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23.御免!拉麺決闘伝① -ラーメン屋に行こう!

「ごめんなさい、待ちました?」



 砂糖まみれのティータイムを終えてANOにログインしたナギサとシューマは最初のログイン地点であるセントラルエリアの噴水広場にいるカエデに声をかけた。隣にはジャケットを羽織ったアーメスも立っている。

 よっ、とアーメスが2人に軽く手を上げて挨拶とした。



「2,3分ほどね。そこまで待ったわけじゃないよ。じゃあ昼に話してたラーメン屋さんに行こうか。ここなんけどね」



 カエデがデバイスにアリュビオンの地図情報を表示させ、更に「地名検索」の欄に「ラーメン屋」と打ち込み、更に詳細検索の欄から『プレイヤー拠点』を選択。

 すると地図は一つの地点を指し示す。『ラーメン屋 情熱大陸』。



「昨日オープンしたばかりなんだけど、フォーラムでも評判いいみたい」



 そう言ってフォーラムの『雑談用スレッド』を開いて2人に見せる。





102.NO_NAME

サウスエリアに出来たラーメン屋に行ったけど美味しかった!

やっぱプレイヤーが作る料理は一味違うなって、また一つ確信させていただきました。


103.NO_NAME

自分も昨日オープン日にたまたま店の近くにいたから入ってみたよ

ホーンピッグのチャーシューがめちゃくちゃ美味かった…。うちのドウルがドハマりしてたわ


104.NO_NAME

NPDが作る武具や料理は一定品質までしか出せないんだっけ

プレイヤーやドウルが作った料理がどんなもんか気になるな


105.NO_NAME

最近は自分のお店を持つプレイヤーも増えてきたねー。






 その後に続く書き込みでも、実際に店に立ち寄ったプレイヤーからの好意的な感想が書き込まれており、どうやらオープン2日目から早くも人気店のようだった。


 更にプレイヤーやドウルが作る料理はNPDの作る物よりも品質を上回ることがあるらしく、どんな美味しいラーメンが出てくるのかナギサは期待に胸を膨らませた……と同じタイミングで、彼のホルダーに収まっているアクロスデバイスが光り、ナギサの隣に着物姿のソウハが現れた。


 急な出現に少し驚いたナギサは「おっと」と声を上げる。

 ソウハの目は心なしかキラキラしているように見えた。



「ラーメン!もし途中で食べるのが嫌になったら手伝ってあげますね。残飯処理はおまかせください。というか残してください。丸々一杯残しても大丈夫ですよ」


「……いや、ちゃんと君の分も頼むよ。奢るよラーメンくらい」



 どうやらソウハはラーメンを食べるのを心待ちにしているらしい。「約束ですよ!」と強く念押しされたナギサは一応デバイスを開いて現在の所持コイン数を確認した。

 1700コイン。ラーメンの値段が現実世界のラーメン屋の物と同じくらいならば2人分頼んでも平気だろう。

 と、デバイスで所持コインを確認しているナギサに気付いたカエデが言った。



「お金の心配ならしなくていいよ?今日はボクが君たちに奢って差し上げよう!」


「えっ、いいんですか先輩?」



 申し訳なさそうに尋ねるナギサに対してカエデが得意げに答える。



「たまには先輩らしい懐の広さってやつを君たちに見せてやろうと思ってね。感謝したまえ!」


「そういうことなら奢られてあげるか」


「じゃあお言葉に甘えて、ゴチになります!」


「ゴチになります」



 感謝の意を示すシューマとナギサとソウハ。

 はっはっは!となおも得意げに笑うカエデにアーメスがこっそりと耳打ちする。



(そんなこと言って大丈夫なのかカエデ?今の俺達ってそんなに金持ってないだろ。この前俺の装備を新調するのに結構金使わなかったか?)


(大丈夫だって。彼らのドウル合わせて6人分のご飯を頼むくらいの余裕はあるよ。それに、ボク誰かにご飯奢るのやってみたかったんだよね。先輩っぽいし)



