私はモブです。フラグは・・・
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懸念していた事件が起きてしまった。
起きてしまえば、失敗は出来ない一発勝負。
それまで起きる様々を想定してがんばってきたから、起きなければほっとする反面もしかしたらがっくりきていたかもしれない。こんな、“たられば”なら、いくらでもあっていいと思う。
だが、現実は変更点を加味することなく起きてしまった。
起きてしまったけど、誰も怪我なく無事だったことに、これまでの行動は無駄じゃなかったと嬉しかった。
両手を天に伸ばして、晴れやかな笑顔で万歳をしたい気分だ。
しないけど・・・
それに体は無事だったけど、私の行動で心が傷ついた人もいた。
馬上で項垂れるルーカス様。
何時もの、快活で悪戯っ子な明るいルーカス様の形は失せていた。
日に焼けた健康そうな顔色は、白くなり痛々しいほど辛そうな顔。
ルーカス様の責任は、何一つないのに・・・
でも、まさかシナリオ通りのことが起こったことに驚きを隠せない。
色々と本来の筋書きとは違う行動をしていたと言うのに、これが強制力というものなのかしら?
まあ、落雷は予想通りだったから、その後の準備も万端。
このまま屋敷に戻るには疲労困憊なので、そこも準備している。
屋敷に無事に帰るまでが、フラグ折りです。
流石に暴走する馬を止める事に全てを集中したから、体中が悲鳴を上げて疲れている。このまま帰るのは、体力がもたない。それこそ、無理をして帰れば折角折ったフラグが復活しかねない。
でも、ルーカス様もレオナルド様も怪我が無かったことで安心した。馬を止めた後、強制力の力を恐れたけど、何事もなかった事に神に感謝した。
なにしろ、私が原因になるのだから気をぬくことが出来なかった。それが、終わりの合図となる、土砂降りの雨が降ったことで今度こそ本当に安心出来たのだ。
無事、怪我無くお二人を避難場所の狩小屋に案内して、まだ落ち着かないルーカス様をソファーに座らせて、濡れた上着を受取ろうとしていたところにレオナルド様の硬い声がかけられた。
その顔を見れば、困惑したような、でも辛そうな顔をして此方を真っ直ぐに見つめていた。
「えっ?あのっ!えっ・・・なん、なんで?私、あの・・・」
思いも寄らなかった質問に驚いて言葉が出てこなかった。
レオナルド様が何を聞きたいのか?
言葉の通りに受け取っていいのか?
でも、それならばどうしてそんなことを聞いてきたの?
私に予知なんて能力はない。
私の魔力は、一般的な地と緑の属性が一般的な魔力でしかない。転生物語にありがちなチートな能力など何もない。
だから、私が何を知っていると思ったのだろうか?
だけど、レオナルド様の顔は至極真面目。
不安そうな表情だけど、瞳はとても力強い。
誤魔化そうとして、声を出したけど躊躇うほどの強い意志を感じた。
知っていたか?
はい、知っていました。
でも、そんなことを言えるはずはありません。
言えば何故知っていたかになるからです。
ここは前世で見たゲームの世界です、なんて言えるはずない。
「クリス、誤魔化さないで・・・
ああ、ごめん、でも・・・ねぇ、今日、君は、この外出で・・・何か起きるかもしれないと、いや、何かが起きると知っていたよね」
一言、一言かみ締めるように・・・レオナルド様は、とても、すごく辛そうに言葉を選ぶように途切れながら、でもしっかりと言葉にする。
知りません、たまたまですって言えばいいの?
でも、何を思ってそうレオナルド様が思ったのか・・・
「兄上?・・・何を?言って・・・」
ルーカス様もまだ青白い顔で、レオナルド様を見上げます。
レオナルド様の言っていることは、何も知らない人から見れば何を言っているんだと思いますよね。
私も、レオナルド様の真意を見定めてから発言しないと、折角ここまで築いてきた良好な関係を壊すことになる。いや、もしかしてこんな疑いをもたれるということは、私が思っていたよりもそんなに良好じゃなかったのかもしれない。
疑われるということが、こんなに悲しいなんて・・・
「兄上?落雷のことなら、確かに天気のことをクリスは言っていたけど」
「違うっ!そういうことじゃないんだ。そうではない・・・落雷で、いや雷も関係しているのか?でも、それにしても・・・なんで?」
ルーカス様の疑問にレオナルド様は大きな声で遮るように否定されますが、それでもレオナルド様の中でも葛藤されているのか、はっきりとした言葉が珍しく出ないでいる。
「・・・クリス?
今日、出掛けたくなかったのは、本当に雨が降る予報だったから?本当にそれだけ?
もしかして今日、こんな事故が起こると思っていたからじゃないのかな?」
紡がれる言葉が、疑問で投げかけているのに、どこか確認するような強い意思のある問いかけだった。
それに私は、返事が出来ずに俯いてしまった。
まさに確信をついてくる発言だったから・・・
立ちすくみ、手に持っていたカップが手から滑り落ちて転がる。
幸いにここにある食器類は、平民が使うような割れにくい素材で出来ている。貴族が使う薄く繊細な陶器でない。
そんな、どうでもいいことを頭で考えながら転がるカップを目に思う。
「・・・・・・」
レオナルド様もそれ以上は、何も言ってくれない。私の答えを待っている。
ルーカス様も驚き息を呑んでこちらをうかがっているのが分かった。
何か言わないと・・・・・・
でも、なんていえばいいのか・・・
無言でいると言うことは、肯定になると分かっていても嘘も真実も言えない。
初恋の相手のレオナルド様に誠実でありたい。
言わないことはよくないけど、せめて嘘はつきたくない。
好きな人に嘘をつかれるなんて、私は悲しくなるから・・・
でも、疑われているんだよね。
真実を話して、まともに信じてもらえるか?
