13.ハルメイア様、驚愕する
農業用の馬車に乗せられ、村長さんの家に戻った頃にはもう夜になっていた。
ここまで送ってくれた皆さんにお礼を言い、ニックさん、エデルさん、ルーナさんと少し遅めの夕食をいただく。エデルさんお手製のあたたかなシチューとオリーブ入りの塩気がきいたパンが、疲れた心身に染み渡る。
「ごちそうさまでした。とっても美味しかったです」
「お口に合ったならよかったです。お体はもう大丈夫そうですか?」
「皆様のお陰で、もう大丈夫そうです。ご迷惑を……」
「なに言ってんですか!元はと言えば、俺らがマリーエ様を祠に送り込んだんですから、謝ることなんてないっすよ!!」
ばしんと背中を叩かれ、驚きのあまり椅子から軽く浮いてしまう。
「ニック兄ってホントがさつ!信じらんない!!」
「だ、だだ、だいじょぶです。えと、あのご神体についてお話してもよろしいでしょうか」
ご神体の様子についてニックさんに話すと、どんどん渋い顔になっていった。
「俺の時も、見えなかっただけでその黒いモヤにやられたんですね……」
「恐らく、神力がない人には見えないのだと思います」
私が見た夢やハルメイア様が感じた気配が確かなものなら、あの黒いモヤの発生源は墜ちた神に関するなにかなのだろう。それが何故村の人たちへ悪さをするのか、理由はわからない。今まで平気だったものが突然牙をむいてきた理由も。
「今日は備えが足りず倒れてしまいましたが、きちんと対策してもう一度行ってきます。あのままにしておくわけにはいきません」
「マリっち無理してない?だいじょぶ?」
「えぇ、大丈夫です。それで、対策を立てるために、皆さんに教えていただきたいことがあるのですが……」
あの祠はいつからあるのか、中に祀られているご神体の由来を知っているかを尋ねたところ、皆さんの祖父母世代の方ならわかるかもという答えが返ってきた。その方々ならきっとブルーベル様がこの村に居た頃のこともご存じだと思いそのことも尋ねると、三人とも揃って首を傾げた。
「大聖女ブルーベル様って、優れた浄化と癒しの力を持つ伝説の聖女様ですよね。そんな方がこの村にいたなんて、聞いたことがありません」
「お姉ちゃんが知らないことを、あたしが知るわけないよね~。てか、誰も知らないんじゃね?知ってたらもっと大々的に観光資源にしてると思うし」
「ルーナの言う通りです。大聖女様生誕の地だなんて、そんな美味しい情報を父や祖父が放置しておくとは思えませんから」
村長一族のニックさんに聞けば何かわかるだろうと思っていたら、当てが外れてしまった。
「これからのことは、また明日話しましょう?マリーエ様はお疲れですもの。今夜はゆっくりお休みください」
「エデルさん、ありがとうございます」
確かに疲労困憊だったので、エデルさんの薦めに従い早々に客間に戻ることにした。
◇◇◇
浄化で身を清めて、お借りした室内着に着替えてベッドに倒れ込む。お行儀が悪いけど、誰も見ていないので今日ぐらいはよしとする。
『ねぇマリーエ。大聖女ブルーベルがこの村出身というのは、どこで聞いたの?』
まだハルメイア様に、あの夢のことを話していない。
(堕ちてしまった神のことをハルメイア様に聞いてもいいのだろうか……)
同族のよくない話を尋ねていいものか逡巡していると、私の迷いを嗅ぎ取ったハルメイア様にじっと睨まれた。
『あたくしとの間に隠し事はナシよ!何を躊躇っているの!?』
「ほぁっ、ご、ごめんなさい!」
『さぁさぁ薄情なさい!貴女は眠っている間に何を見たの?』
「わ、わかるのですか?」
『どのような光景を見たのかまではわからないけど、あなたはあたくしのいとし子なのよ。その繋がりを辿れば、何が起こっているのか察することぐらいは出来るわ』
改めて神の御力に感服する。
「では、お尋ねしますが……ハルメイア様は、武神リオル様をご存じでいらっしゃいますか?」
聞くや否や、ハルメイア様はびょいんとその場で跳ね上がった。
『まさかあのご神体は、リオルの神核なの……!?』




