第11話:五のつく日はお休みです!
大繁盛のドタバタから数日後。
中二階のロフトで、三歳の鶴千代はホクホク顔でモニターの残高画面を見つめていた。
「これだけ貯まれば、ふつうのやきそも作れるかな……!」
画面には、日々の食費を引いたうえで、目標だった大台を突破した『102,300ポイント(1023文)』の数字が眩しく輝いている。
数日前の『35,100ポイント』から、この二、三日の猛烈な忙しさで一気に十万の大台を超えたのだ。
初めの時は二文(200ポイント)しかなかった仕入れの資金が、いまや何百倍にも膨れ上がっていた。
鶴千代は小さな指でドラッグストアの通販画面をペチペチと叩き、次々と新しい食材をカートに放り込んでいく。
「みどりの葉っぱ(キャベツ)でしょ、豚肉でしょ、赤いショウガ(紅生姜)に、青のり! これで4文(400円)の『具あり』にするの!」
具材が一気に豪華になった、これぞ現代の王道焼きそばだ。
ただ、鶴千代は前世の大学生の記憶(マーケティングの知識)をふと思い出した。
「でも、お財布が寂しい人は安いほうが嬉しいよね……。よし! 今までの『具なし』は3文で残して、新しくお肉の入った『具あり』を4文にして、ふたつのメニューにするの!」
さらに鶴千代は、前回のドタバタで大忙しだったお皿洗いの問題にも対策を打つ。
「お皿洗うの大変だから、お皿はやめて、お持ち帰り用のうすいぷらすちっくの容器(フードパック)と、割り箸オンリーにするの! 容器と割り箸代でちょっと儲けは減っちゃうけど……サービスでいいか!」
テイクアウト(持ち帰り)なら、お客さんは焼きそばを片手に城下町へ帰っていける。お皿を回収してハウスの水道でゴシゴシ洗う手間も一切なくなるのだ。
「ふふ、これ完璧じゃん!」と満足した鶴千代は、計画書(通販のカートの画面)を胸に、一階の居間へとトコトコ降りていった。
◇◇
「――というわけでね、メニューをふたつにして、お外にお持ち帰りできるようにするの」
「お持ち帰り……。つまり、お社(ハウス)の器ではなく、そのまま外へ持ち出せる南蛮の箱(容器)を配ると……!?」
居間のソファーに向かい合って座り、鶴千代の話を聞いていた源蔵とおちよが目を丸くする。
しかし鶴千代は二人の顔を見て、ふと、その目の下にうっすらとクマがあることに気がついた。
慣れない鉄板奉行を一日中やった源蔵の腕はパンパンだったし、おちよも一日中お皿を洗ってクタクタだったのだ。
(あ、げんぞうもねーねも、疲れちゃってる……。ぼくが丸投げしてお昼寝しちゃうからだ……)
ちょっとだけ反省した鶴千代は、二人のソファーの方へトコトコと歩み寄り、真剣な顔で尋ねた。
「あのね、どのくらいの数なら、無理なく作って売れる? みんなで相談しよ?」
「むっ……若様。某、斯波家の未来のためなら、腕がちぎれようとも千食でも二千食でも――」
「だめ! げんぞうが倒れたら、やきそば作れなくなっちゃうもん。一日、150食か200食くらいにしよう?」
鶴千代が短い指を精一杯広げて提案すると、源蔵とおちよはハッと息を呑んだ。
さらに、鶴千代は前世の大学生の記憶(労働基準法)を思い出して、とんでもない新ルールを付け加える。
「それとね、この国には『どにち(土日)』のお休みがないから……これからは、5がつく日(5日、15日、25日)は、お店はお休みにするの! ほわいとな会社を目指すぞー!」
戦国時代、農民も武士も年中無休で働くのが当たり前だった。
そんな時代に、三歳児の鶴千代がバシッと『定休日』を宣言したのである。
「ご、5のつく日は、お休み……? 働かずとも良い、ということでございますか……?」
おちよがきょとんとする横で、中年武士の源蔵はガタガタと激しく震え出し、ついにソファーから床へと滑り落ちて平伏した。
「おおお……なんという深き慈悲……っ! 銭を稼ぐことのみに狂わず、我ら家臣の命の平穏までを見据えておられるとは……! 持続可能な斯波家の繁栄のため、あえて休息の掟を作られるとは……やはり若様は、天から遣わされた至高の神童にございますッ!!」
源蔵が大粒の涙を流してフローリングを叩き、おちよも「鶴千代様、ありがとうございます……!」とうるうる目を輝かせている。
ただ体力がもたないから、休みが欲しいだけだった鶴千代だが、二人の熱すぎる忠誠心(勘違い)に「あ、うん、ほわいとだからね……」と小さく頷くしかなかった。
◇◇
数日後。
小牧山の麓の庭には、再びソースの焦げる暴力的な匂いが立ち上がっていた。
「はい、四文のお肉入りにございます! 割り箸もどうぞ!」
「おいらは財布が寂しいから、いつもの三文の具なしを頼むべ!」
「うおっ! どちらを選んでも、この透明な箱に入れて家に持って帰って食えるとは、なんという有難さだべぇ!」
新しく導入された『選べる2大メニュー』と『テイクアウト販売』は、小牧の城下町を文字通り震撼させていた。
プラスチックの透明な容器に入った焼きそばは冷めにくく、歩きながら食べられる画期的なファストフードとして、さらに大行列を伸ばしていく。
「おちよ、若様の仰った『二百食』まで、残り十食だ!」
「はい、父上! 本日もまもなく完売でございますね!」
無理のない数量制限と、5のつく日の定休日のおかげで、源蔵もおちよも笑顔を絶やさずに生き生きと働いている。
そんな二人を見ながら、三歳の鶴千代は自分のソファーの上で冷たいお水をゴクゴクと飲んで、ふんすと満足そうに胸を張るのだった。
歴史のことはよく分からないけれど、みんなが元気で、焼きそばも選べてたくさん売れて、ポイントもザクザク貯まる。これならいざという時の備えもバッチリだ。
戦国時代に突如として現れた、世界一ホワイトな「四坪の焼きそば帝国」は、今日も香ばしい煙を上げながら、マイペースに大繁盛を続けていくのだった。




