20.神官、嘆く
何が起こったのかあまりよくわかっていないが、一つだけハッキリしていることがある。
俺は、マリーエに拒絶された。
「なんでだよ……っ!」
むしゃくしゃして、思わず樹木に思い切り拳を叩きつけてしまったが、痛みは感じない。そんなことよりマリーエの泣きそうな顔が脳裏に焼き付いて離れず、そのことが俺の胸を酷く軋ませた。
気弱そうに見えて芯が強く、情が厚いマリーエのことだから、ハザマ村を離れることをよしとしないだろうとは思っていた。その場合は俺も協力して事態の解決に当たるつもりでいたが、こんな展開は予想外だ。それに、二人の言っていたことに大きな疑問が残る。
「出自のことはともかく、他の女ってなんのことだよ……っくそ!」
心当たりがなさすぎる。一体ハルメイア様は何を勘違いして、マリーエに根も葉もない話を吹き込んだのだろうか。相手が愛の女神とは言え到底許せる所業ではない。すぐに追いかけて誤解を解かなくては。ハザマ村はさして広くないし、すぐに見付けられるだろう。
「あ、あのー……」
この後の行動について考えていたら、間の抜けた声で話し掛けられた。この男の存在をすっかり忘れていた。
「ちょうどいい。お前、何故マリーエと一緒に居たんだ?マリーエの居場所に心当たりはないか、洗いざらい吐いてもらうからな」
「なっ、なんだよアンタ!俺はただ偽聖女様にルーナのことを頼みたかっただけで……」
「偽聖女だぁ!?そんなでたらめがまかり通ってるのかこの村では!!」
「だって偽聖女様は、王都でご神体をぶっ壊したんだろ!?この村にはまさにその力が必要なんだよ!蔑んで偽物だって言ってるんじゃない、マジで求めてるんだってば!!」
「は……?どういうことだ?」
現時点で俺が知っていることは、ここハザマ村の一部の村人に精神汚染の症状が出ていること。そして、今は亡き大聖女ブルーベルが15歳から18歳までの3年間を過ごした村であり、当時共に在った神が恐らくこの村で喪われたということ。村人の精神汚染は喪われた神となんらかの関りがあるのではと予想しているが、そのこととマリーエがご神体を破壊したことが、どう繋がるのか。
「あっ!もしかして、アンタがリュカ神官か?偽聖女様を捨てて他の女に走った貴族の男だっていう……」
あまりにも聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。
「誰がそんなことを言っていた…………?」
「おっ俺は直接は聞いてない!偽聖女様の歓迎会で、本人が話してたってオットーの奴が……!」
頭が痛い。一体何をどうしたらマリーエがそんなことを俺の知らない男に話したのか。わけがわからないしはらわたが煮えくり返りそうだ。
「お前、名前は?その歓迎会とやらに出席した奴らは今どこにいる?」
「そんなこえー顔した奴に個人情報なんか教えられねーって!俺は、まだルーナのことだって偽聖女様にちゃんと頼めてねぇんだ……!」
どうやらこちらに情報を渡す気はないらしい。多少手荒な手段を使っても構わないが、後々でマリーエに知られるリスクを考えるとやめておいたほうがいいだろう。この男は捨て置いてとりあえず村長の元にでも行くかと思ったところで、急ぐあまり置き去りにしてきたダグラスが追いついてきた。
「遅いぞダグラス!」
「なんですかリュカ様、ご機嫌ナナメですね。まだマリーエ様とはお会い出来ていないので?」
「のんきなことを……って、あれ、神官長?」
「お……おいついけ……た……」
ダグラスのすぐ後ろには、大神殿にいるはずの神官長が息も絶え絶えといった様子でへたりこんでいた。
「どうしてここに?王都の問題を片付けておくんじゃなかったのか?」
「あぁ、それはおばあ様、いや、神殿長が代わりに」
マリーエを溺愛していて、孫である神官長ユリウスとの養子縁組を誰よりも望んでいたマデリーン神殿長のことだ。きっと今頃怒り心頭で、エンデ侯爵家にとどめを刺す勢いで掃除中に違いない。そちらは任せておいて問題ないだろう。
「それよりもリュカ神官!大変なんだ!!マリーエはとんでもない誤解をしている!!!」
神官長の話を聞いた俺は、あまりにも酷い話に思わず天を仰いだ。




