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25.御免!拉麺決闘伝③ -ハンマー使いVS盾のナイト

 開けた平原にカエデとアーメス、大輔とゆぎりが向かい合うようにして立っている。

 バトルフィールドに移動したのだ。そこから少し離れたところに観覧席のような形で設置されてあるベンチに、ナギサとソウハ、そしてシューマが並んで座っている。

 ちなみにシャルディはというと



「流石にお店の中に誰もいないのは不味いでしょう?ワタシが店番を頼まれてさしあげますわ!」



 とのことでバトルフィールドにはいない。

 アイツに任せて良かったのか……?とシューマが腕を組みながら、現在ここにいない自分の相棒が何か奇行に走っていないか心配していた。

 対してナギサは



「頑張ってくださいセンパーイ!」



 と両の手をメガホンの様に口元に当ててカエデにエールを送る。隣のソウハもそれを真似する形で「頑張ってくださーい」と、ナギサに比べると小さい声ながらも声援を送った。



「ま、任せたまえよ!」



 少し震える声で答えながらカエデが彼らに向かってサムズアップ。

 アーメスは「声震えてるぞ……?」と心配そうに額に手を当てた。



「こいつ、結構なサディストだな。狙ってやってないなら大したもんだ」



 カエデの様子が明らかに焦っていることに気付いたシューマは、プレッシャーを与え続けるナギサを見ながら呟く。

 普段は他人を煽ってばかりの彼だが、ナギサが自分の天然っぷりでカエデを追い詰めている様子は流石に思うところがあるようだ。



「さてと、こちらとしても早く済ませたいんで……とっとと始めちゃいましょうか!イグニッション、ゆぎり!」


「久しぶりのドウルバトル!腕が鳴るぞー!」



 大輔の掛け声と共にゆぎりの姿が光に包まれて彼と同化した。

 そして大輔を包んだ光が収まり、その中から真っ赤な色をした中華風の僧侶服を纏い、右腕に大きなハンマーを握りしめたゆぎりが現れる。

 自分の身長ほどの大きさのハンマーを片手でガッシリと掴むその姿。女の子らしい華奢な身体をしているといえども流石はドウル。力に優れているようだ。



「見るからに物理攻撃特化型って感じだね。……イグニッション、アーメス!」



 カエデも自分の相棒の名を叫び、アーメスと一体化する。



「カエデの自尊心のためにも、今日はいつもより頑張ってやるとしますかね!」


『こらー!大きな声でそれを言うなー!』



 カエデと一体化したことで青銅の鎧を身に纏った騎士へと変化したアーメスは、背中に携えた大振りの西洋剣を引き抜いて構えた。

 そしてカエデは隠しておきたかった自分の秘密をうっかり口にしてしまったアーメスに対して怒声を浴びせる。

 ベンチに腰掛けた後輩2人がカエデに聞こえないように呟く。



「分かってます。僕達もう分かってるんですよ」


「顔と行動に感情が表れ過ぎなんだよな」


「偏見だけどババ抜きとかあんまり上手くなさそうだよね、先輩って」



 2人がドウルと同調を終えた瞬間、試合開始を告げるようにブザーのような効果音が鳴り響く。

 そしてカエデ、大輔の視界に表示されてある『5:00』という表記が『4:59』へと変わった。バトルが始まったのだ。



『5分しか無いからね!早めに終わらせるよ!』


「応ッ!」



 それとピッタリのタイミングでカエデが吠え、アーメスが前進する。

 相手の武器は巨大なハンマー。取り回しも悪そうだ。こちらの間合いに持ち込めば確実に有利。そう思ったカエデは真正面からアーメスを突撃させた。


 対するゆぎりは動かない。攻撃のタイミングを狙っているのだろうか。こちらが手頃な距離に近付いた途端、ハンマーでズドン。に違いない。

 だがハンマーを振り下ろしてきたタイミングで、盾で防御することをカエデは忘れていない。相手の攻撃に合わせて確実な防御。そして隙を突いて攻撃。

 それが防御特化型であるのアーメスの戦い方だ。マスターであるカエデはそれをちゃんと分かっている。



