26.御免!拉麺決闘伝④ -防御は最強の攻撃
「……こいつが発動可能になった!いくよ、“旋風剣”!」
「おらおらおらおらおらおらぁ!!」
グレイトフル・スイングによる攻撃から逃げながら、1枚のスキルカードが発動可能になったことを確認したカエデはそれを発動させた。
アーメスが剣を突き出して、ゆぎりと同じく、勢いよく回転する。
竜巻の様に回転しながら連撃を繰り出す刀剣系限定SRスキル、旋風剣。グレイトフル・スイングを打ち破ることは出来なくても威力を抑えることなら出来る。発動タイミングは向こうの方が先だ。もうすぐ相手のスキル発動時間も終了するに違いない。
「うおおおおおお!!」
「そりゃあああああ!!」
アーメスとゆぎりのシャウトが重なる。
ギャギャギャギャギャ!!と剣とハンマーがぶつかる激しい音が響き渡り、少ししてからゆぎりの回転が収まった。
「もらったぜ!」
よろめくゆぎりの身体の正面をアーメスの攻撃が捉えた。これが入れば大きなダメージを与えられる。……と、その時。攻撃が決まる一瞬のタイミングで大輔が慌ててスキルを発動させた。
『“パワー・シールド”!』
ゆぎりの身体を覆うように、大きな円形のシールドのような物体が出現する。アーメスの剣はそれに遮られ、カァン!と金属がぶつかったような音が鳴り響き、アーメスの攻撃もそこで終わる。
“パワー・シールド”。物理攻撃に対して大きな耐性を持つシールドを出現させる防御スキルだ。発動が間に合った、と大輔はふぅと胸を撫でおろす。
「ナイスタイミングだったよ大輔!」
『間に合って良かった。もう一度“マシンガンキック”!』
「おりゃおりゃおりゃおりゃ!」
攻撃を防いだゆぎりが再び跳躍。再度使用可能になった連続攻撃スキル、マシンガンキックを発動させる。
「ぐぅっ……!!」
スキル発動後ということもあり、回避も防御も間に合わなかったアーメスは全ての連撃をまともに浴び、小さく唸ると共に地面を削りながら大きく後方へと後ずさる。
「ああっ……、今のは痛い!」
「もう時間が無いぞ……。このままじゃカエデちゃんの敗北は確実だ」
「アーメス……」
ベンチに座る3人が不安そうな声を上げる。
ちょうどアーメスが後ずさった方向は3人が座っている場所があるところだった。カエデがちらり、と後方を見やるとそこには先ほどの3人の顔が。
(不味い。みんな結構不安そうな顔をしている……!カッコいいところ、カッコいいところを見せなきゃ……!アーメスとボクの戦い方を!ナイトの戦いを……!)
『……なあカエデ』
焦るカエデに対してアーメスが彼女の立っている空間……自分の中に対して話しかける。
落ち着いた声で、彼女を安心させるように。
『ハッキリ言うぜ。お前最初からあそこの後輩達に心配されてる』
『ええっ!?』
『会計の時に金が足りないからバトルを挑んだのも多分見抜かれてる。あの時からだいぶ不安そうな顔してたしな。いいかカエデ……お前は全然カッコよくない!というか別に、誰もお前にカッコよさとか先輩の威厳とか求めてない!』
『ガーン!』
余程ショックだったのか、”ガーン“と擬音を口に出してしまうカエデ。
『というか、お前が内心焦りまくってるから俺のステータスに下方修正かかってるんだよ。いいから落ち着け。てか落ち着いてくれないと困る』
『で、でもでもでも……』
『いいか、ナギサ君達はお前がカッコよくなくても別に舐めたりしない。馬鹿にしたりもしない』
『シューマ君も……?』
『……多分アイツも。多分、多分な?うん。だから落ち着け。オレ達が負けても笑いながら足りない分の金は出してくれる、オレ達が勝ったら笑いながら喜んでくれる。そういう連中だよ、彼らは』
『……なんでそう思うの?』
カエデの問いにアーメスは少し照れ臭そうに笑ってから答える。
『まー、なんだ。男の子の勘ってやつさ。お前みたいなちょっと抜けてて背伸びしたがりな女の子は、男子からすりゃ可愛くって仕方ないのさ』
『……今のって告白!?確かにアーメスのことはカッコいいと思ってるけど、ボクは人間で君はボクから産まれたゲームキャラクターで――』
『だー!なんでそうなるんだよ!あー、もういい!とりあえず落ち着いたか!?焦ってないか!?』
『う、うん!』
『じゃあ気を取り直していくぞ!もう“アレ”は使えるよな!』
アーメスに言われるがまま、手元にあるスキルカードを確認する。
“アレ”は既に発動可能の表示になっている。カエデは力強く「うん」と頷いた。
カエデは「ボクは嫌われない。ボクは嫌われない」と自分に何度か言い聞かせると冷静さを取り戻す。
――焦るな、取り乱すな。落ち着いて戦え。
『心配かけてごめんねアーメス。……改めて彼らに見せてあげよう、真のナイトの力を!』
残り時間は2分を切った。早いところ決めなければ。
だが焦りは禁物だ。アレとコレを組み合わせて、一撃を叩き込むタイミング。それを見極めるんだ……!
