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27 建築者達

ブローン&マロー夫妻の迫力に負けて、橋の建築について何一つ聞く事が出来なかった。

畑に来ると橋の位置は家で隠れる。丁度やって来たパッドに夫妻を見せる事なく、橋の建築について話をする事が出来た。


「………はし、おれも見たい」


「完成したら見れるよ。それまで、うちに来るのやめとこうか。ジャウルさんが心配するし」


なんせマローは川を飛び越えられた。

いつでもこちら側に来れるのだから、パッドと鉢合う可能性は大いにあるだろう。


パッドは悲しそうな顔をした。やめろ、胸が痛む。


「…………うん」


言いたい事を全部我慢して頷いたパッドに、胸の痛みが増す。

「ごめんな」と言う俺に首を振ったが、フードを被り直すとそのまま走って帰ってしまった。


森の中に消える小さな影を見送っていると、背後からドンッ!ゴロゴロ!と聞いた事のない音が鳴り響いた。


「アンタァ!きっちり測量すんだよ!」

「分かってら!オッカァこそしっかりやれよ!」


夫妻の声は家を挟んでも尚、畑まで届いている。

俺はそろりと見に行った。


2人はどデカいスコップで岸の地面を掘っていた。ドンッ!と地面にスコップを埋め、ドシャッ!と土を掘り起こす。

固さも感じさせないスムーズな掘り進みに唖然とする。

俺なら半日は掛かるだろう作業を一発で済ませている。


対岸のブローンの背後には、先程はなかった丸太や木材が積んであった。

マジックバッグから出したと言うのか?

