18.偽聖女と神官、決裂する
「リュ、リュカ、ごめんなさい。わたし……」
「いいんだ、マリーエ。エンデ侯爵家のあいつも、さっきのあの男も、随分手荒な真似をしたんだろう。怖かったな」
どうやらリュカは、私が男性に対して恐怖心を抱いたのだと解釈したようだ。
「とにかく、早くこの村を出よう。隣村に馬車を待機させてある。ここで起こっている問題については、大神殿から神官を派遣しよう」
「ま、待って!今から急いで要請しても、すぐには来られないでしょう?だったら私がここに残って」
「ダメだ」
「え?」
「マリーエはそう言うと思ってた。けど今は、一刻も早く大神殿に戻って、偽聖女の疑いを晴らさないといけない」
「そんなの、急がなくてもいいよ。私が本物でも偽物でも、することは変わらないもの」
何故宝物庫の呪物が壊れたのか、本当に自分の力でやってしまったことなのか、私自身よくわかっていないのだ。それよりも今は、このハザマ村で起こっていることの方が気になっている。本物か偽物かは、私にとって重要な事ではなかった。
「マリーエはそう言うだろうと思っていたし、俺も付き合うつもりだった。だけど、あんな危険な男がいる村に、お前をいつまでも置いておけない」
「あの人は、神体の影響を受けて困っている人で……」
「そもそも、どうしてそんなに丈が短い服を着てるんだ!この村で過ごすことが、マリーエにとっていいこととは思えない」
私自身も落ち着かないと思ってはいたものの、ルーナさんが貸してくれた衣服をそんな風に言われて、思わずカチンときてしまう。
「私は何を着ていても、どこにいても、どんな肩書でも、ハルメイア様のいとし子として与えられた神力を正しく行使すると誓えるわ。それだけじゃいけないの?」
「そういうことじゃない。俺は、お前が心配で堪らないんだ。頼むから目の届くところに居てくれ」
何故、そんなことを言うのだろう。
先に私を手放したのはリュカの方ではないか。
感情が昂ぶり、いつもは身の内に収めている神力が全身から溢れ出すのを感じる。
「マリーエ、やめるんだ!体に負担が……」
「もういい、ほっといて!私にかまわないで!!」
ここで彼の手を取って大神殿に戻ったところで、遠からず彼は家族の元へ帰るだろう。私の事を迎えに来ておいて自分には他に帰る場所があるなんて、そんな残酷なことってない。そう思えば思うほど、神力が膨れ上がっていく。
『そこまでよ、二人とも!リュカはマリーエから離れなさい!!』
リュカの結界で分断されていたハルメイア様が、私たちに追い付いて結界内へ飛び込んできた。少し離れたところに、さっきの男性も見える。
『マリーエはあたくしとハザマ村の祠をどうにかするのだから、邪魔立ては許さなくてよ。マリーエを捨てて他の女を選ぶようなあなたに、あたくしの可愛いマリーエを連れて行く資格はあげないわ!!』
「はぁ!?ハルメイア様、一体何を言って――――」
ハルメイア様が尻尾を一閃し、リュカの結界を解除した隙に私は彼から距離を取る。
「マリーエ!?」
「ごめんなさい、リュカ。私はまだ、大神殿には戻らない」
「なっ……」
絶句するリュカを見て、少し胸が痛む。
「リュカは、戻って。待っている人が……いるんでしょう?」
「何を言ってるんだマリーエ。俺は、お前と……」
『男はすぐそうやって言い訳するのよ!本当の出自も明かさず、愛を乞うこともせず、マリーエを丸め込もうとしたってあたくしが許しませんからね!さぁ、行くわよ!!』
その合図で、温かく眩い光が私を包み込み、荒れていた心が凪いでいくのがわかる。愛の女神に相応しい、泣きたくなるほどの愛情に満ちた光だ。
『マリーエ、行くわよ』
「……はい、ハルメイア様」
「待ってくれ、行くな、マリーエ……っ!」
転移という神の御業で、私たちはリュカの前から去った。