 そんな時。ん、と何かに気付いたシューマが突然口を開いた。



「それにしてもだ、その店って今は開いてるのか?平日の昼頃だぞ」



 カエデが「それってどういうこと?」と聞き返すとアーメスがシューマより先に答える。



「そのラーメン屋ってプレイヤーが出店してるんだろ?つまりプレイヤーがログインしてない限りは開かないんじゃないのか?」


「それが平日の昼間とどう関係が?」


「いや……、平日の昼間からログインできるプレイヤーなんて限られてるだろ。

俺達のような大学生ならともかく、その店のオーナーが中高生や社会人だったらまずこの時間帯にはログイン出来てないぞ」


「あっ」


「気付いてなかったのかカエデ……」



 それもそうである。

 言われてみれば自分が普段ログインしてる時間帯って人が少ないような……とカエデはこれまでの様子を改めて思い出していた。

 大体ログインするのは平日の昼間か夕方過ぎ頃。休日は積みアニメや積み本の消化に充てたいためあまりログインしていない。



「んー、でも今この店って“開店中”って書いてますよ」



 自分のデバイスでもその店の情報を検索していたナギサは先ほどカエデが見せた地図情報と同じ画面をカエデ達に見せた。


 『ラーメン屋 情熱大陸 現在OPEN中』との情報が記載されている。どうやら現在店が開いてるかどうかもデバイスで確認が出来るようだ。

 良かったぁ……とカエデが胸を撫でおろす。



「開いてるのも確認できたし早く行きましょう。えーっと、場所は……」



 店の住所には『サウスエリア112-4』と記載があった。

 その地点をアイコンが指し示す……と、ナギサとシューマの顔がほんの少し険しくなる。



「めっちゃ遠いじゃん」


「マジか」



アリュビオンは円形の城壁に囲まれた、いかにも中世欧州モチーフのファンタジー世界の街そっくりの地形をしている。

 ターミナルを中心とし、その周辺を指す“セントラルエリア”。そしてその周りを囲むようにしてドーナツ状に広がる街を東西南北の4エリアに分けている。


 ラーメン屋があるのはその南側……サウスエリア。

 そしてそこでナギサは初めて気付いた。アリュビオンが思っていたよりも広大だということに。

 地図情報では目的地であるラーメン屋まで徒歩39分とあった。冗談ではない。そこまで移動に時間はかけたくない。

 えー、面倒臭いなぁと思っているとソウハが口を開いた。



「アリュビオンの各エリアの入り口までならアクロスデバイスの領域移動機能でワープできますよ」


「便利!」



 思わず叫ぶ。そういうところはゲームらしく便利だ。

 街中の移動だけで大きく時間をとられるのは勘弁願いたい。



「じゃ、パパパッとサウスエリアまで飛んじゃおうか。領域移動機能は分かるよね?ここをタップして――」



 3人は自分のデバイスを操作すると身体が光に包まれる。転送される合図だろう。

 全員は思わず目を瞑り、そして次に目を開けると先ほどまでとは違う場所に立っていた。


 中世欧州を思わせる街並みだ。セントラルエリアと違って近代的な建物は見られない。



「街並みにも特色があるんだな」



 辺りを見回しながらシューマが言った。

 確かにガチャガチャとした様子のセントラルエリアと比べると、ここサウスエリアは「中世欧州!」といったテーマの元に整えられているといった様子だ。



「最初はセントラル以外のエリアは街並みのテーマが決まってるんだ。でもこの辺りに居住区を構えたり、お店を出すプレイヤーが増えたら変わってくるかもね」



 そう答えるカエデ。

 セントラルエリアは名前の通り全てのエリアのテーマが集まる中心地ということなのだろうか。

 と、考えたところでナギサはとあることに気付く。



「そういえばシャルディちゃんは?」



 シューマの相棒であるシャルディの姿が見当たらない。デバイスから出てきていないどころか声すらしないのだ。



「言われてみれば今日は静かだな。おい、シャルディ」



 シューマが腰のホルダーから自分のアクロスデバイスを取り出してシャルディに呼びかける……が、返事は無い。


 不審に思ったシューマは再度「おい。聞いてるかヘンタイ女」と呼びかける。

 ヘンタイ女は無いだろう、と一同が苦笑した。


 数秒後、デバイスの電源が点く。

 そこには――。



『あっはは!この芸人さん最高ですわ!呼び間違えられた自分の名前を訂正してるだけなのに、なんでこんな面白いんでしょう!?今度真似してみようかし…………あら?』



 そこには真っ白い空間に寝っ転がり、宙に浮かぶディスプレイ画面に表示されたお笑い芸人のネタ動画を眺めるシャルディの姿があった。



『何やってますの?シューマ様』


「こっちの台詞だが!?」







「デバイス内にいるドウルはデバイスの一部機能を使うことが出来ますの。だからインターネットも見放題。ああやって動画サイトを閲覧するもヨシ!暇潰しには困りませんわ」


 その後、呼び出されたシャルディは皆の前に現れるなりそう言った。

 それに関してソウハはよく知らなかったようで「へぇ、勉強になります」と感心したように呟いた。



「インターネットが使えるのは俺も知らなかったよ。どうやったんだ?」


「んー、なんか“インターネット、開け!”って念じたら出来ましたわ」


「そんな簡単なのかよ?今度やってみるか」



 驚くアーメスとソウハ。

 んっ!と咳払いしてからシューマがシャルディに声を掛ける。



「何をして暇を潰そうが勝手だがな、主人である俺の呼びかけに応えないのはどうなんだ?」


「それに関してはマジ申し訳ありませんわ!許してチョンマゲ!」


「いつのネタだ、それは」



 呆れながらも苦笑するシューマ。そんな友の姿を見てナギサは(楽しそうじゃん)と心の中で笑う。


 彼がああやってどこか楽しそうに笑うのは自分以外を相手する時以外に見たことがなかった。彼は友人以外には事務的な対応をとるか、見下すか、その二択以外は基本的にしない。


 高校時代にも自分以外のクラスメイトに対してはそっけなかった。そんなところがクールでカッコいい、と評価する女子もいたが、大半の人間からは「ノリの悪い、いけ好かない奴」と見られ、距離を置かれていた。……ついでに彼と仲の良い自分も微妙に一歩引いた距離で対応されていた。

 体育祭や文化祭の打ち上げにも全く参加せず、おかげで自分がボッチ参加する羽目になったのをよく覚えている。


 とにかく、友人とみなした相手以外には”楽しい”、“嬉しい”といった感情からくる笑顔を見せない。それが志木宗馬という男だった。

 それを考えるとシューマとシャルディはかなり上手く付き合えているようだった。……しょっちゅう彼がシャルディのノリに振り回されている気もするが。



「なあ皆、そうやって雑談するのもいいけどよ。早く店行かないか?俺腹減った~」



 アーメスがわざとらしく腹部を抑える。

 おっと、行列が出来る前に急がなきゃ。とカエデが足を進めた。

 平日昼間からゲーム世界のラーメン屋に行列が出来ている……と言うのはあまり想像できないが。


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