やっぱり俺も買うべきか。


マローとブローンは作業中はあまり喋らないらしく、黙々と土を掘ると腰のバッグから四角い石のブロックらしき物を取り出し、掘った土の所に並べていく。

ゴンゴンと手で殴りながら綺麗にはめ込むと、ブローンが丸太の方へと向かった。


「いくぜオッカァ」

「あいよ」


ブローンは軽々と丸太を一本岸に立てた。川の幅より長い丸太。

詳しく知らないが、人力で川に丸太を掛ける時、ロープをかけて川面を滑らせているイメージがある。


しかしブローンは丸太を岸に立てて、倒した。

俺の胃がひゅっと縮こまる。

倒れた先をマローがしっかりと受け止め、並べた石の上にごろんと置いた。

それを難なく繰り返している。


パワー系にも程があるだろ。

重機かよ。


ピロン

『腕のいい職人だ。あの町にこれほどの腕利きがいたとは……魔界は広いな。と監視者がしみじみと感心しています』


ウィンドウを読み、魔界の基準ではあのやり方は常識の範囲なのだと知る。

俺はそっと頷き、そっと畑に戻った。今の俺にはまだ受け止められない。

橋は完成してから見よう。


改めて畑と向かい合った時、違和感に気付いた。

静かすぎる。


「………ノックノックが戻ってない」


作業していた籠や種が点々と畑の中に散らばったままだ。

桜色の花弁が舞い散る畑に、風がさわさわと作物の葉を揺らす。

そこに地面を揺らすような大きな音。


ピロン

『どうやら完全に隠れてしまったようだな。と監視者が辺りを見渡しています』


「………元々臆病なんだもんな」


じゃがいも畑の前に置いてある籠を取る。3個のじゃがいもが入っていて、近くに引っこ抜いたばかりのじゃがいもの茎が放置されていた。

茎にはまだじゃがいもが2つぶら下がっていた。収穫途中で逃げた姿がありありと思い浮かぶ。


「………橋が出来るまで、俺1人か…」


広げた畑を見渡す。

足元をちょろちょろする影がないだけで、畑がいつもより広く感じる。


思えば、ここまで随分と手伝って貰った。


彼らが居なければ、この畑はまだ半分も出来ていなかったかもしれない。


「………厚意に甘え過ぎちゃダメだよな」


ノックノックも、パッドも、ある日突然居なくなってもおかしくないのだ。

手に持ったじゃがいもの茎からじゃがいもを千切り、地面に置いてある籠に入れた。


「先に水やりやって、収穫は後にしよう」


ピロン

『収穫後に種を蒔くのだろ?水やりは一気にやった方が早いのでは?と監視者が麦わら帽子を被りながら言っています』


目の前のウィンドウにハタと止まる。

見ているだけなのに、また無意味に麦わら帽子など被っている。

少しばかり心に這い寄っていた寂寞感や、1人でやらねばと意気込み過ぎた力が消えていく。


「いいですね、それ。俺も麦わら帽子買おうかな」


『農業と言えばやはりコレだな!今はまだ心配ないが、夏場にはしっかり用意しておけ。夏の陽射しは眩しいぞ。と監視者が麦わら帽子を磨いています』


「磨くもんなの麦わら帽って」


監視者は一体どんな麦わら帽子を持っているのか。小さく笑いつつ、じゃがいもの乗った籠をウッドデッキに持って帰り、ジョウロを掴んだ。


ピロン

『やはり先に水を撒くのか?と監視者が首を傾げています』


「俺は俺の体力をまだ信じてないんで。収穫後に種蒔いて、水やりまでするってなると、高確率で中途半端になる」


1人でやるなら地道にやらねば。

成長途中の作物達に水をやる。ジョウロは持ち手に魔力石が埋まっており、貯めた魔力に応じて貯水量が変わる。


つまり魔力が少ない俺は、何度も家と畑を行き来する事になる訳だ。井戸の方が近いのだが、なんと、桶を持ち上げる方が体力を消耗する。


ピロン

『足が鍛えられると前向きに捉えるべきか、歩く距離が増えるからすぐ疲れるのだと嘆くべきか……と監視者が悩んでいます』


「両方ですね。そのふたつは繋がってますし」


前よりは水を入れに行く回数は減ったのだが、監視者は軽口を言って来る。

明るい時間帯にこれほどウィンドウが開くのは久々だ。


水やりを終えれば、比較的収穫が簡単なアスパラガスから回り、収穫して空いた土へ入れ替わりで種を植えて、そのまま水をやる。収穫物をウッドデッキに持って帰る。

繰り返す内に、腰が引き攣るように痛んだ。


ピロン

『もう昼を過ぎたぞ。あの夫妻も昼食にしている。お前も飯を食え。と監視者が弁当を広げながら言っています』


ウィンドウの文字に笑う。


「監視者様も今からですか。先に食べてて良かったのに」


『私は懸命に働く者の横で呑気に飯を食らえる程、無神経ではないのだ。と監視者がウィンナーを揺らしています』


「そうですか、じゃあ一緒に食べましょう」


軍手の土を叩いて落とし、立ち上がる。集中していたのか、今になって空腹が気になって来た。

監視者が声を掛けてくれてよかった。

空腹状態が長く続くと今でも貧血になる。


監視者曰く『長い期間、極限状態を何とか維持していたから、体が戻るには相当な時間が掛かりそうだな』との事だ。


遠くからビルド夫妻の笑い声が聞こえてきた。

家に入る前にふと畑を振り返る。

風が無人の畑を撫でていく。昼下がりの陽光は眩しくて、青と緑の葉が煌めいていた。


やはり何かが物足りない。

そんな我儘が過ってしまう。



.

.

.



「つ、疲れた……」


ピロン

『おお!久々だな、そこまでヘロヘロになる姿は。お疲れお疲れ。と監視者がうちわであなたを扇いでいます』


汗と土に塗れ、重い足を引き摺って玄関に凭れ込んだ。

久々の完全1人作業は思っていた以上に時間が掛かった。収穫した物を保管庫に運び、最近はパッドに任せ気味だった草刈りをした。

休憩を挟みつつも、陽が沈み切る前にすっかり疲れ切ってしまった。


『助けがないと言うのに張り切るからだ。橋が出来ればノックノックもパッド達も戻ってくるだろうに。それまで無茶をせずに、畑の拡張は後回しにすればよいものを。と監視者がやれやれと肩を竦めています』


「戻って来ないかもしれないでしょ……今日は先に飯食お……」


草泥だらけの衣類を玄関で脱ぎ、脱衣所に置いている洗濯カゴに放り込む。

いつもならこのまま風呂に入り汚れを落とすのだが、今は入るとやばい気がして、先に腹を満たす事にした。

作り置きしていたポトフ(じゃがいもとアスパラガスと玉ねぎに、薄く切った肉)と買い置きしているパン。

それと肉をいくつか焼き、塩を振って食べた。


正直、米が恋しい。


一応”稲”は売られているのだが、水田を作らないといけないらしく手が出せずにいる。

飯を食べている最中も、外からドン!やらゴン!やらトンテンカンテンと作業の音がする。


「頑張ってんなァ……」


昼食を取ってから音は一度も止まない。

ぶっ続けで作業出来る体力が羨ましいような、恐ろしいような。


腹を満たして風呂に入った。

風呂といってもシャワーしかない。まあ人間界でもガス代と水道代が高くて浴槽に湯を溜めて浸かるなんて、殆どしていなかったのだが。

ここまで疲れ切るとゆっくりと浸かりたい気分になったりもする。


体を洗い、髪を乾かし、歯を磨き、寝室のベッドに倒れ込む。時刻はまだ20時前だ。

今日は早めに休むに限る。

もぞもぞと掛布団を被って目を閉じれば、冷たい布団が温まる前に眠りに落ちた。




「────……」




深夜、目が覚めた。

室内は真っ暗。寝返りを打ち、腕を布団から出した。

ひんやりとした春の夜の温度に触れて、意識が更に覚醒する。人間の抗えない欲求。排泄欲が緩やかに迫って来る。


俺は眠気を引きずりつつ、なんとか重い身体を起こしてトイレに向かった。


寝室のドアを開けた途端、外からトンテンカンテンと音が聞こえて来た。

暫く怪訝に音が聞こえる壁を見詰めていたが、聞こえないふりをしてトイレに行った。

夢かもしれないし、確認しに行く勇気はなかったから。




翌日、起床したのは朝9時半。昨日の疲れを引き摺っているのか、いつもより遅い。

本当はもっと早く、農家らしく早朝に起きたいが、体か習慣か、起きれない。

無理せずにゆっくり改善している最中だ。


顔を洗いに寝室を出た所で、足が止まった。





─────トンテンカンテン、聞こえてくる。




昨夜と同じ音。

小気味のいいリズムが不安を駆り立てる。



「………幻聴?」



俺は耳を疑った。

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