14.ハルメイア様の推測
神々に関することは、とにかく謎が多い。
ハルメイア様は愛の女神だけど、神界には他にも慈愛の女神や友愛の神がいるらしい。その中でも、全ての愛を統べる存在として最頂点にハルメイア様が君臨されているという。ここから遠く離れた東方の国では、『八百万の神々』という、あらゆる事象に神が宿ることを言い表す言葉があるらしい。まさにその言葉の通りだ。
ハルメイア様曰く、高位の神ほど人間に焦がれる傾向があり、それはどんな神であっても変わらないらしい。なんでも、位が高くなればなるほど神としては孤独を深めるので、神界のしがらみに縛られない人間を傍に置きたくなるのだとか。貴族の方も高位者ほど責任が強くなり、他者と分かち合えなくなるものらしいので、神々もその点は同じなのだろう。
私が見た夢の中で大聖女様と一緒にいた武神リオル様は、とても楽しそうに見えた。傍から見ているだけでも、二人が幸福であることが伝わってきたし、大聖女様もいとし子になることは拒んでいたようだけど、リオル様を憎からず思っているのは明白だった。
なのに、どうしてあんな悲劇が起こったのか。
そして、周辺諸国にもその名を轟かせる大聖女ブルーベル様の過去と思われる出来事なのに、現在に何一つ伝わっていないのは、何故なのだろう。
◇◇◇
『マリーエが見たのは、大聖女ブルーベルとかつての武神リオルに間違いないわ。リオルが人間の少女に傾倒していた話は、神界では有名だもの』
「でも、大聖女様は豊穣の女神フローラリア様のいとし子でいらっしゃいますよね?」
私が見た光景では、フローラリア様はリオル様を助ける力を大聖女様に授けるために、自らのいとし子になるよう促していた。
『何があったのかは、あたくしは知らないわ。だけどリオルが人間の少女をいとし子にしたと事実はない。それに、大聖女はフローラリアと仲睦まじくしていたのは知っているわ。でなければ、人の身であれほどの神力を扱うなんて不可能だもの。大聖女がリオルからフローラリアに鞍替えしたのかしらねぇ』
ハルメイア様の言葉を聞いて、脳裏にリュカの顔が浮かぶ。
「だとすればそれは、とても悲しいことのように思えます……だけど、それも外側から見ただけの、ただの私の感傷なのでしょう」
人の数だけ、神の数だけ、価値観があることは自然の摂理だ。だからこそ、誰の想いも否定してはならない。少なくとも私はそう思っている。
『ふふっ、あたくしはマリーエのそういうところが好きよ』
ハルメイア様は、いつもこうして私の考え方や在り方が好きだとと言ってくださる。その事実はいつだって、私の心の支えだ。
「ハルメイア様は……ずっと、私と一緒にいてくださいますか?」
夢の光景を思い出し、震えが走る。ただでさえリュカが居なくなってしまったのに、その上ハルメイア様までなんて、考えたくもない。
『まぁ、マリーエってば愛らしいこと!!ずーっと一緒にいましょうね!!』
飛びついてきたハルメイア様を抱き上げ、しばらくそのぬくもりを堪能した。
◇◇◇
『あの祠は恐らくリオルを鎮めるために作られたものよ。神核を封じて祀り上げることで、堕ちたリオルを少しずつ浄化しようとしているのだわ』
「では、それが何故急に、村の人たちに影響を及ぼすようになったのでしょう」
『封印が経年で緩んだのか、誰かが意図的に封印を緩めたのか、どちらかだと思うわよ』
「うーん……」
私はハザマ村の事情に明るくないので、後者だとしても誰がどんな目的でやったのかがさっぱりわからない。私とハルメイア様の力があれば封印を重ね掛けすることは出来るだろうけど、もし誰かの仕業なのだとしたら、元を断たない限りまた同じことが起こるだろう。
「ニックさんたちは、大聖女様がこの村の出身だということを知らなかったので、若い方の仕業と考えるのは難しい……と思います」
『なら、前村長にでも話を聞いてみたらいいのではなくて?』
ニックさんのお爺さんの世代なら、大聖女様がこの村にいた頃を知っているかもしれない。明日の朝にでも早速相談してみよう。
『さぁ、もうお休みなさいな。力を使ったり倒れたりして、疲れたでしょう』
「ありがとうございます。ハルメイア様、おやすみなさい」
流石に疲れがどっと来て、夢も見ずに朝まで熟睡した。