だって、相手は大国の王子様。ゲームの中のキャラクターじゃない。もしも、こんなことが起きるとわかっていて何も言わないなんて、その身を害そうとしたと思われるかもしれない。
私だけの問題なら、嫌われたって仕方がないと悲しいけど受け入れる。
でも、こんなことを言えば家族にも疑いの目を向けられる。延いては、マラカイト国と確執になってしまったら・・・
そこまで考えが及んだ私の顔は、血の気が一気に引いていくのが自覚出来た。
目の前が暗くなる。
私が勝手にフラグを折ろうとして、物語を変えたから?
だから、罰が下ったの?
物語を作った神様が強制力という目に見えない何かを使って、物語を変えた私に罰を与えようとしている?
そんなっ!
そんなこと、折角回避出来たのに!
これで、二人とも辛くて悲しいことが起こらないと思ったのに!
邪魔な私が排除された後、何かの修正が入ってレオナルド様に・・・ルーカス様が・・・
そんなこと、許さない!
この世界の神様が許そうたって私が許さない。
前世の記憶をフルに使って・・・・・・・
でも、ここで私が退場させられたら・・・・・・・・・・・どうやって?
途端に絶望感が襲い来る。
胸が苦しい。
その時、ふわりと温かな温もりが手のひらを包んだ。
指先まで冷たくなった私の手を、レオナルド様が包み込んでいた。
温かな生きている人の温もり。
ゲームの序盤に流れる回想ムービーで見た、冷たく触れることが許されなかったレオナルド様とは違う。
まだ、回避が出来る?
レオナルド様の掌は、私よりも大きく掌の皮には硬いところがある。騎士に交じって剣を習っていると言っていたから、剣だこが出来ているんだ。何でも熟す完璧王子様も、努力をしているのよね。昨日のダンスを踊った時もその手のひらの大きさに驚いた。手袋を付けず、素手で取り合って踊った時間。背も高くなり、目の前はレオナルド様の胸だった。見上げると蕩ける様な微笑みを向けられた。
それは親愛の微笑みだったかもしれないが、私に好意を抱いてくれているのでは?と勘違いをしてしまいそうになる、甘い笑顔だった。
その微笑みを守りたかった。
好きな人だけど、ただのお助けモブには、攻略対象並みのイケメンと結ばれるなんて思っていません。何度も勘違いしそうになったけど、ただレオナルド様とルーカス様の幸せな未来のために頑張って来たんだもの。ここで諦めたくない。
「ごめんね。ルーを助けてくれたのに詰問して。
責めてる訳じゃないんだよ。もし、知っていて・・・クリスが知っていて悩んで今日をどんな気持ちで迎えたのか・・・僕は君の・・・」
私の手を取ったまま跪いて見上げてくるレオナルド様の顔を恐る恐る見れば、恐れていた嫌疑の眼差しはなかった。
とても美しいエメラルドグリーンの瞳が、心配そうに見つめている。
揺れる瞳が、お互いの視線が合わさる。
信じてもいいのかな?
話しても・・・信用してもらえるかしら?
そんなことを思って、不安に揺らめいたとき、レオナルド様の言葉に決心がついた。
「まだ、僕ではクリスティーナに信用してもらえる人物になれてないのかな?」
悲しそうに眉を寄せるレオナルド様。態とその表情をしているのではなく、心から悲しんでいるように見える。
レオナルド様も、私が信用していないと悲しいんだ・・・
ああ、私が信用していないでレオナルド様が信用してくれるはずはない。
こんな話を勝手に信用してくれないなんて、レオナルド様に失礼な話だ。
話を聞いてどう判断するかは、レオナルド様とルーカス様だ。
私が口に出していないことを、信用してほしいなんてそんなの私の妄想でしかない。
それに、この3年間過ごした時間は、絶対に無駄じゃない。
初めて見たレオナルド様の笑顔に、惹きつけられるように一目惚れをした。前世から数えて、誰かに恋をしたことなんてない私がその恋心で一途にここまで来たのだ。
どうせ一途に突き進むなら信用して、伝えよう。奇天烈で珍妙な話だと、頭が可笑しな女だと思われてももういい。この二人が無事なら、それでいいじゃない?
私はもう隠し事は出来ないと、腹をくくります。
「・・・・・・わたくしは、いえ私は・・・今日が来ないでほしいと、ずっとおもっていました・・・」
強張っていた体の力を抜き口を開くと自然と涙が静かに零れた。
もう、限界だった・・・
「私にはクリスティーナとして生まれる前の記憶があるのです・・・聞いて頂けますか?」
目の前で大好きなレオナルド様の瞳が驚きに見開いた。
読んでくださりありがとうございます。




