伊万里も箱の中を覗き込んで、寝息を立てる小さな毛玉にホンワカ気分。
「きっと兄弟やろな、キジトラでも濃さが全然ちゃうな」
「カフェの人が言うとったけど。
時々黒っぽい猫が物置に出入りしとったらしくて、数日前から見んよおになったって」
「そおなんや、ほんなら何日か仔猫だけで耐えてきたんやなあ」
「間に合うてよかったワ」
そんな会話をしながら、やっと落ち着いてコーヒーを啜っているのに。
また星之介が唐突な決定発表。
「ケージ何処置こぉ?オレん部屋ぎゅうぎゅうやし。ベッドん隣に入るやろか?」
ごほっと孝星はコーヒーでむせてしまう。
「あのマンション、ペット不可や」
健気な仔猫にハートを奪われてしまった伊万里も主張する。
「こんくらいやと、めっちゃ手ぇ掛かるで?ココに預けえや。誰かが面倒見るし」
「あかーん。オレらが呼ばれたんやからウチのコや。名前も決めたで」
星之介は冷蔵庫にあったチョコムースを頬張りながら発表する。
「オレと目が合うた順番にな、イチ番星ニ番星サン番星や。な!ぴったりやろっ」
「呼びにく…」
星之介以外は皆そう思ってしまったけど。
そんな風に関係付けられてしまうと、益々情とか縁とか感じてしまって。
無理とかアカンなんて誰も言いたくなくなる。
そんな時はやっぱり一番年長の釉が采配を振る。
「まあ確かに、オレは来週から窯元に泊まり込みやから面倒見れんし。
伊万里が毎日早起きして、ミルクとか排せつ補助とか3匹分もよおせんやろな。
ほんまに星ちゃんが世話したい言うンやったら、暫くだけココで看るから。
この先のコトちゃんと準備するしかナイで?」
「うんっうんっソレで行こっ」
「何んやその軽さ~ほんまに解っとおのお?」
伊万里も兄として、星之介にヒトコト言うけれど。
星之介がこうなると決定事項になるのは目に見えている。
仔猫のひ弱さにビクついてた有星も、仔猫にミルクをあげてるうちに少しずつ慣れたし。
その名前を聞くと。
見付けた星が夕暮空にぼんやりとした光から、夜空にくっきり輝くまで。
ずっと見続けたい気持ちになってしまう。
「孝星、何んとかならん?
スケジュール調整したらオレは時間作れるし。持ち物全部片づけるし。
最近は星ちゃんもリモートワーク増えたやん?世話の仕方教えて貰うし」
王子顔から懇願の視線を向けられ、孝星は複雑な顔でタメ息をつく。
「もおちょいハッキリしてから言うつもりやったけど。
ちょうど引越先探しとる。3人で暮らすには今ンとこ狭いしな。
条件追加してペット可のトコにすればエエだけや」
「え、ほんまに?」
「やったあー!さーすが孝星や」
跳び上がって喜ぶ星之介に、釉はしぃーっと人差し指を立てるけど。
すっかり熟睡の仔猫達には大声も聞こえてないみたいだし。
暫くの間だけなら、伊万里だって仔猫は大歓迎。
嬉しくて有星は孝星に抱き着くし。
その有星に星之介が出来付いて、惑星直列どころか密着状態。
そして3人とも、いやこれからは3人と3匹はずっとずっと一緒に巡り続ける予定です。




