私はモブです。彼は・・・・・・です
連続更新しています。よろしくお願いします。
<レオナルド視点>
「遅れているぞ、早く来いよ!」
・・・不機嫌な様までは、押し殺せなかったの仕方がない。
そして、ルーカスはやっと駆け足でこちらに向ってきていた・・・・・・のだが、事もあろうか近づく直前に行き成り疾走を始めたのだ。
しかも、すれ違いざまのあの笑み。
憎たらしいまでに晴れ晴れとした、それでいて何やら言いたげな表情。
恐らくは、今回俺を出し抜いたことへの優越感からくる表情と行動なのだろう。
何度かクリスとの順番を巡って、軽い調子だが変わって欲しいと言われたことがあった。だが僕は、それに是と首を縦に振ったことはない。ルーカスはいつもすんなり引いていたが、恐らくは不満をためていたのだろう。
でもその程度で引くようなら、ルーカスのクリスに寄せる好意が俺を超えるほどのものではない。
僕は本気の、そう、本気の愛をクリスに向けている
彼女は、僕にとって唯一無二の存在だ。
これ以上の感情を、クリス以外に持つことはない。
そう断言出来る。
僕の本気に簡単に引き下がるような奴に、譲る謂れは無い。
我慢していた何かが弾けた瞬間だった。
僕は、慌てて二人を追いかけた。
随分と先を走るルーカスは愉しそうで、前に乗るクリスの様子は伺えない。
昨日、乗馬の話をしたときの怯えた様子に乗馬が初めてかと心配していたのに・・・
何を考えているんだ、ルーカスはっ!!!
クリスが怯えてしまったら如何するんだ!!!
そして、二人までまだ少し距離があるところで事は起こった。
目的地の一本木に雷が落ちたのだ。
フィンは驚き暴れそうになったが、元より軍馬としての教育もしているフィンは直ぐに抑えることが出来た。
僕自身も騎士団に交わり騎馬隊の訓練を受けている。軍馬の調教にも加わることもあるから、暴れる馬の扱いなどどうとでもなった。
しかしルーカスの乗るサムはまだ幼く、軍馬としての教育は始めたばかりのはずだ。ルーカスの方は、騎士団の訓練に参加しているとは言え、騎馬隊の訓練はまだしていない。
見ると大きく前脚を上げて降ろしたかと思うと暴走を始めた。
「クリス!!ルー!!」
僕は必死で追いかけたが何故だか追いつかない。
おかしい。
向こうには二人乗っているのに・・・
僕のフィンなら直ぐに追いつくはずなのに・・・何故?
前では必死にサムを落ち着かせようとルーカスが手綱を引くが、強くしすぎたのか余計に暴れていた。
危ない!!!
そう思った瞬間クリスが手綱を掴み、巧みな手綱さばきでサムを誘導しはじめた。
サムも最初は抵抗しようとしていたが、クリスの手綱さばきが上手いのかサムの動きが緩んだ。
疾走していたサムは、徐々に速度を落としクリスが誘導するように円を大きく描く。
その円も渦巻のように中心に寄っていき、小さくなるにつれて速度もゆっくりなる。
ゆっくりと走っていたサムは、最後にクリスの引く手綱を合図に数歩足踏みをして止まった。
サムが止まった暫く、草原には風の音しかしない奇妙な緊張感と静寂があった。
僕は呆然とその光景を見ていた。
クリスが止めた?
何故?
何故、暴れ馬を・・・?
