21.偽聖女、村おこしにお役立ち(かもしれない)
モヤモヤした気持ちを抱えながら、当初の目的だった村境にある集会所にようやく辿り着いた。けど、一歩遅かったようだ。
「ニック兄ちゃんなら、さっき家に帰ったよ。この時間だとエデル姉ちゃんのとこで昼メシ食ってるかも?」
歓迎会のお席でご一緒したオットーさんがそう教えてくれる。そういえば、エデルさんとルーナさんのお家は食堂を営んでいると聞いたのを思い出した。
『ちょうどいいわね。あたくしたちも食事を摂りましょう。予定外に神力を振って、お腹がすいちゃったわ』
「ハルメイア様、よければ私の分を手伝ってもらえますか?あまり食べられそうになくて……」
『もう!また痩せちゃうじゃない!!』
そう言われても、リュカのことやルーナさんのことを考えるだけで、胸が苦しくなってしまうのだ。
『少しでいいから、固形物を摂らないとダメよ。いざってときに動けなくて、マリーエが危険な目に遭ったらあたくし村ごと滅ぼしてしまいかねないわ』
「そ、それはちょっと……!」
流石にそれはまずい。
『あら?なんだか名案な気がして来たわ。見所のある者だけ避難させて村ごと滅ぼ――もとい、浄化すれば全て解決ではなくて?』
「それは力業過ぎますハルメイア様……!」
目先の問題からは逃れられるかもしれないけど、根本的な解決には絶対にならないとわかる。人界には人界の理があるので、できうる限り人の手でなんとかすべきなのだ。
「とにかく、まずはニックさんに喪われた神の記録が残っていないかを調べてもらいます。それと並行してルーナさんにお話を聞いて、どうして大聖女様のことを言わなかったのか……ルーナさんの望みが何なのかを、聞いてみます」
とにかく今は、この村の人たちを困らせている祠のご神体を浄化することを最優先に。そして、ルーナさんの抱えている苦しみを少しでも和らげることが出来ればと、切に思う。
◇◇◇
「マリーエ様、おかえりなさい。おじいちゃんから出掛けたと聞いていましたが、どちらへ行かれてたんですか?」
お昼の営業時間を終えて、片付け中のエデルさんが出迎えてくれた。
「ニックさんに聞きたいことがあって集会所に行ったのですが、入れ違ってしまいまして」
「あら、そうだったのですね。ニックなら中で食事中ですよ。マリーエ様の分も今用意しますね」
控えめでお願いしますと言う前に、厨房に去って行ってしまった。所作がテキパキしていて、働きなれている感じがする。神殿以外の場所で働く女性の知人がいないので、この村では普通なのだろうけど、なんだか新鮮だ。
(神殿以外の人間関係なんて、私にはほとんどないからなぁ……しいて言えば、第一王女様が畏れ多くもお名前を呼ぶことを許してくださっているけど、かのお方も神殿関係者のようなものだしね)
この国の第一王女リーディア殿下は神力を持っていて、力のコントロールを学ぶため、時折大神殿を訪れる。私より2歳年下だけど王族らしい威厳がおありで、常に堂々としている美しい御方だ。年が近く、色々お教えする立場になることも多いからか、いつも親し気に微笑みかけてくださる。全く似ていないはずなのに、微笑を向けてくれる共通点があるからか、どことなくルーナさんを彷彿とさせる。
「あっ、マリーエ様おかえりなさい!なにかわかりましたか?」
「ニ、ニックさん、どうかお話は食べ終えてからで……」
口いっぱいにサンドイッチを詰め込んだニックさんに勢いよく話し掛けられて、思わず怯む。どうか口の中のものを胃袋に収納してから喋って欲しい。
「おっと、こりゃ失礼しました。普段から話しながら片手で食べれるもんを詰め込むことが多いもんで」
「いえ、お忙しいですものね」
ニックさんの向かいの席に腰を下ろすと、エデルさんが食事を運んでくれた。ハムとチーズのサンドイッチにじゃがいものミニグラタンはハルメイア様におすそ分けしよう。トマトの冷製スープは食べきれそうだ。
「えっとですね……」
私は前村長さんから聞いたブルーベル様のことと、ブルーベル様と一緒にいた猫のことをかいつまんで話した。ハザマ村の人たちはハルメイア様のことを私の使い魔だと思っているので、同じような存在だとぼかして伝えた。神殿関係者でもない限り、突然神の存在を示されてもピンとこないと思うのでこれがいいだろう。
「うわぁ……じいちゃん、そんな旨い話を今まで黙ってたのか……!」
「だめよ、ニック。おじいちゃんは大聖女様を気遣って話さなかったんだから、そんな言い方しないの」
「わかってるけどよぉ」
村人目線だと、かつて大聖女様が暮らした村という事実は立派な観光資源になるのだとか。大聖女様の信者が聖地巡礼をして、この村に滞在してくれたら大きな経済効果が見込める、らしい。
「この一件が解決したら『偽聖女様大暴れの地』って触れ込みで盛り上げていきたいんで、よろしくお願いします!」
「わっ私も資源にされるんですか!?」
『いいわね、その調子でマリーエを崇めなさい!』
「やめてくださいハルメイア様!!!」
どうかそっとしておいてほしい。聖女の御役目で人前に立つことは大分慣れたけど、注目されることはあまり好きではないのだ。
「ま、それは置いといて。親父の部屋に歴代村長が付けていた村の記録が残ってるんで、調べてきますね」
村長一族の人間にしか閲覧権限が無いそうなので、ニックさんに全面的にお任せすることにして、私はハルメイア様と客間に戻った。




