第20話:お庭の奉行へのご褒美と、黄金のしゅわしゅわ。
お好み焼きの追加メニューが大バズりし、連日二百食が飛ぶように売れていく四坪の焼きそば帝国。
その日の午後四時すぎ、完売の看板を出してハウスの居間に戻ってきた源蔵は、ソファーに倒れ込むなり「うおぉ……腕が、腕の感覚がございませぬ……」と抜け殻のようになっていた。
特訓の成果で見事なヘラさばきを披露しているが、さすがに毎日のマルチタスクは中年武士の体にこたえていた。
そんな源蔵の姿を、お気に入りのソファーの上から見つめていた三歳の鶴千代は、ふと頭の中の『前世の知識』を検索した。
(げんぞう、すっごく頑張ってくれてるもんね。……よし! 今夜はげんぞうにお疲れ様の『ごほうび』をあげるの!)
鶴千代はトコトコと中二階のロフトへ登ると、お好み焼きの売上で数万ポイントも貯まっている無敵の残高を使い、ドラッグストアの通販画面から『お酒とおつまみコーナー』のボタンをペチッと叩いた。
【アルコール・キンキン缶ビール(6缶パック):1,200ポイント】
【冷凍食品・ジューシー若鶏の唐揚げ(大容量パック):400ポイント】
【飲料・パチパチオレンジジュース:120ポイント】
「どっちも、ぽちっとな!」
潤沢な資金に物を言わせ、鶴千代は贅沢にボタンを押した。
次の瞬間、一階のテラス席に「ピンポーン♪」と光とともに段ボール箱が届く。おちよと一緒に箱を開けると、中から冷え冷えのアルミ缶と、カチカチに凍った大きな唐揚げの袋が現れた。
「ねーね! これ(唐揚げ)を、あっちの『ちん(電子レンジ)』に入れるの!」
「はい、鶴千代様! この黒い箱に並べて、ボタンをぽちっとですね!」
油も使わず、ただ箱に入れて数十秒待つだけ。それだけて、お部屋の中にニンニクと醤油の、じゅわぁぁ……と肉汁が爆発するような香ばしい匂いが立ち上がる。
おちよは「揚げる音がいたしませんのに、お肉から脂が溢れております……!」とまた目を丸くしていた。
◇◇
午後五時半。
テーブルの上には山盛りに積まれた熱々唐揚げと炊きたての白米。
そして、鶴千代とおちよの手には色鮮やかなジュースの缶、源蔵の前には冷蔵庫でギリギリまで冷やしておいたピカピカの缶ビールが置かれていた。
「げんぞう、いつもお好み焼きを焼いてくれて、ありがとー! かんぱーい!」
「かんぱいでございます、父上!」
「は、ハッ……! 若様、おちよ、ありがたき幸せにございまする……!」
カチンと缶を合わせ、鶴千代とおちよはオレンジジュースをゴクゴクと飲む。
源蔵は鶴千代に教えられた通り、プルタブに指をかけて、くいっと引き上げた。
プシュッッッ!!!
「ぬおっ! 箱(缶)が息を吐きましたぞ!?」
驚く源蔵をよそに、鶴千代は「そのままお口に運んでゴクゴク飲むんだよ!」と促す。源蔵は恐る恐る、黄金色に輝く液体を口に流し込んだ。
ゴクリ、ゴクリ……ぷはぁぁぁっ!!!
次の瞬間、源蔵はソファーの上で硬直した。
「な、ななな……なんじゃこの喉越しはぁぁぁーーーっ!!! 冷たくて、シャキッとしていて、口の中で小さな泡の粒がパチパチと弾けて、五臓六腑の疲れが一瞬で吹き飛んでしまいましたぞっ!!」
戦国時代の濁って酸っぱいお酒とは次元が違う、濁りなき黄金の切れ味。
源蔵が腰を抜かしていると、おちよが「父上、この『から揚げ』というお肉もどうぞ!」と掴んだ箸を差し出した。
源蔵はハフハフと言いながら、熱々のから揚げを口へと放り込んだ。
カリッと心地よい衣の音が響き、中から濃密な肉汁が溢れ出す。
「――っ!? 味が、味が濃くて、ニンニクの旨味が凄まじい! そして、この肉を噛み締めた後に、さっきの黄金のしゅわしゅわ(ビール)を流し込むと……」
ゴク、ゴク、ぷはぁぁぁっ!!
「うおおおん! 止まらぬ、箸も酒も止まりませぬーーーっ! 口の中が極楽の居酒屋になってしまいましたぞぉぉぉーーーっ!!」
源蔵は、現代の「唐揚げ×ビール」という悪魔の組み合わせの前に完全敗北し、ソファーの上でのけぞりながら大粒の涙を流して大号泣した。
「おいしいね、ねーね!」
「はい、鶴千代様! ジュースも甘くてパチパチして、とっても美味しいです!」
三歳の鶴千代とおちよは、源蔵の爆笑リアクションを見ながら、熱々のから揚げを白米と一緒にモグモグと貪り、お互いの缶ジュースをゴクゴクと飲んで、わいわいと賑やかに食卓を囲んだ。
お腹がいっぱいになった後は、熱々のお風呂で、あひる隊長をプカプカ浮かべてパチャパチャとお湯を跳ね散らかして大はしゃぎ。
お風呂から上がって、エアコンの効いた涼しい居間でゴロゴロしていると、時計の針はあっという間に午後八時を迎える。
「ねむねむ……げんぞう、明日もがんばろの……おやすみなさい、なの……」
おちよに手を引かれて中二階のベッドに入った鶴千代は、秒速で夢の中へと落ちてくいのだった。
歴史の難しいことや信長の監視なんて、この四坪の聖域の中ではどうでもいい。
みんなで一生懸命働いて、お給料を山分けして、夜はビールと唐揚げで「お疲れ様」と言い合える。
戦国時代に突如として現れた、世界一ホワイトな「四坪の焼きそば帝国」の夜は、今夜も心地よい炭酸の音ともに、最高に温かく更けていくのだった。