『このタイミングだ、ゆぎり!』


「OK!」



 だが、攻撃のタイミングはカエデの予測と違っていた。

 斬撃を食らう間合いよりも離れた場所で、ゆぎりがハンマーを両の手で握りしめ、一気に振りかぶると――。



「どっこいしょー!」



 と、勢いよく振り下ろす。ズドオオオオン!!とまるで軽い地震でも起きたような地鳴りが響いた。

地面が揺れ、その衝撃でアーメスの足が止まり、よろめく。その隙を突くようにゆぎりがハンマーから手を放して、空高くジャンプ。



『なっ、アーメス!体勢を立て直して!』


「遅いよっ!」



 カエデが防御を促すも時既に遅し。ハンマーを捨てて身軽になったゆぎりが地上のアーメスに向けて鋭いドロップキックを仕掛けた。



「くうっ……!」



 よろめいたせいで防御が間に合わなかったアーメスの身体が勢いに押されて後ずさる。

 地面を削る音が聞こえ、カエデは視界に映っているアーメスのHPが減少するのを確認した。物理防御に優れたステータスと着ている鎧のおかげでそこまで大きなダメージは無かったものの、出鼻をくじかれたのは大きい。



「ふっふーん。まだまだいくよ!」



 あいさつ代わりのキックを浴びせたゆぎりが地面に着地すると、今度は先ほど手放し他ハンマーを再び握りしめてアーメスへと迫る。


 ――この娘、早い!ナギサ君とソウハちゃんと同じで物理攻撃とスピードに長けたタイプか……!それに動きにもだいぶキレがある!


 ハンマーで攻撃すると見せかけての素早いキック。それに続いてハンマーによる連撃。ドウルバトルは久しぶり、と言っていたが対ドウルにも慣れているような動きだ。流石は店を構えるほどコインを儲けているプレイヤー達といったところか。



『今度は防ぐよ!アーメス!』


「分かってる!」



 左から振り払われた大振りの一撃を、身体の向きを変えてしっかりと盾で受け止めるアーメス。

 しかし勢いのついた攻撃による威力を殺しきることは叶わなかったのか、そのままハンマーによる攻撃にたじろいでしまう。



『続けるんだゆぎり!“マシンガン・キック”!』


「そらそらそらぁー!」



 ここで大輔がスキルを発動。

 ゆぎりがまたハンマーを手放して空高く飛んだ。そしてマシンガンを乱射するかの如き勢いで、左右の足で踏みつけるような連続キックをアーメスの頭上から浴びせる。



「このっ……、いい加減しつこいぜ!」



 盾をマウントした方の腕で顔を防いで防御するも、雨のように降り注ぐ連撃が徐々に徐々にアーメスのHPを削っていった。

 どうにかダメージを最小限に抑えようとしたアーメスは上空のゆぎり目掛けて大きく剣を振るう。スキルの発動が終了したゆぎりは空中で身を捻ってそれを躱して着地すると、再びハンマーを握りしめた。



「防戦一方ですね……。やっぱりアーメス達にとって素早い相手は苦手なんでしょうか?」


「スピードにあまり振ってないようだしね。防御力とHPは高いから長期戦に持ち込めば有利になる筈だけど……」


「このバトルの制限時間は5分だ。タイムアップ時の勝敗は残りHPが高い方が勝ち……カエデちゃんには悪いが、不利と言わざるを得ないな」



 3人は観客席でカエデ達を心配する。

 自分達にカッコいいところを見せようと、カエデとアーメスは今頑張っていることを彼らは知っている。

 だからこそ、ここは勝ってほしいのだが……シューマの言う通り、制限時間が短い今回のバトルではカエデ達が不利だ。アーメスとゆぎりの相性が悪すぎる。



「でも、ここで勝ったらカッコいいですよ先輩……!」



 カエデ達に聞こえないよう、ナギサは拳を握りしめてエールを送った。





 一方その頃、バトルフィールド外……ラーメン屋『情熱大陸』の店内では。



「いらっしゃいませー!お味噌にします?醤油にします?それとも……お・し・お?」


「えっ、えっ!?」


「ラーメン屋ってこんな艶っぽい声色で接客してくれるとこなの!?」


「ただいま店長は不在でして。5分くらいしたら戻りますわ。それまではワタシのコントをお楽しみくださいませ!