ボク達のとっておきを。まだ彼らにも見せていない戦い方を。
『そろそろ時間も残り少ないな……。店主としても割引はあんまり嬉しくないから一気に決めるっすよ!“バーニング・スタンプ”!』
ゆぎりのハンマーが烈火のごとく燃える。
そしてダッシュしながらアーメスへと向かった。スキルによる一撃だ。固い鎧に覆われた相手といえども、ひとたまりもない。それに相手はこちらの猛攻で疲弊している。スピードに長けたこちらの一撃を満足に回避するだけの体力は残ってないだろう。
――この勝負、貰った!
大輔とゆぎりが勝利を確信する。
『“アイアース!シールド”ォッ!!』
カエデがここで自らのスキルを発動させた。
ナギサ達にはお馴染みの防御スキル、“アイアース・シールド”。相手の発動させた技が物理攻撃なので攻撃誘導効果は発生しないものの、守備範囲と防御力を大きく向上させるスキルだ。アーメスの構えた盾の四方が展開して一回り大きな盾へと変形する。
「ここに来てアイアース・シールド?今更一撃防いだところで……」
ソウハが不安そうに呟く。
ナギサの抱いた感想も同じだった。今頃になって防御力を高めても既にダメージレースに負けている。
「シールド・ブーメランの疑似反射技も物理攻撃の前では意味が無い……。どうする気なんだ先輩?」
一方でシューマだけは、どこか安心した顔付きでアーメスとカエデの姿を見つめていた。
「俺達をスキルの合わせ技で倒した連中だ。この行動にもきっと意味があるに違いない。
カエデちゃんは何考えてるかよく分かんない馬鹿っぽい女だが、何も考えてない女ではない筈だ」
「褒めてるのか貶してるのか分かんないな、それ」
「俺なりに褒めていると思ってくれ」
アーメスが変形したシールドでゆぎりの一撃をガッチリと受け止める。
スキルによる一撃といえど、流石アイアース・シールドだ。なんともないぜ……といった様子でしっかりと威力を殺してガードしている。そして盾でゆぎりを押しのけるように突き飛ばした。
「あいたっ!」
尻もちをつくゆぎり。即座に立ち上がって体勢を立て直すも、アーメスが剣を構えて迫った。
回避行動は間に合わない。悔しいがこの攻撃はもらうしかない。
だがここで一撃貰ったところで自分達が有利なことに変わりはない。もう残り時間は1分を切った。後は残りの攻撃を避けていれば判定で勝てる――。
『いくよアーメス!防御は最大の攻撃だァ!』
カエデが吠える。すると何やらアーメスの雰囲気が変わった様な気がした。
身に纏う雰囲気が荒々しくなったような、そんな変化を、対峙したゆぎりは肌で感じる。
「うおおおお!!もらったァ!!」
気合の入った斬撃。そしてそれは……ゆぎりのHPを半分近く削った。
「かっ……!」
一撃もらっただけとは思えない勢いでゆぎりが後方へと吹き飛ぶ。口から血のようなエフェクトが飛び、身体に受けた傷も深い。
『な、なんだ今の威力……!?』
『“シールド・ブーメラン”!』
驚く大輔のことなど知ったことではない、とカエデが続けざまに最後のスキルを発動。
四方に展開したままの大きな盾がクルクルと回転しながらゆぎりへと迫る。
『弾けるか、ゆぎり!?』
「や、やって……みる!」
即座に立ち上がり、再び手にしたハンマーで盾を弾こうとする。
「くっ、重いねこれ……!」
だが盾の回転力が高すぎるのか、盾そのものが変わったために質量が重くなっているのか、それを容易に弾くことは叶わなかった。
――いや、違う。先程の斬撃といい、相手の攻撃力そのものが大きく上昇している……?
そしてその隙を見逃すことなく、アーメスが再び迫る。
「……ッ!?」
「終わりだアァ!!」
真一文字に振るわれた剣がゆぎりの身体を切り裂く。
勢いよく減少する、大輔の視界のHPゲージ。そしてそれはついに0へと変わる。
カエデの視界に表示される『YOU WIN!』の文字。カエデは『ギリギリだったぁ~……』と大きくため息を吐いて、へたへたと座り込んだ。
残り時間は8秒。アーメスの残りHPは2割程度だった。まさにギリギリで掴んだ勝利と言える。
「えっ、何だったの最後の攻撃力の変わりっぷり……。教えて教えて!」
光と共に消えゆくゆぎりがアーメスに向かって質問する。
先ほど大ダメージをくらったのに元気な声色は全く変わらないようだ。
アーメスの背後からカエデの顔アイコンが出現し、気が抜けて安心した声で答えた。
『元の場所に帰ったら教えてあげるよ。ナイトのとっておきをね』
「ッハァ……。マージで疲れたぜ今回は……。いい勝負だったよ」
ぜぇぜぇと息を切らしながらも苦笑するアーメス。彼もまた光に包まれて消えようとしていた。
バトルが終わり、ベンチに座っていた3人の姿もその場から消えようとしていた。
一同はホッ、と一息吐く。
「危なかったですね……。でも、アーメス達が無事に勝てて良かったです」
「本当にね。最後のは一体なんだったんだろう?何かスキルを発動させた様子も無かったけど……スキルカードの装備時効果?気になるなぁ……!」
ナギサとソウハを尻目に、シューマが安心したようにフッと笑う。
「中々カッコよかったぞ、ナイト」
ナギサ達にも聞こえないような声でボソリと呟く。
その顔はどこか嬉しそうだった。




