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四坪ハウスのお殿様  作者: 東のマ王


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第5話:小牧のボロ小屋と、熱々ギョーザ晩餐会。

ガタゴトと揺れる荷車に揺られ、織田の軍勢に強引に小牧山へと連行された鶴千代たちを待っていたのは――目も当てられない現実だった。


「……おんなじじゃん」


三歳の鶴千代は、新しくあてがわれた敷地の前に立ち、むーっと小さな口を尖らせた。

目の前にあるのは、清洲の片隅にあったものと寸分違わぬ、小さくて薄暗い隙間風が吹きそうなボロい家。

信長の本拠地が変わったからといって、没落した斯波家の待遇が良くなるわけではなかったのだ。


「こんなことなら、わざわざぼくたちを小牧に連れてくることないのに。あっちのままでよかったじゃん……」


「ふふ、鶴千代様、まぁそう仰らずに。小牧の町もこれから賑やかになりますよ」


ちっちゃな腕を組んでぷんぷん怒る鶴千代を見て、十歳のおちよは苦笑しながらその頭を優しく撫でた。


「さあ、父上が役人所へ挨拶に行っている間に、持ってきた荷物を片付けてしまいましょう」


おちよに促され、鶴千代はトコトコと付いていき、新しいボロ屋の土間へ足を踏み入れた。

そして、おちよが荷解きに追われている隙を見計らい、南側の狭い庭へと向かう。

小さな手をぎゅっと握りしめると、眩しい光とともに鉄のフェンスに囲まれたピカピカの『四坪ハウス』がガバッと出現した。


「わぁ……! 本当に、小牧の地でもお社(やしろ)が現れました!」


荷物を抱えたおちよが大喜びで顔を出す。

二人は涼しい居間に上がると、鶴千代はキッチンの下にある炊飯器に目をつけた。


「ねーね、お米持ってきて! これに入れるの!」


「お米でございますか? 斯波家に蓄えてあった、少し黒ずんだ安物しかございませんが……」


おちよが持ってきてお米を水道の水でシャカシャカと研ぎ、黒いお釜の中へ。そして脇の『炊飯』ボタンをペチッと叩いた。


『炊飯を開始します♪』


「まぁ! また神仏の綺麗なお声が……!」とおちよが目を輝かせる。

お米が炊けるのを待つ間、鶴千代はおちよの服の裾をきゅうっと引っ張った。


「ねーね、おかず代ちょうだい! 今夜はお肉の美味しいやつ買うの!」


「あぅ……鶴千代様のおねだりには勝てません。父上からお預かりしている生活費の残り、二文(200ポイント)にございます。今夜も極上のお肉をお願いいたしますね?」


すっかりハウスの味の虜になったおちよは、嬉しそうに二文を差し出した。

鶴千代が貯金箱へぽちょん、ぽちょんと落とし、画面をスクロールさせて見つけのは、これまたドラッグストアの定番・冷凍食品の王様だった。


【冷凍食品・パリッとハネ付きジューシー餃子(12個入り):1袋200pt】


「これにする! ぽちっ!」


ぴったり200ポイントを使い切り、テラスから「ピンポーン♪」と音が響く。

光とともに届いた小さな段ボール箱を開けると、カチカチに凍った餃子が1袋入っていた。


◇◇


午後五時すぎ。

役人所からぐったりして戻ってきた源蔵は、庭に建つ白いハウスを見て一瞬で元気を取り戻し、大急ぎで草鞋を脱いで居間へと駆け込んできた。


「若様! おちよ! 良かった、小牧の地でも神のお社が……! む、何やらもの凄く良い匂いがいたしますな!?」


ちょうどその時、キッチンではおちよがフライパンで餃子をジュージューと焼いているところだった。

油も水も不要で、並べて焼くだけで完璧なハネが出来る優れものである。

さらに、炊飯器からピピッ♪ と軽快な音が響いた。


『ご飯が炊き上がりました♪』


おちよが炊飯器の蓋をパカッと開けた瞬間、ブワッと真っ白な湯気とともに、ツヤツヤとお米の芯までふっくらと輝く、見たこともないほど美味しそうな白米の香りが広がった。


「な、何おっ……!? 我が家の安物の米が、まるでお公家様が召し上がるような純白の輝きを放っておるぞ……!」


源蔵が驚愕(きょうがく)する中、おちよがお皿にひっくり返した餃子をテーブルへと運んできた。

テーブルに並んだのは、ツヤツヤの炊き立てご飯と、きつね色の美しい「パリパリのハネ」がついた熱々の餃子(12個)。そして、清洲から持ってきたあの塩辛い大根の漬物が小皿に綺麗に添えられていた。


「げんぞう、ねーね、食べてみて! 1人よっつずつね! いただきまーす!」


「は、ハッ! いただきまする!」


三人並んでソファーに座り、おそるおそる箸で餃子を切り分ける。

パリッと心地よい音が響き、口に放り込んだ瞬間、源蔵とおちよの身体がビクッと硬直した。


「な、ななな……なんじゃこの歯ごたえはっ!? 皮はモチモチ、底はパリパリ! そして中から、熱々の肉汁が奔流(ほんりゅう)の如く溢れ出してまいりましたぞぉぉぉーーーっ!!」


中年武士の源蔵は、生まれて初めて体験する「餃子」の旨味の暴力に、大粒の涙を流してソファーの上でのけぞった。


「おいしぃぃ! 鶴千代様、お口の中がお肉の油とニンニクの香りで、すっごく幸せになります! このふっくらしたご飯が、いくらでも食べられてしまいます!」


おちよも熱々の餃子をハフハフと頬張り、炊飯器で炊いた極上の白米を口いっぱいに掻き込んで大喜びしている。

さらに、油っぽくなった口の中にあの『大根の漬物』をポリポリとかじる。

昨日まではあんなに塩辛いだけだと思っていた漬物が、餃子のジューシーな油の後だと、驚くほど口をさっぱりとリセットしてくれる最高の箸休めへと大化けしたのだ。


「若様……! この漬物、この熱き肉の菓子(ギョーザ)と合わせると、信じられぬほど白米が進みまする! なんという見事な献立の組み合わせ……っ!」


源蔵は白米、餃子、漬物、そして冷たいお水の黄金ループに、再び男泣きしていた。

そんな二人を見ながら、三歳の鶴千代も自分のソファーの上で餃子をハフハフと頬張り、美味しいご飯と漬物を食べて、ふんすと大満足で胸を張るのだった。


清洲のボロ小屋から小牧のボロ小屋へ。見た目の環境はちっとも変わらなかったけれど、この四坪の聖域がある限り、三人の食卓はいつだって天下人より華やかだ。

三歳児のちっぽけな物欲が呼び出す現代の美味しい奇跡が、今夜も小牧の夜を温かく照らしていく。

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