第19話:鉄板の究極奥義、広島風お好み焼き!
「げんぞう、最近やきそば焼くの、すっごく上手になったね!」
ある日の午後四時、完売の看板を出したあと三歳の鶴千代はソファーに座りながらにんまりと微笑んだ。
毎日二百食を笑顔で焼き続ける中年武士の末森源蔵は、いまや二本のヘラを体の一部のように操る、城下町屈指の「鉄板の達人」と化していた。
鶴千代の脳裏に、前世の記憶から焼きそばの『究極系』の姿がパチリと閃いた。
「よし! 次はね、もっとすごいやつ作るの! 『ひろしまふう・おこのみやき』っていうんだよ!」
「お、おこのみやき……にございますか?」
源蔵がきょとんとする中、鶴千代は中二階のロフトへトコトコ登り、モニターの通販画面から、お好み焼き粉、天かす、お多福風の特性ソースをポチポチと仕入れた。
しかし、ここからが源蔵の地獄の始まりだった。
広島風お好み焼きは、ただ麺と具を炒めるだけの焼きそばとはワケが違う。
「だめ! まずクレープみたいに薄く丸く生地を伸ばすの! その上にキャベツを山盛りのっけて、ひっくり返す! ああっ、キャベツが散らばっちゃったじゃん!」
「ぬおっ!? こ、これは焼きそばとは勝手が違いすぎる……っ! 葉っぱが雪崩のように崩れてしまいまする!」
「次は横で麺を炒めて、さらにその横で目玉焼きを丸く広げて、全部をガチャンって合体させるの!」
生地の展開、キャベツの蒸らし、麺の味付け、そして薄焼き卵との合わせ技。
あまりの工程の多さと同時並行の難しさに、戦国最強の鉄板奉行も「ヘラが、ヘラが足りませぬぅぅ!」と四苦八苦して悲鳴を上げた。
それからというもの、定休日の5のつく日も、毎日の営業時間が終わった後の夜も、ハウスの明かりの下で鶴千代と源蔵の『秘密の特訓』が何日も続いた。
三歳の幼児が指示を飛ばし、汗だくの源蔵が必死にヘラを振るう、奇妙で熱い特訓の毎日。
そして、十日目の夜。
「ねーね、これ食べてみて!」
お皿の上にドンと載せられたのは、パリパリのハネがついた薄焼き卵、甘辛いソースがたっぷり塗られた太麺、じっくり蒸らされて旨味が引き出された山盛りキャベツが美しい層をなす、完璧な『広島風お好み焼き』だった。
おちよが口に運んだ瞬間、そのお目目がこぼれ落ちそうなくらい丸くなった。
「な、ななな……なんですかこれっ!? 焼きそばより何倍も濃厚で、キャベツがとっても甘くて……お口の中が極楽のお祭り騒ぎでございますーーーっ!!」
「……やった。若様、某、ついにやりましたぞ……っ!」
源蔵はヘラを握りしめたまま、達成感のあまり大粒の涙を流してフローリングに崩れ落ちた。
職人の執念が、ついに戦国時代に究極の鉄板焼きを誕生させたのだ。
◇◇
数日後。
「新メニューの『おこのみやき』だじょー! 1ぱい『ご文』だよ!」
鶴千代がフェンスの前で小さな指を五本立ててお店をオープンすると、城下町は一瞬で大パニックになった。
ただでさえ美味かった焼きそばが、お肉と卵と山盛りキャベツをまとって超進化しているのだ。
テイクアウト用の透明パックにぎっしりと詰まった重量感と、さらに濃厚になったソースの匂いに釣られ、城下町の農民や織田の足軽たちが「ワイにもくれ!」「五文なら安いべ!」と押し寄せ、お店は過去最高の大バズりを記録した。
「げんぞう、すごーーーい! かっこいいおーっ!!」
特等席のソファーから、鶴千代がちっちゃな手をパチパチ叩いて大喜びで歓声をあげる。
飛ぶように売れていくお好み焼き。
その熱い鉄板の前で、源蔵は頭に手ぬぐいを巻き、二本のヘラをまるで生き物のように美しく舞わせながら、誇らしげに胸を張るのだった。
「ハッハハ! 若様、この鉄板奉行・末森源蔵にお任せくだされ! 斯波家の未来のため、何百食でも焼き上げてみせまするぞっ!」
小牧の町を震撼させる究極の鉄板奥義をひっさげて、世界一ホワイトな『四坪の焼きそば帝国』は、今日も香ばしい煙とともに、民衆の心をガッチリと掴んでいくのだった。