えー、ワタシシャルディがお送りする爆笑ショートコント!“オレオレ詐欺”!」


 店を訪れた男性マスターと女子高生のような姿をしたドウル相手に何か間違った接客をしていたのだった。


 ――ご安心を、大輔さん達!ワタシ、店番上手くやれていますわ!





「…………!」


「どうした?一瞬震えたけど」


「今、猛烈に嫌な予感が……!ここじゃないどこかで何か大変なことが起きている気がする」


「えっ、何それ怖い」



 2人がそう話している間にもアーメスの防戦一方の戦いは続いていた。


 ハンマーを使ったり手放したりと、器用に素早く戦闘スタイルを切り替えながら戦うゆぎりの動きに常に翻弄されている。

 決して一方的というわけではなく、時折アーメスも剣撃やパンチ、シールドバッシュで反撃はしているのだが、ひらりと躱されたり、身体を逸らすことで衝撃を逃がされたりとまともなダメージを与えられていない。ダメージレースにおいては圧倒的に不利のままだ。



『例え防御力が低くても!』


「当たらなければだいじょーぶ!」



 攻撃と素早さに優れている分、ゆぎりの耐久力は低い。

 だが数多くの攻撃がまともに当たらなければHPは大きく減らない。それに対してアーメスはゆぎりの攻撃を多くもらっている。突きや蹴りによる一発一発の威力は大したことがなくてもそれが数多く蓄積されれば当然HPは大きく減少することになる。

 更に時折飛んでくるハンマーによる大振りの一撃。盾や鎧でガードしても威力を抑えきれないほどだ。既にアーメスのHPは6割程度になっていた。


 アイアース・シールドの装備時効果による『HP9割以上の時、スキルによるダメージを半減させる』効果も意味を成さなくなった。次にスキルによる攻撃を受ければ大きくHPが減少するに違いない。



『 “グレイトフル・スイング”!』


「いっけええええええええ!!」



 大輔によるスキルがまた発動された。

 ゆぎりが握りしめたハンマーのヘッドが一回り大きなサイズへと変わり、ゆぎりはそれを振り回しながら回転してアーメスへと迫る。

 回転による勢いで威力を大きく増したハンマーヘッド。アーメスは「ヤッバ……」と呟く。



「こういう時はどうすりゃいい、カエデ!?」


『決まってるでしょ……!』



 カエデに判断を仰ぐアーメス。カエデは焦りながらも一つの最適解を導き出し、アーメスをその通りに操作する。

 まずは背を向け、片足を上げ――。



『逃げるんだよおおおおおおお!!』


「だよなぁ!!」



 汗のようなエフェクトを流しながら勢いよく逃げ去るアーメス。

 そんな彼らの様子を見てナギサは思うのだった。



「……いくら払えばいいのかなぁ」






「――って、これじゃオレオレ詐欺じゃなくてカフェオレ詐欺やないかーい!ですわ!」



 何を見せられているのだ、そして今のコントの笑いどころはどこだ。

 と、困惑した顔でシャルディのショートコントを見せられている男性とそのドウル。5分ほどで店主が戻ってくるならもうすぐのはずだ。それまで我慢だ……。

 そんな2人の顔がクスリとも笑ってないことに気付いていないのか、ニコニコとした顔のままでシャルディが続ける。



「続きましてショートコント!兄嫁との過ち!」



 ――ご安心を、大輔さん達!ワタシ、店番上手くやれていますわ!


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