止まった馬上でクリスが肩で息をして、フッと脱力する様子が見て取れた。
僕は慌てて二人の元に行き声をかけた。
声をかけると弾かれたように顔を上げ僕らの心配をして、無事をその目で確かめるとあからさまにほっとした泣きそうな顔のクリスがいた。
肩の力が抜けた、あのへにゃんとした愛らしい笑みを顔に浮かべるクリス。
僕の大好きな、力の抜けた笑いのクリスだけど、僕の中で感じた小さな違和感が膨らんでいった。
暴走馬に乗っていたルーカスの無事はわかるが、クリスは僕の無事もその目でしっかりとくまなく確認していた。
僕は追いかけてはいたが、クリスの手綱さばきに呆気にとられて距離を開けたまま見入ってしまったのだ。
助けるつもりが、その必要がなかったことには驚いたが好きな女の子の危機に助けに入れなかったことは悔やまれる。もっとも、あの時に介入しようものなら僕も怪我の一つもしていたかもしれない。暴走馬の並走介入の方法は知っているが、経験は少ない。自分の乗っている馬の暴走を止める方が何倍も簡単だ。
それなのに、クリスの目はルーカスよりも僕の方をより強く心配しているように見えた。
クリスの後ろで項垂れるように座るルーカスに目をやると、酷く落ち込んでいた。
そうだろうな。
もしも僕がルーカスの立場にあったら、顔を上げられない。
予期せぬ事故とはいえ、好きな女の子を危険な目に遭わせただけでなく、その女の子に助けられてしまったら、男として立つ瀬がない。
情けない不甲斐ない気持ちでいっぱいだろう・・・
ポツッポツッ
そうして、項垂れるルーカスに誰もが口を開くことなく佇んでいたら、冷たい風が吹く風の匂いが変わった。
水分を含んだ独特の匂いの風、それを認識した次には、手綱を握る僕の甲に大きな雨粒が落ちてきた。
その雨粒は、地面に叩きつけるような大きな音と共に幾らかもしない間に、本降りとなって僕らを濡らした。
ルーカスは動こうとしなかったが、クリスの一言でやっと動くことが出来た。
しかし、その行動が僕の中で違和感が大きく膨らむことになる。
案内されたのは、草原から少し離れた元は狩り小屋であったで丸太づくりのしっかりとした小屋。
そこへ雨宿りに避難した。
外には、馬をつないで置ける屋根付きの厩舎があり、小屋もまだ新しそうだ。聞けば、最近修繕改築されて、侯爵家の持ち物として正式に所有することになったらしい。
今までの狩り小屋は、建てたのは侯爵だが管理は近隣住民がしていたらしい。だが、周辺で狩りをすること自体が少ない場所だったことから放置されて崩れかけていたと後で聞いた。
今はそれよりも、クリスがここに来ることが分かっていたかのように、鍵を取り出して中に入ったことだ。
確かに侯爵家の小屋なら、クリスが鍵を持っていても可笑しくはない。だが、今回はこの小屋とは反対の場所で休む予定を立てていた。
休憩をどうするかと話していた時、クリスはこの小屋のことは一言も言っていなかった。
雨が降るから?
だが、何故かすんなり納得出来ない。違和感がある。
小屋の中に入ると、クリスは甲斐甲斐しく部屋の中を彼方此方動き僕らが寛げるように用意しようとしていた。
だが、春も終わりの夏の初めで湿気た様子もない薪が暖炉に用意されていたのは何故だ?
今の季節、朝夕でも暖炉に火などくべない。
流石に薪は、外にはあると思うが暖炉の中に放置されてあった様子でなく、最近置かれたように乾いた薪があるのは・・・
ここでも違和感を覚える。
僕は、ソファーに座り呆然と項垂れるルーカスとは違った意味で呆然とした。
一つの仮説が、頭に浮かんだ。
それはあまりにも可笑しく滑稽であった。
だがもしも、僕の仮説が違うと言うのなら、何故という疑問が沢山問いかける。
何故、クリスは小屋の鍵を持っている?
何故、暖炉の薪はいつでも火が点けられるようになっている?
現に、クリスは小さな火種で簡単に薪に火を点けてパチパチと音を乾いた音を立てている。
そもそも、いつもは僕の願いを叶えてくれるクリスが出立時、行きはルーカスの方に乗ると意見を曲げなかったのか?ルーカスが何か言ったわけでもないのに・・・
いやそれよりも、クリスは乗馬が出来たのか?
家庭教師の話では、そんな授業は受けていないはず。
クリスの家庭教師は、いざという時に困らないようにと母上が送り込んだものだ。その内容も、逐一報告されている。母上もなんだかんだと言いながら、大好きな従姉妹の娘を嫁に迎えることを今か今かと待っているのだ。
その授業内容に、乗馬はない。
万が一、怪我でもしたらいけないと母上の過保護、故に反対されたと聞いている。
なのにあれは熟練した乗り手のようだった。暴走馬を令嬢の細腕でするなど本来は至難の業だ。相当の訓練がなければあんなにスムーズに出来ない。僕だって、最初の頃は何度も振り落とされた。風魔法で受け止めていたから怪我をしたことは無いけど・・・
クリスは、魔法を使った?
いや、クリスの属性を考えるとあてはまるものがない。
ならば、なぜ?
まるで起きるのかわかっていたかのような──────
だが、それでも・・・
そうして小屋の中でくるくる動くクリスに、僕は一つの答えのような仮説をぶつけた。
「君は、今日起こることを知っていたのか?」
読んでくださりありがとうございます。




